自己紹介
「…………その者、名を名乗りなさい」
「………アダムです。他の名は捨てました」
「名を捨てた?………どういうことだ」
「それは___「セラ、君は静かにしてて」………ッ」
セラフィールが代わりに口を開こうとするものの、父親らしき男に止められた。……自分の口で説明しろ、ということなのだろう。
そう理解したアダムは静かに口を開いた。
「____『破戒の女神』・アマテラスはご存じですか」
「………アマテラス?」
祖父らしき男がぴくり、と眉を上げた。女帝も同じような顔をしているが、昨日の女と父親は分からないようだ。………そこから説明するべきだな。
「___アマテラスは、あなた方サクリファイス皇族の始祖の妻、アマテラス=ブロセリアンド=ガーデンの事です。
『運命の場所』とあなた方が呼んでいるあの場所で、アマテラスはサクリファイス皇族始祖と出会い契った。………それ故にあなた方やセラ……セラフィールの髪は紅銀の髪、紅い瞳を宿している。
そして。………私のこの瞳を見て………分かりませんでしょうか?」
「____!それは、つまり………」
「そうです。…………私の元の名は___アダム=ブロセリアンド=ガーデン。アマテラスと同じブロセリアンド王族の神でした」
アダムがそこで言葉を切ると、アルティア以外は狼狽えた。それだけ衝撃的な事実。しかし、アダムはさらに続けた。
「『運命の場所』___あなた方がそう呼んでいるあの場所で、セラフィールと出会いました。ただの子供の好奇心だった、伝承をこの目で見たいという……しかし、出会ってしまった。
それから10年、4日に1回の逢瀬を重ねました。その結果………私はセラフィールに惚れました。神が人間_あなた方は人間と言うには異様ですか_に惚れるなど滑稽かもしれませんが、事実です。
そして____私は、『破戒の女神』・アマテラスと同じ道を選んだ。
神の地位を捨てて、セラフィールの手を取った。全てを捨てて、此処に居る。………なので、ただのアダムなのです」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
全員が黙った。少しだけ心地がいい。ざわざわと耳障りだった声が消え、全員の身体を巡る膨大な、殺意を垂れ流したような魔力が揺らいでいる。
そんなことを思う僕を守るように、セラフィールが前に出た。
「___アダム様は、わたくしの愛おしい御方なのです。サクリファイス初代皇帝、フェリクス・リヴ・レドルド・サクリファイスのように神に恋をし、その手を取りました。
アダム様はわたくしを攫おうとしてくださいました。この城からわたくしを攫って逃げることも出来ました。けれど………わたくしが、この城を出たくないと言ったのです。
…………お父様、お母様、おじい様、おばあ様………お願い致します。わたくしはもう我儘を言いません。何でもします。なので……彼と共に居させてくださいまし」
「………セラ」
セラフィールはそう言ってその場で額を床につけた。僕も同じようにする。
2人の土下座を見て、4人は顔を合わせた。俺もだ。
………本当は、ぶん殴ってやろうと思った。セラフィールの純情を奪ったのは許せない。許せないけれど…………アダムと名乗った男の着ているロープはボロボロだ、穴が空いている所もある。煤けている。それだけで、何となくここまで来るのに大変だったのを感じる。
10年も共に俺たちに隠れて想いを重ねて、神という地位を捨て、自分の娘と共に生きることを選んだこの青年はとても重い決断をしたのではないか?と思ってしまう。
ぎゅ、と自分のズボンを握るセオドアを見て、アミィールは眉を下げる。あの言い伝えが本当で、セラフィールが初代皇帝のように恋をした。そんな運命を知ってしまった愛おしい御方は、迷っていらっしゃる。
…………セラフィールの話は少し置いて置きましょう。フィアラセルの話も聞かなければならないです。
「……………次はフィアラセル、あなた方のお話を聞かせてくださいまし」