天使の本音
何故!?何故!?何故!?
頭の中がそればっかりになる。だってここはわたくしの部屋です、サクリファイス皇城に潜入できる者など居ないはずなのに………それに、アダム様が………!?
セラフィールは慌てて脱いだドレスで自分の身体を隠して声のした方を見る。薄暗い部屋の中、人影しか見えない。
夢?幻?………どちらにせよ悪質です!
セラフィールは魔法を唱える準備をして怒鳴った。
「何者ですかッ!ここはわたくしの部屋です!」
「…………でも、僕を呼んだだろう?
_____セラ」
「………ッ」
10年間、わたくしが聞いてきたぶっきらぼうな、それでいて何処か優しい声。絶対アダム様だと確信してしまう。どうしてここに?どうやって入ってきたの?……なんて疑問が沢山湧いているけれど、それを聞く余裕がなくて、わたくしは緑、風魔法を纏った弾を作り出した。
「早く居なくなってくださいまし!貴方はここに居るべき神ではございません!
幻とはいえこのサクリファイス皇城の侵入者は許せません!」
「幻?___セラ、君の中の僕の幻はこんな格好をしていると思う?」
「な、___!」
魔法により明るくなった視界には、ピンク色のドレスを着たアダム様がいて、思わず口を抑えそうになる。何故女装……それに、そのドレスはアドラオテルが隠れて街に出る時に着るドレスです。
「何故、そんな………」
「何故?…………決まっている。
___君を攫いに来たからだよ」
「攫う………って!?」
そう聞く前にアダム様は近づいてきて………わたくしが前に出していた手を、魔法の弾ごと繋いだ。
ジュウ、と言う肌の焼ける音を聞いてセラフィールは顔を真っ青にした。アダムの顔も少し歪んで、セラフィールは怒鳴った。
「アダム様!魔法が……!手をお離しくださいまし!」
「嫌だよ。離したら、また逃げられる」
「っ…………」
いくら手を離そうとしても、固く繋がれている。わたくしは化け物で強いはずなのに、殿方の手は離せない。わたくしがアドラオテルのように男であればこの手を払うどころかこんな気持ちを抱かなかった。
化け物でなければ、わたくしはこの手を取っていられたのでしょうか?ただの女として見てくださったでしょうか。
ですが………
セラフィールはそこまで考えて、下を向いて大声で言葉を並べる。
「………わたくしは、化け物です!穢れた生き物です!貴方は神です!わたくしのことなど忘れるのです!わたくしは女ではなく化け物、貴方の清い手を取ってもらう相手ではないのです!
わたくし達は……わたくし達は、結ばれることなどできない………わたくしは、何故貴方をお慕いしてしまったの………身分も弁えず、何故………でも、でもっ、わたくしはもう弁えました!だから貴方にお別れを告げたのに…………
何故………わたくしの前にいらっしゃるんですか…………!」
大切に隠していた自分の思いを怒りに任せてぶちまける。自分勝手なのは重々承知だ。だけど、言葉というのは不思議なもので。一度口に出したら止まらなくて、おまけに涙も出てきた。
「…………」
セラフィールはそのまま栓を切った様に我慢していた涙が溢れ出て、咬み殺すように黙りながらひたすら涙を流す。
そんなセラフィールに、アダムはセラフィールが片手で抱いているドレスを奪った。
「………!」




