父親、卒倒案件
わたくしがそう言うと、お母様が渋い顔をなさった。優しい御方で、自他に厳しい御方なのは承知ですが、わたくしだってもう大人。
フィアラセルの言ったことは分かりませんが、フィアラセルだって中途半端な気持ちではないのは伝わってきます。
なのに、お父様もお母様もそれがわかってない。親というのはなんと蒙昧なものか。嫌いではございませんが、過保護過ぎます。
そう思ったセラフィールは椅子から降りて両親の傍まで来て、最上の礼を尽くした。
「………お母様、お父様。我儘を言って申し訳ございません。
それでも、わたくしは家族に認められない結婚はしたくないのです」
「セラ、しかし………簡単には認められないよ。セラやフィアは私達の宝だ。
何処の誰かも知らない者と結婚なんて認められない。………分かってくれないかい?」
「なれば、あの御方をおふた方の元に連れて参ります。今すぐに」
「………今すぐに?」
セラフィールの言葉に、アミィールはぴくり、と眉を上げた。セラフィールはまっすぐ両親を見据えて言う。
「はい。あの御方は___わたくしの部屋におります」
「え」
その言葉にセオドアはがた、と椅子を立った。そして、よろよろとセラフィールに近づく。
「へ、部屋に居るって、そ、それは………い、いつから?」
「?昨日の夜にです。同じベッドで眠りましたが………?」
「…………………」
「セオ!?」
その言葉を聞いた途端、セオドアはその場に崩れ落ちた。すぐさまアミィールが立ち上がり受け止める。セオドアは卒倒したのだ。
アミィールは軽々と自分の旦那を姫抱きして言った。
「その件に関しては後からじっくり聞きます!フィアもです!
今日の夜までに玉座の間に連れてきなさい!話は以上です!」
それだけ言ってアミィールは旦那を連れて食堂を出ていった。その場に残されたセラフィールは首を傾げる。
「……お父様、何故倒れられたのでしょう?」
「………セラ、お前は馬鹿か?」
「え?」
アドラオテルはスクランブルエッグをスプーンで掬いながら大きく溜息をついた。
「あんなこと言ったら父ちゃんが倒れるに決まってんだろ」
「ですが、事実なので」
「お姉様………それは不純です」
「不純?愛おしい殿方と夜を共に過ごすことの何処が不純なのですか?」
「………フィア、お前はそんなことしてないよな?」
「うん。僕はまだ生殖機能未熟だし」
「………お前達、本当にどうかしてるって……」
唯一まともな価値観を持つ変人は変わった兄弟の言葉にその場でぶるり、と身震いした。
* * *
「…………ん」
「セオ!」
目を覚ますと、寝室に居た。アミィールが心配そうに俺を見ていた。何が………って!
「セラ!………っう」
「セオ、安静になさって」
倒れる前のことを思い出して飛び起きるとくらり、目眩がして倒れそうになるのをアミィールに支えられた。アミィールは眉を下げながら言う。
「大丈夫、ですか?」
「……あ、ああ……けど、セラの純潔は大丈夫じゃ、ないよな………」
そう呟いて頭上に雨が降るように落ち込んだ。
娘の想い人さえ知らずのほほんと生きてきて、気づいたらそういう関係になっているのを知るなんて、馬鹿か俺は………とにかく、その男を見極めなければ………
よろよろと立ち上がろうとするセオドアの腕を、アミィールは掴んだ。セオドアは首を傾げる。
「どうしたんだい?アミィ」
「………セオがセラを大事にしているのは、わかります。セラが婚約前にそんなことをしていたのは褒められたことではございません。
ですが…………初めて、初めてセラが自分から意見しました。あの子の……笑顔を見ました。
わたくしは………頭ごなしにそれをいけないといいたく、ありません」
「………アミィ、しかし………」