犠牲と救出
「話は聞いてたわ~、なーにその理不尽。私、そういうの大っ嫌い。
ねえ、ラフェー」
「そうだな。………くだらない」
「アルティア皇妃様!ラフェエル皇帝様!」
セオドアはすぐさま2人に近づく。凄い血だらけでびっくりしたけれど、怪我は見当たらない。流石この2人だ。
ほっ、と安堵してるのも束の間、とんでもないことを言った。
「ねえ、ルシファー、だっけ?
___その代償、私達だけに背負わせてくれない?」
「___!何を仰っているんですか!アルティア皇妃様!」
セオドアはそう声を荒らげた。
僕も目を見開く。だって、無茶苦茶だ。ルシファーは僕達の力に興味を示しているのに。そう思ったのは僕だけではなく、ルシファーもだった。
『…………何を言っている?』
「何度も言わせないで。___私達の魂を代償にしなさいって言ってるの」
『巫山戯るな。俺の欲しいものはお前達じゃない』
「__悪魔というのも無能なのだな」
『なんだと………?』
ラフェエルはコツ、コツ、と靴を鳴らしながらルシファーの眼前に来る。
「………我々の魂を見てみろ。人の魂を喰らい、長らく血にまみれてきた極上の穢れた魂だぞ」
「そうそう!私はなんと!元龍神!純血よ、そうそう手に入らないわ」
『それを言ったら、私もだよねえ』
そう言って現れたのは、フェリクスだ。
フェリクスはにっこり笑ってルシファーに歩み寄る。
『50万年前、サタンを閉じ込めた実績もある。申し分ないだろう?
大天使、聖女、神なんかよりよっぽど___貴重な魂だぞ』
「3人とも!何を言っているのですか!?」
セオドアがまた吠える。
それを聞いた3人は、セオドアを見た。
「…………娘や孫の為ならこの命を差し出すのは厭わない」
『子孫を守りたい、子孫が生きていたからこそ___私達の生きた痕跡は繋がれていく』
「____それが、私達の生き様よ。
止めるなら、私達を殺しなさい」
「…………ッ」
セオドアはその言葉達に黙る。それを見ていたルシファーは『ふむ』と声を上げた。
『…………面白いじゃないか。自分達を売り出してくるとは………よかろう。
その厚顔無恥な要望を__受け入れてやろう』
ルシファーはパチン、と指を鳴らす。すると、サラサラとアルティア、ラフェエル、フェリクスの足元が黒い流砂で消えていく。セオドアは、もう泣いている。
「アルティア皇妃、ラフェエル皇帝、フェリクス様…………!」
『セオドア____お前達と過ごした時間は、楽しかった』
「これが終われば、もうお前達の時代だ」
「___セオくん、アダムくん、シエルちゃん、………コト」
素っ気なくそう告げたラフェエルの手を握りながら、アルティアは__いつもの溌剌な笑顔で、言った。
「____またね」
それだけいって、消えてしまった。
泣き崩れそうになるセオドアを、アダムとシエルは支える。
「…………無駄にしてはならない」
「…………泣くのは、終わってからだよ」
「ッ………ああ!」
そんな3人を見て、ルシファーは再び口を開いた。
『代償は受け取った。__お前達には、それぞれの龍神の意識に入ってもらう。
未だに苦しむ龍神たちを、救い出すんだ。代償以外の物を失うかもしれない。………しかし、やるのだろう?』
「当たり前!」
「やります!」
「当然だ」
「…………ルシファー、お願い」
『よかろう。_____良い旅を』
ルシファーは消えていった3人の黒い流砂を指で操る。一人一人の身体が包まれていく中___アダムは、セラフィールの手を握った。
* * *
真っ暗……………。
紅銀の龍___セラフィールは何もない、真っ暗な空間で蹲っていた。身体が動かないのだ。
…………わたくし、此処で何をやっているんだろう。
わからない。
わからないよ。
でも。
_____無性に、寂しくて、悲しくて、寒いよ。




