女装で潜入!?
「わからない」
アダムは断言する。
魔力を察知するなど人間如きができるわけがないし、そもそも変装が女装の意味もわからない。
故に僕が女装する理由にはならない。
不満の表情を読み取ったアドラオテルは続ける。
「この時間、セラは自室で本を読んでるか、寝ているかどちらかだよ。………穏便に、尚且つセラの元まで行けるのは、部屋の近い俺や家族、たった一人の侍女………そして、その遊び人な俺に連れられた娼婦。
ここまで言えば、お前も分かるだろう?」
「………………」
アダムは少し考える。
要は…………セラフィールに会うためには、この男の娼婦になるしか道がない、ということか………
「まぁ、無理にとは言わねえよ。だけれどセラの元に行きたいというなら、今日がいいと思うぜ?
…………あんな馬鹿でかい結界を張ったんだ。帰る道は、もうねえんだろう?」
迷いの残るアダムに、アドラオテルは追い討ちをかける。
…………そうだ。俺はもう帰る場所はない。
それだけじゃない。父上が言っていた。
『愛おしい女は死ぬ』___僕を惑わす言葉なだけならいいけど、事実であるのならすぐに傍に行きたい。………守りたいんだ、セラフィールを。
アダムの顔に浮かんでいた迷いは消え、言った。
「…………いいだろう。
今日この時だけ、恥を飲んで女装してやる」
* * *
こうして、現在に至る。
だが、兵士も馬鹿ではないらしく、女装する僕をじっと見つめていう。
「…………んん?アム…………?アドラオテル様、このような付き人はおられましたか?」
「はぁ~、お前達は馬鹿か?俺が付き人なんてつけるわけないだろう。
男ならわかるだろう?………そういうことさ」
アドラオテルがこそ、と兵士に耳打ちすると兵士は顔を赤らめて『 し、失礼しました!』と道を開けた。
「見回りお願いね~♪
…………アムちゃあん、外は寒いだろう?俺が温めてあげるからネ♪」
そう言われ、僕はアドラオテルに肩を抱かれて城内に入った。
…………部外者で、自分の姉に言い寄る僕を変装させ、こう易易と城に入らせているというのに、さきほど見たアドラオテルの口角は上がっていた。楽しんでいる。
不愉快ではあるが、その豪胆さはセラフィールには無いもので、本当に兄弟なのか?と思いながら歩いた。
* * *
廊下はどこを歩いても煌びやかだった。それなのに従者の姿はない。夜とはいえ、こんなに人気がないのは珍しいから自分の肩を抱くアドラオテルに聞いた。
「………おい、従者が1人もいないじゃないか。こんな変装、意味が無いんじゃないか?」
「馬鹿だねえ。ちゃんと周りを見てみろよ」
「?………!」
アドラオテルに言われたとおりちゃんと周りを見ると___物陰、天井、床下に僕とアドラオテルに武器を向けている従者の姿が至る所に居た。アドラオテルはとても小さな声で言う。
「…………な?これで君が普通に強行突破していたらさぞ苦労しただろうねえ。死にはしないけど痛そうだ。そもそも魔力なんて出したら女帝にバレてさあ大変。
特にセラフィールは女だから守るのも必死なんだよねえ」
「…………」
アダムはぎゅう、とドレスの裾を掴んだ。全員手練なのは雰囲気でわかる。勝てない訳では無いだろうが面倒臭そうだ。
そんなことよりも。
「…………アドラオテル、お前は何故僕に手を貸す?そんなことしたらお前は……」
「そんなの楽しいからだけだろう?
セラがお前と結婚したらお前は俺のお兄ちゃんになるわけだし?」
「んなっ………お兄ちゃんなんて………!」
「なに?照れてんの?やーだーお兄ちゃんてれてれ~」
「う、うるさ__むが!」
アダムが口を返す前に、アドラオテルはその口を塞いでにやにやする。
「声が男の子なんだから声は出さないでよ~。バレたら俺だって怒られるんだからァ」
「もがが、……」
「ほら、ひとまず人気のない秘密の通路に行くぞ」
アドラオテルはそう言って、さり気なく道の案内をした。