さ迷う心
先に進むと、金髪の髪、柘榴色の瞳の侍女らしき女が立つ部屋があった。アドラオテルはそれを見ると「ちょっと待ってろ」と言って女に話しかけた。
「コト。………約束通り、連れてきた」
「…………アド様。流石でございます。
セラフィール様はまだ中で起きております。
アダム様」
「な………」
女は突然僕の名前を呼び、綺麗なお辞儀をした。
「セラフィール様をどうか____お願い致します」
熱の込められた言葉。鼓膜を揺らして、脳に伝わっていく。
…………セラフィールは、ここまで愛されているのか。
そう実感したら、無下にしてはならないと悟った。
「___ああ、任せろ」
アダムはそう言って大きく頷いて、部屋の扉に手を掛けた。
* * *
____月明かりが明るい。今日は満月なのですね。
窓枠に肘を立てながらぼんやりとそんなことを外を眺めるのは誰であろうセラフィールである。
いつもの静かな部屋。何も代わり映えのない部屋。とうとう今日は部屋を出なかったけれど良い。
……………最近何をしても、何があっても、楽しいと思えないのです。張り合いもなく、何をしても面白いと思えないのです。その理由はひとつ、アダム様と会っていないから。あれからもう一ヶ月も会っておりません。
アダム様と逢瀬をしていた時は楽しかった。執務も勉強も、アダム様に会うというだけで気持ちが弾んで何もかもが楽しく見えた。でも、もうそれはないのです。
それが自分で決めたことだと言うのに悲しくて辛くて。でも、どう仕様も無いのです。わたくしは化け物である以上、あの御方とは縁がないのだから。
セラフィールは夜着を脱ぎ捨て、裸になる。お母様やお祖母様と同じ身体だけれど、普通の人間の女性はどこか違うのかもしれません。家族以外の女性の裸を見たことないので……龍神の身体しか、知らない無知なわたくしは本当に恥ずかしいと思う。
本当にアダム様は生活の一部だったのです。離れ難いに決まっている。けれども、アダム様は神様です。わたくしのように穢れた一族の末裔が触れていい御方ではないのです。神様が人間を娶ることなどできますまい。
仮に………本当に仮にわたくしを娶られたとしても、わたくしはこの国を背負いたいと思っている。小さな頃こそ無理だ、と考えていたけれどわたくしはこの国を愛している。アドラオテルもこの国を愛していると言っていた。………2人で治めよう、と約束した。
双子の王様。前代未聞だけれど、だからこそ。『第1皇太子が20歳で必ず死ぬ』のを覆した新たな皇族だと象徴するように、第1皇太子のわたくし達が治めよう、という約束。
___だから、これでよかったの。
気持ちがどうとか関係ない。どうでもいいの。
でも……………
「___フライ」
セラフィールは魔法を唱える。大きな白い大翼を広げた。アダム様が好きだ、と言ってくれたこの翼に触れながらその場に座り込んだ。その拍子に涙を零す。
「____アダム様」
…………この時のわたくしは迂闊でした。
だって、神であるあの御方はいつもそうでしたから。
わたくしは忘れていたんだ。
「_____なんだ?」
「……………!」
彼はこの翼を出すと、現れる………ということをわたくしは忘れていたんだ。