天使は話をしたい
「こ、ここは、ブロセリアンド王族の領地だ!な、何故お前のような人間が居る!?」
僕は思わず身分を振りかざす。格好悪いのは分かっているけれど、これ以外の言い方がわからなかった。しかし、女は構わず歩行を続ける。
「………?ぶろせりあんど?人間?何を仰ってますの?此処はサクリファイス皇城ですよ?」
「さくりふぁいす………?」
「?」
「?」
知らない名前に、思わず顔を上げて首を傾げた。そんな名前、9年生きてきたけど知らない。
そこまで考えて、思い出す。
_____『破戒の女神は別の世界での境界線で人間と出会う』。
つまり、ここは…………異世界?
その結論が出ると、怖くなった。
「言い伝えは本当だったのか…………?
いやでも、そんなこと有り得ない……
何故………?とにかく、帰ろう」
そうだ。帰るべきだ。もし帰れなくなったら大変だ。僕は破戒したいとは思ったけど破戒する気はないのだ。
「ま、待ってくださいまし!」
「!?」
去ろうとしたら、女に腕を掴まれた。
そして、その拍子に思わず顔を見てしまう。大きな、吸い込まれそうな色違いの瞳は宝石のようだ。
その宝石に自分が映ってるのが、なんとなく恥ずかしくて下を向く。しかし、女は言葉を重ねる。
「申し訳ございません、わたくし、この場所のことをよく知らないのです。
宜しければ何故貴方がここに居るのか、教えてください!」
「…………ッ」
女はそう言って頭を下げた。何も知らない………?知らないのにここに居るって、どういうことだ?
全く状況が分からない中、僕より身長の低い女が見上げてきた。
「どうか、教えてくれませんか………?」
女はそう言って潤んだ瞳を向けてきた。この瞳が苦手で、見たくなくて逃げ出そうとしているのに、意外と力が強くて怯む。
____これは承諾するまで離れないな。
そう悟ったアダムは慌てて言葉を紡ぐ。
「~ッ、わ、わかった、教えるから、は、離せ………」
俺は女の手を出来る限り優しく払った。未だに目を見たくなくて、逸らしながら言葉を紡いだ。
「此処は…………『神々の庭・ボックス=ガーデン』の領地と別次元を繋ぐ場所だ」
「ぼっくすがーでん………?神々の庭?」
「………お、教えたぞ!」
「…………」
女は首を傾げた。
分かってないことが分かるが、何者とも分からない人間に、これ以上の事は教えられない。
それより、逃げるなら今のうちだ…………
そう思い、静かに去ろうとするが………女は再び僕の腕を掴んだ。しつこすぎて大きな声を出してしまう。
「な、なんだ!僕は神の王族だぞ!不敬である!」
「それは申し訳ございません、けれど、せっかく出会ったのですからお話しましょう!」
「断る!」
「なら遊びましょう!」
「断る!」
「…………もっと貴方のことが知りたいです………」
「!?」
拒否をし続けたら、女が突然泣き始めた。大きな瞳からポロポロと涙を流し始めた。自分より年下の女の子を泣かせた罪悪感というのは半端じゃない。
「な、泣くほどのことではないだろう!?泣くな!」
「では、お話を………」
「わかった!話をする!するから!」
「やったあ!」
そう言うと女は涙を流しながらもパァ、と花が咲くような笑顔を見せた。それだけでまた顔が熱くなる。
「………ッ」
「では、こちらに。お話沢山しましょう」