神の子の乱心
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「ひぃいいい!アダム様のご乱心だ………っが!」
ブロセリアンド城は大惨事だった。
大きな城が青い、何をしても消えない炎が轟々と燃えている。兵士と呼ばれる神達は腹や顔に氷を生やしている。
アダムはその中を走っていた。
邪魔をする者は消滅させる。
城を燃やせばその騒乱で逃げやすくなる。
前世の自分であればこのような犯罪紛いなことは出来なかっただろう。
でもなんの感情も抱けなかったのは___僕の心は神に染まっているからだろう。
でも。
僕は神を捨てる。
_____セラフィールと生きる為なら、捨てられる。
そんなことを思いながら魔法を乱舞させるけれど、アダムの周りを神々が囲んだ。全員消滅させるのは手間だな………時間が惜しい。
「アダム様………!」
「許しません………貴方を___ッ!?」
アダムは神々の言葉を聞く前に近くの窓を叩き割った。そして、間髪入れずに外に出て青い炎を更に燃やした。
………………青い炎は炎の中でも特殊だ。神でも消滅させる。全てを燃やし尽くす炎。これなら追ってこれ___「アダム様」…………!
アダムは青い炎を見るのをやめて、後ろを振り返る。そこには___側近のラウが。
「アダム様…………」
「ラウ……………」
2人は見つめ合う。………ラウは、兄上の次に仲良くしていた。五月蝿くて、生意気で、ムカつく奴……だけど、信頼していた。嫌いじゃなかった。
けれど。僕はもう………神を捨てるんだ。
甘く考えていたわけじゃない。このボックス=ガーデンを敵に回す覚悟を決めたんだ。
アダムは片手に氷の剣を持つ。そして、ラウに向けた。
「____ラウ、どけろ」
「嫌だ、と言ったらどうなさいますか?」
「消滅させる………僕は、本気だ」
「そうですか…………………では」
「_____!」
ラウはふう、と溜息をついてから身体を光らせた。そして__馬に、なった。一本角の生えた、ユニコーン。でもそれは空を飛んで移動するもので、戦うには不向きな変化である。
それを知っているアダムは怪訝な顔をした。
「………なんのつもりだ。ラウ」
『____私は、貴方の従者です』
ラウはそう言って、その場に座って続けた。
『ゼウス様に決められた関係ではありました。貴方の奔放さに、何度も悩まされたこともあります。
しかし___貴方は、もう既に私の主人なのです。
真の従者は主人の決めた事を支える。………貴方が神を捨てようと、私は貴方について行く』
「…………!」
ラウは長い尻尾で優しくアダムを包み込み、自分の背に乗せた。………本当に、面倒臭い奴。そしてとんでもない馬鹿だ。馬だけに。
アダムはそこまで考えてふ、と笑って轡を握った。
「___後悔したって、知らないからな」
『ええ。もう後悔には慣れました』
「言ってろ」
アダムとラウは笑ってから、空を飛んだのだった。
* * *
『もうすぐあの場所に着きます、アダム様』
「…………」
『…………アダム様?』
アダムはラウに跨りながら険しい顔をしていた。可笑しい、と気づいたのだ。
父___ゼウスがあの城に居なかったのだ。あんなに騒ぎを起こしたのに、居なかったのだ。それはどこか可笑しい気がする。
確か、父の得意魔法は____!
「ラウ!お前は少し高く飛んでろ!」
『?アダム___ッ!?』
アダムは咄嗟にラウから飛び降りてあの場所に降り立つ。
そこには____大きな弓を携えた父親がいた。
「…………ふん。不意打ちは効かぬか」
「____父上」