大悪魔・ルシファー
明るくそう告げたシエルは、笑った。
それを見て、気づいた。
____そうだよ、そうなりたいから、僕は神の座を捨てた。
セラフィールと生きたくて、それだけの為に………ここに居るんだ。
そう思ったアダムは涙を拭いた。そして、シエルと同じように立ち上がる。
「____考えるんだ。僕達は、この人と生きたいから、考える。
僕は神だ。………不可能なんて、ない」
「シエルちゃん、アダムくん………………」
それを見ていたセオドアも立ち上がった。涙をポロポロと零しながらも、それでも大きく頷いた。
「___やろう、俺達で。愛する人を………助けるんだ」
「うんっ!………で、どうすればいいんだろう………「___ひとつだけ、あります」………え?」
シエルの言葉に、ポツリとコトが言った。コトはこちらを振り向かず、アドラオテルを見ながら言う。
「助ける方法…………ひとつだけ、あります」
「コト!それは、その方法はなんだ!」
一番最初に食いついたのは、セオドアだった。当然だ、セオドアは全員家族なんだ。僕達よりも意思が固い。
コトはその言葉を受けて___こちらを向いた。涙を流し、震えながらも言葉を紡いだ。
「____悪魔と、契約をするのです」
「………悪魔?」
アダムは聞き返す。
悪魔と言えば、アンデッドの一種だ。けれども、神と比べれば雑魚同然。神の僕がどうにもできないのに、悪魔が出来るなんて…………
そう思い、口を返す。
「そんなの、無理だ。悪魔は下位のアンデッド。そんなことできない」
「できるのです。…………わたくしが、何故サタンに好かれたのか………サタンは何故、わたくしを殺せなかったのか………
それは___わたくし、いえ、私が『ルシファー』の悪魔を従えているからです」
「___!ルシファーだと!?」
アダムは声を上げた。すると、全員がこちらに目を向けた。しかし、アダムはそんなの気にせず、語り出す。
「そんな………そんな御伽噺のような悪魔を………お前は、何者だ………!?」
「アダムくん!どういうことだ!?」
セオドアは堪らず、アダムの肩を掴んだ。アダムはその真剣な瞳に、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
大悪魔・ルシファー。
前世の日本にも伝承はあるが、『ボックス=ガーデン』に伝わるルシファーは少し違った。
ゼウス、サタンと並ぶほどの神だった。
しかし、その傲慢かつ欲深い性格故に唯我独尊で、自ら悪魔に下った。それを阻止できなかったのは、ルシファーが『全ての理想を思い描く事が出来る』悪魔だったからだ。
ルシファーが思ったように、未来を書き換えることができる。望んだ物を与えることが出来る。未来予知、魂を自在に操るよりも上位の『実現』を司る神である。
しかし、何故悪魔になったかと言うと…………ルシファーはただ働きを嫌い、『代償』を得る為だ。
故にその悪魔に好かれた人間は………『理想を実現できる』代わりに『それに見合った何か』を提供しなければならないのだ。
「………それが、ルシファーという悪魔です」
「…………」
「…………」
知ってることを全て話すと、セオドアとシエルが黙った。当然だ。それだけの力を持っているのだから。
静寂の中、コトだけは黙らなかった。
「___ルシファーは、私の中に居ます。今も、私の中で『代償さえ支払えば叶えてやろう』と語り掛けてきます。
私がルシファーを使わなかったのは………お父様………いいえ、サタン様の封印があったから。そして、ルシファーもその封印を壊すほど乗り気じゃなかったから。
でも____私は、私はアド………アドラオテル様を救いたい」
コトはそこまで言って、また涙を流した。………この女はきっと、アドラオテルを愛しているんだ、と分からせた。
そして___僕も、僕もセラフィールが好きだ。愛している。
だから。
「___僕もルシファーの力を借りる」
「____私もルシファーの力を借りる」
「____俺もルシファーの力を借りる」
全員の声が揃った。思わず、お互いの顔を見る。全員、決意をした顔をしている。………ここに居る全員は、それだけ愛する人の為に動ける者たちなんだ。
コトは………目を瞑った。




