神の子と天使の逢瀬
「やばいぞ……あれがアダム様の力なのか…………」
「偉大だ…………」
神々が恐れ戦いている。その真ん中で__炎と氷を操るアダムが。身体に巻きついた炎を氷で消滅させている。感嘆の声が至る所から聞こえるが、アダムは興味が無い。
………神はそれぞれ得意な魔法がある。人智を遥かに超える、人間世界に降り立てば滅ぼすことも出来てしまう程の力を一人一人持っているが、アダムの場合それがずば抜けている。
どんな魔法も桁外れな魔力で上手くコントロールする。自然を司る神の才を持っている。
………のだが、このアダムの頭にはもう魔法を使ったことさえ覚えていない。
………今日はセラフィールと会える日だ。これが終わったらさっそくあの場所に行こう。今日はどんな遊びをするのだろう………
それを考えるだけでわくわく、ドキドキする。セラフィールが持ってくるおもちゃはいつも面白い。
セラフィールと勉強するのは楽しい。
……………早く会いたいな。
そんなことを思いながらにやけるアダムでした。
* * *
「セラ!」
「あ、アダム様!」
なんとか教師の目を盗み、いつもの場所に来ると、いつも通りセラフィールが先にいた。
セラフィールは僕を見つけるとすぐさま立ち上がって近づいてくる。
「アダム様、今日は遅かったですね。また先生に怒られたのですか?」
「ま、まあな。小煩いんだ、あの人は」
「ふふっ、汗が流れてますよ」
「っ………」
セラフィールは流れる手つきで僕の額をハンカチで拭いてくれる。………もうそろそろセラフィールと出会って1年が経った。今では愛称で呼んでいる。
こういう間柄になるほど親しくなったんだと思うと、少しだけ口角が歪むのは友達がいないせいだ。
そう思っても、嬉しいものは嬉しいんだ。仕方がない。だってセラフィールは神々なんかよりもよっぽど神のような優しい女だ。怒った顔を見たことがない。それだけ穏やかな……人外だ。
『人外』___セラフィールは、ユートピアに居る『龍神』と『大天使』の末裔で、多分僕の生まれたブロセリアンド王族の『破戒の女神』の血も混ざっている。
龍神と大天使はわからないけれど、綺麗な紅銀の髪は『破戒の女神』のものだ。セラフィールも女神の血だということは知っている。
でも、こんなに優しい人外なら人外でいいと思う。セラフィールはセラフィールだし。
そんなことを考えながら、アダムは後ろに隠していた『あるもの』を前に出した。セラフィールはそれを見て目を輝かせた。
「林檎………!美味しそうな真っ赤な林檎です!」
「うん、学校に生えていたのを拝借したんだ」
「そ、それはよいのですか……?」
「いいんだよ。大丈夫、僕の世界の物だけど、ちゃんと魔法で払ったからヨモツグヘイのようなことは起きないよ」
「ヨモツグヘイとはなんですの?」
「ヨモツグヘイというのは、異世界の物を食べたら帰れなくなるもの。僕もセラフィールのものを食べる時は魔法をかけているだろう?それをしなければ帰れなくなるんだ」
「そうなんですか………!とても不思議です!」
セラフィールは目をきらきらさせて『いただきます!』と元気に言って林檎にかぶりついた。とても幸せそうな顔で咀嚼している。
…………やっぱり、可愛いな。って、僕は何を考えているんだ………!セラフィールは友達ってだけだし、そういう気持ちでは………!
「とても美味しいです!………?どうなさいました?アダム様?」
「いっ、いや!なんでもない!」