それに見合う代償は
どす黒い魔力を纏ったコトは、呟くようにその名を呼んだ。
「ルシファー…………出てきて」
「………!」
コトがそう呼ぶと、どす黒い魔力は形を作り出し___全身黒に染め、顔に大きな切り傷を作った耳の長い男が現れた。黄金色の瞳は、アルティアを彷彿させた。
『___お嬢ちゃん、やっと呼んでくれたかい?』
「………ええ。私………いいえ、私達は龍神の末裔達を救いたい。
サタンは言っていたわ。『身体を変えない限りこの闇の聖杯は力を奪い続ける』と」
『そんなことも言ってたな。あのジジイは陰湿だ。くだらねえ事を仕出かす天才さ。
……で、そっちと同じ願いか?』
ルシファーはそう言って僕達を見た。僕達が頷くと、頭をぽりぽりかいた。
『聖女、大天使、神か………いいねえ、どれもこれもいい魂をしている。これは代償を奪い甲斐があるというもの。そして、苦しむ龍神達も神と契約している。
5000年振りに大量の物を強請れるな』
「…………!アミィ、セラ、アド、フィアからも奪うのか!?」
セオドアが怒鳴ると、ルシファーはにやり、と笑った。
『当たり前だろう?しかし案ずるな、お前達よりも代償は軽い。寧ろ、身体を作り替えるんだから、苦しめている物は全てなくなるんだ、お釣りが来るくらいじゃないか?………大天使よ』
「っ、………それは………」
「…………大悪魔・ルシファー、人間を惑わすな。その前に代償は何か言え」
『おっと、これはこれは優秀な神の申し子と名高いゼウスの息子じゃないか。噂に違わぬ冷徹さ、痺れるねえ。
簡単さ___大天使は治癒血の消失、神は神の力の消失、聖女は聖の力の消失………ミコトとあと1人の魂を寄越せ』
「____!」
ルシファーの言葉に、背筋を伸ばす。
神の力の消失___つまり、僕は神ではなく人間になるということ。そして、魂を寄越せという要求。
………流石ルシファーだな。傲慢だ。
けど………それもいい。
アダムはすぐにそう思い直し、言う。
「___いいだろう。神の消失、そして生贄、どちらも引き受ける」
「アダムくん!君はセラフィールと生きる、と………!」
「そうよっ!大切な人を残して死ぬつもり!?」
「………ッ」
それぞれが僕のことを慮ってくれているのが伝わる。けど、正直そんなのどうでもよかった。
「………セラフィールと生きたい、そう思って此処に来た。けれど………僕は、セラフィールが生きれば、何でもいい」
「そんなっ………それを言ったら俺がそうしたい!俺は………治癒血を失えば、俺は俺じゃなくなる。なら!父親であり夫である俺が選ばれるべきだ!」
「そんなのダメよッ、コトちゃんが死ぬのも、セオドアさんが死ぬのも、アダムさんが死ぬのも何も変わらない!………残された人が寂しくなるだけよっ!
ねえ、ルシファーだっけ!?どうにかならないの!?」
『聖女、お前は俺よりも傲慢だなぁ。俺だって妥協しているんだよ。………何も犠牲を産まずに、何かを得られると思うな』
「………ッ」
シエルは黙る。正論だ。犠牲なしに理想など得られない。自然の摂理だ。………僕は神だ。捨てても神なのだ。プライドがある。だから____「ちょーっと待った!」………?
また、思考が遮られる。
声のした方を見ると___血だらけのアルティアとラフェエルが居た。