元龍神は愉しむ
「ふぃ~………ここまで来れば大丈夫だろ~」
「………ここは?」
やっと肩を抱いた腕が離れたと思ったら、電気ひとつ着いてない通路に着いていた。先程のように従者の視線もなく、豪奢なのに閑散とした場所だ。
「ここは俺とセラフィール、弟の部屋に続く隠し通路さ。俺達だって思春期だし?親に言いたくないことだってあるのさ~。
例えば俺が娼婦を連れ込むとかさ。そんなことしたら女帝に怒られるわ皇配には怒られるわ面倒なのよね~、だ!か!ら!俺達だけが通れる道___「あら、そんな意味がここにはあるの?」そうそ……………え」
アドラオテルの言葉が止まる。
女の声に遮られたのだ。語っていたアドラオテルの後ろには___黒のストレートヘア、セラフィールの左目と同じ黄金色の瞳、黒のドレス…………美しい、女。
それを見たアドラオテルは初めて困ったような笑みを見せた。
「これは~………激ヤバ?かも」
「だぁれがヤバいって?アード?」
「おいアドラオテル、この女は………?」
「____最強生物、龍神さ」
「…………!」
アダムはもう一度女を見た。龍神………?この女が………!?
女はコツ、コツとヒールを鳴らして言う。
「妙な魔力を感じたのよね?ゼグスやラフェエルに似た魔力。不思議だなぁ、と思ったら………ここに来ちゃったのよねえ。
で、アド?この子はどうしたの?」
「………俺の今日の伽の相手だけど?ばあちゃんには関係ないだろう?」
「ふぅん?」
「わっ!」
女はぐい、と僕の胸倉を引っ張った。顔を逸らさなければ、と思うのに逸らせないのだ。吸い込まれるような黄金色の瞳に背筋が凍った。
「あらやだ、綺麗な顔ね。けれど____」
「ッ」
帽子を取られた。顔が顕になってしまう。氷の剣を作る前に、女はにっこり笑った。
「___やっぱり、紅い唇は似合わないと思うわ」
「………ッ」
顔がバレてしまった。侵入失敗。ならば取るべき行動は1つ。
そう思い青い炎を___「アダム、ストップ」
魔力を纏う前に、アドラオテルが僕を守るように遮った。そして、女と話す。
「ねえ、ばあちゃん。俺の邪魔するなら………少し眠っててもらうよ」
「あらあらあらあら、クソガキの癖によく言うようになったじゃない。
けど勘違いしないで?私は邪魔をする気がないのよね」
「………?」
女はそう言って囀るように笑う。そして、くるりと背を向けた。
「アドが男に興味無いのを知っているし、大方セラ目的でしょう?
で、セラの落ち込みようはきっと男。………君のことなら、パッパと会いに行きなさい」
「何故………私はお前の娘を攫おうとしているんだぞ?それでもいいのか?」
女は『攫う』という言葉にぴくり、と反応する。しかし振り返ることなく、言葉を紡いだ。
「無理矢理攫うのは許せないけれど……セラがそれを選ぶと言うなら、文句はないわ。
セラの人生だもの。私がどうこうすることはない。
何より____」
女はくるり、と振り返る。
その顔に____笑みを浮かべていた。
「そっちの方が楽しそう、だもんね」
「……………ッ」
月明かりに照らされた女は恍惚の笑みを浮かべていた。また背筋が凍った。
_____龍神、ただの紛い物の神。
だけど…………それなのに、恐ろしかったんだ。
「アド、それより早く連れてってあげなさい。私が魔力で2人の気を引いておくから」
「………がってんだぞ。ほら、アダム。行こうぜ」
「……………ああ」
僕とアドラオテルは先に進んだ。