変人の作戦
笑いながら思う。
あのバカセラの事だ、『自分は化け物だ』と思い、塞ぎ込んでいるのだろう。アダムの近くにいたという女神だかに劣等感を抱いたのだ。そして今、『愛おしい御方』という大切な物が無くなり虚無になっているんだからしょうがない姉である。
こんな理由で落ち込んでるのも馬鹿らしい。………元々このアダムを迎えに来たのだから、好都合。
____こうなったら。
「ねえ、アダム」
「………なんだよ」
「俺が、セラの所に連れてってあげるぞ」
「いい。自分で行く。お前の手なんて借りない。強行突破してセラを攫う」
そうツン、と言うアダム。それを聞いたアドラオテルは大きな溜息をついた。
「分かってないなぁ~、この城にはおっそろしい女帝が居るんだぞ。おまけに最強生物だっている。
髪だか紙だかわからないけど、見つかったら八つ裂きだぞ?」
「僕は神だ。死にはしない。いくら龍神でも本物の神に勝てるわけがない」
「でも、セラはこの城を愛している。………そんなことしたら、君、嫌われるよ?」
「…………ッ」
『嫌われる』、という言葉にアダムは顔を顰めた。………重症だねえ。
そんなことを思い喉を鳴らすアドラオテルはび、とアダムに指さした。
「____俺にいい考えがあるぞ。
セラが傷つくことも無く、王子が姫を迎えに行く最善の方法が1つ、な?」
「…………?」
そう言ったアドラオテルの手には____ピンク色のドレスがあった。
* * *
夕方の空がすっかり真っ暗に変わった。星々が散りばめられ、大きな満月が浮かんでいる。
アダムは、セラフィールと数奇な逢瀬をし始めて10年、初めてこのサクリファイス皇城の門前に立った。自分の城よりも大きく、豊かな国だと思わせるような豪奢な風貌は違う世界の僕でも感じた。
その門を潜ると、兵士が立っている。こちらを見ると、顔色を変えて駆け寄ってきた。
「アドラオテル様!このような夜更けにどちらにいかれていたのですか!」
「ちょっくら城下町にね~。俺が襲われるわけないから大丈夫だろ?
なあ、アムちゃん?」
アドラオテルはちらり、と後ろに立つアムを見る。
顔は見えぬように大きな帽子を被り、唯一見える赤い紅を引かれた口が微かに動く。
「…………ハイ」
アム、と名乗る女___否、アダム=ブロセリアンド=ガーデンはそれだけ言うと黙る。
アダムはちらりと自分の服装に目を遣ると、アドラオテルに無理矢理着させられたピンク色のドレスに散りばめられた金箔が赤々と光る。塗られた紅は心地が悪い。
何故この僕がこのような、末代までの恥を飲んで女装などするのか?それは、この巫山戯た男の一言のせいだ。
* * *
「アダムには、俺のナンパした娼婦になってもらうぞ」
「………僕を侮辱するか」
「そうじゃないんだけどね~」
アドラオテルはピンク色のドレスをヒラヒラさせながら氷の刃を持つアダムに口を返す。そして、こう続けた。
「ただ突っ込んでは脳がないだろう?そのくらいお前でもわかるだろうに。
この城は意外と守備が固い上もう夜になるんだぜ?怒らせたらやば~い奴らが挙って集まるんだ。
全員大きな魔力には敏感さ。だからこの俺が特注した魔力を最大限に抑える女装道具を貸してやるつってんの。わかる?」