複雑な父親心
「…………わたくしもセオに一目惚れをした時、幸せでした。お父様に否定された時は怒りに震えました。同じ思いをさせたく、ないのです」
アミィールはそう言って眉を下げた。
………アミィールは自分とセラフィールを重ねている。それはそうだと思う。唯一の女の子だし、気持ちがわかるんだろうが………俺はどうしても、義父であるラフェエル前皇帝の気持ちになってしまう。
大事な娘を正式な手順を踏まず、自分勝手に好きにしたのが許せないんだ。認めたくない。………認められない。
セオドアはそう思いながら眉を下げるアミィールを抱き締める。
「………ごめん、アミィ。それでも俺は簡単に認めたくないよ。大事な子供達が蔑ろにされるのは我慢ならない」
「わかっております。………今日の夜、フィアの言う婚約者とセラの結婚したいという殿方を呼びます。なので、セオはしっかり休養してください」
「………うん」
アミィールの優しい抱擁を受けながら、必死に自分を制御するよう務めた。
___今会ったらきっと俺は、その男を殴ってしまうだろう。それはよくない。
夜まで我慢だ…………!
そう、思おうとした。
* * *
「え」
その頃、セラフィールの部屋でアダムは持っていたパンを落とした。目の前にはここに連れてきてくれたアドラオテルが疲れた、と言わんばかりにげっそりしながら座っていた。
「………な?凄く馬鹿だろ、セラは。普通言わないよなぁ、親に『昨日抱かれました』って」
「だ、抱かれたなんて言ってません!」
セラフィールは勉強机に真っ赤な顔を突っ伏しながらそう大声を出した。しかしアドラオテルは頭を抱えながら言う。
「夜、好き同士が同じ部屋に居て?何も無かったです!なんて誰が信じるんだよ………なあ、アダム」
「…………だな」
アダムも頭を抱える。
………いや、確かに昨日セラフィールを抱いた。それに関して後悔はない。だがしかしそれを両親に告げるのは分からない。どんな会話の流れでそれを言ったのかは分からないが、どんな理由であれそれを聞いた親がすんなり結婚を許してくれると思わないんだ。
____セラフィールの間抜けさをよく知っているのに、これは朝起きた時に『言うな』と言わなかった俺の失態だな。
「どーするよ、アダム、今日多分父ちゃんに殴られるぞ」
「そ、そんな……「それは覚悟してる」ううっ、アダム様………申し訳ございません………」
グズグズと泣き始めたセラフィール。それに気づいたアダムははあ、と大きく溜息を着いて未だに突っ伏して泣いているセラフィールの頭を撫でた。
「………別に、言われて悪いことはしてないし、こんなに大切に育てられたセラフィールと結婚するんだから殴られて当然だ、って事だよ。
だからそんなに落ち込むな」
「ひっく、………アダム様………」
セラフィールはぎゅう、とアダムを抱き締める。アダムもそれを受け止めた。そんなイチャつく2人を冷めた目で見たアドラオテルは言う。
「………まあ、バカセラの言葉は置いといて。フィアの彼女か~。セラ、なんか聞いた?」
「いいえ。フィア、まだ10歳なのにもう……どんな御方でしょうか……」
「フィア?誰だそれは?」
「アダム様は知りませんよね。わたくし達にはもう1人、弟が居るのです。フィアラセルと言って、10歳の弟です。
その弟が、今日の夜わたくしと共に想い人を呼んでくると言っていたのです」
「へえ………10歳で想い人か」
アダムは感心する。………僕は10年セラフィールを想い続けたけど、それでも好きな人が出来たなんて親に言えなかった。兄上の言葉もあったけど、ビビってた。
だから少し感心する。僕よりよっぽど男らしいじゃないか。
………ん?というか……
「おい、アドラオテル。お前は想い人とか居ないのか?」
「ん?………俺はー……いない、かな?」
「………?」
そう聞くとアドラオテルの五月蝿い笑顔が少し大人しくなって、困った顔になった。地雷だったか………?
首を傾げるアダムを他所に、アドラオテルは『とにかく!』と声を上げた。




