状況一変
4人の視線は僕達から逸れた。
…………何も、何も言われなかった。けど、それがいい事だとは、ラッキーだとは思えなかった。
全員の顔が曇っている。殴られた方が絶対マシだったって断言出来る。僕が殴られるだけなら、この城を出ていくだけでいい。もちろんセラフィールを連れて。
でも、それすらも許されないと言われたような心地になって、迷う。
____共に居てはならないのか?
____なあ、アマテラス。
____貴方もこんな気持ちを味わいながら、それでも妻の道を選んだのか?
貴方は強い。…………僕も、それに続く。
セラフィールと生きるためならなんだって___!?
そこまで考えて、禍々しい魔力を察知した。アダムは立ち上がり後ろを向いた。
そこには____朝、セラフィールの世話をしていた………コト、という名の侍女。黒い魔力を纏いながら胸を抑えて蹲っている。
「___伏せろッ!」
「きゃっ!」
「…………!」
アダムはそう叫ぶと同時に即座に玉座付近を包むような防御魔法を唱えた。その瞬間、玉座の間が吹き飛んだ。女帝が立ち上がる。
「これは、何事ですか!」
「………嫌な予感、するわ」
「奇遇だな、私もだ」
「あれは…………!」
「……………コト?」
「っぎゃぁぁぁぁぁっ!」
それぞれが口を開く中、侍女が断末魔のような叫び声を上げた。それと同時に___黒く染った聖杯が現れた。
____あれ、知っている。
アダムの頭の中はフル回転していた。今まで読んだ本、魔具、希少、禁忌の欄、191ページ。
「闇の、聖杯…………!?」
「アダム様……?」
そうだ。闇の聖杯だ。つまり、これは____!
「セラ!そして龍神の血を引く者!逃げろ!
防御魔法、結!」
アダムはすぐ様四角形の防御魔法を幾重にも重ねた。しかし、それは音を立てて割れた。そして。
「っあ!?」
「きゃあ!」
「なっ……!」
「っく!?」
「アル!」
「アミィ!?」
「フィア様!?」
「セラ…………!」
龍神の血を持つ全員から黒い魔力が発現して闇の聖杯に吸い取られていく。祖父___ラフェエルは怒鳴った。
「おい!小僧!闇の聖杯とはなんだ!?これは何が起きている!?」
「闇の聖杯は………ッ!禁忌魔具だッ!聖杯は元々は『人の魂』を吸い取る魔具!しかし、その中でも闇の聖杯は無限なる闇を吸う!そして、吸った魂は人ならざる者___アンデッドを生み出す糧となる!
しかしっ、あの形状は初めて見た!あれは___【『龍神』を復活させる闇の聖杯さ】____!」
知らない声が、鼓膜を揺らす。
すぐ様空を見上げた。そこには____禍々しい、耳の尖った人間。エルフとも神とも違う、生き物。
_____知っている。
あれも、伝承の書物で見た。この『ボックス=ガーデン』と繋がる世界で、何故か神が居座らないという元凶____あれは。
「サタン………!」
『サタン』___その名を呼んだのは、誰でもない闇の聖杯を持っていたコトだった。コトは大声を上げて怒鳴った。
「何故……何故貴方が、此処に………!」
【コトよ………お前は素晴らしい!初めてお前を生み出して良かったと思ったさ!
お前は『したくない』と命令を背くことは知っていた………だからお前が産まれてすぐ闇の聖杯を胸に埋め込んだのさ!
ここまで思惑通りに進むとは思わなんだ………なあ?龍神………そして、フェリクスの血筋の者よ!】
「お前は、お前は何者だッ!」
セオドアは苦しむアミィールを抱きながら怒鳴った。サタンは『これは失礼』と言ってから、言葉を重ねた。
【我が名はサタン=ワールド=ヘヴンと言う。初めまして。穢らわしき一族よ………何から話せばいいか分からぬほどの月日………しかし、我が悲願はもう目前。この世を統べる魔王なり】
「魔王………って………?」
アルティアは胸を抑えながらサタンを睨む。サタンはアルティアを見て恍惚に笑った。
【それをお前が知ることは無い。……消えよ、龍神】
「ワフゥゥゥゥゥン!」
「___!」
黒い大きな弾がアルティア目掛けて放たれる。アダムは即座に防御魔法を唱えるが___その前に、大きな犬が吠え、強い結界が生まれた。これは……僕と同じ質の結界だ。
「………っ、リ、アム………?」
苦しむフィアラセルの言葉に、茶色の犬はくるり、と回って___人型になった。茶髪の髪、黒い瞳……そして、国章である女神と剣の紋様が刻まれた男。
「貴様は………?」
【………やはり生きていたか、フェリクスよ】
『勿論だ………サタンよ。アダム、と言ったか。1番強固な結界を張れ。………あそこにいるコトも含めて』
「っ、はい!」
アダムは即座に結界魔法を唱えた。