神の子は選ぶ
…………とにかく、どうにかしなければお父様もお母様も心配してしまう。それに僕だってお姉様には笑っていて欲しい。
そう思い険しい顔をするフィアラセルを見て、アドラオテルはまた大きく溜息をついて立ち上がり、大きな手で弟の頭を撫でた。
「………お前は悩まなくていいさ。俺がどうにかしてやる。
あ~ぁ、面倒な姉ちゃんを持つと弟は苦労するなぁ~」
「わわっ、頭をぐちゃぐちゃしないで、兄様」
「お前は黙って自分の好きな人のこと考えていろ」
「………ッ」
そう言うと顔を仄かに赤くする弟に、アドラオテルは小さく笑った。
* * *
その頃、ボックス=ガーデンのブロセリアンド王城。この城は、罪人を閉じ込める魔力封じの檻がある。
その1番大きな檻に____アダムは居た。
「…………ちくしょう」
ぽつり、壁に寄りかかるアダムは呟いた。
セラフィールが『もう会わない』と言ったあの日、女神を殺そうとした罪で半殺し、監禁された。もう1ヶ月経っている。
それはもういい。神は死なないし、監禁されれば何もしなくていい。
……………いや、違うな。
セラフィールの事が頭から離れず、1人になりたかったんだ。
去り際のセラフィールは___笑っていた。
いつもの心からの笑みじゃない、涙を堪えている時の顔で、笑っていたんだ。
『もう会わない』とも、言われた。
最初は腹が立った。なんで今更、って思った。
けど、こうして一人でいると怒りは収まり___悲しくなった。
セラフィールは、僕が居なくても平気なんだと思ってしまって………苦しくなったんだ。
「…………天使に嫌われる神なんて、笑えないな」
そう言いながら自虐気味に笑う。
そうすると熱いものが頬を伝った。神になってまでなんで僕は泣いているのだろう。本当に理解不能。
___僕にとっては、それだけ大きな存在だったんだ。
セラフィールのいない生活なんて考えられない。セラフィールともう会えないなんて考えたくない。
…………一緒に、生きたい。
「____そう思うなら、こんな檻を出ろよ」
「____!」
声が、檻に響いた。
衛兵の声じゃなくて、思わず檻の入口を見る。そこには………兄であるアーヴィンが立っていた。
「なんで、ここに………」
「弟の無様な顔を拝みに来てやったんだよ」
「……………」
アダムはそれを聞いて膝を抱える。
無様、か。本当にそうだ。
守りたい人と共に生きることの出来ず、この檻に篭っている僕はきっと誰よりも無様だ。
「わかっているなら、出ればいいだろう」
「出たって、………セラとは生きられない。なら、どこに居ても一緒だろ?」
アダムがそうか弱い声で言うと、アーヴィンは檻に背を向けて口を開いた。
「_____『アマテラスは人間を好きになった時、こう言った。
"神の座よりもあの御方の隣に居たい"』」
「…………?」
「『"喜んで神の座なんて捨ててしまいましょう。わたくしはあの御方と生きることを選びます"』__お前の大好きな破戒のアマテラスの本に書かれているだろう?
………それ聞いてお前は何も思わないのか?」
「………………」
アーヴァインに言われて、アダムは顔をやっと上げた。
僕は、神の自覚を強く持っていた。
神という言葉に、存在に誇りを持っていた。
でも。
_____アマテラスの気持ちが、すごく分かってしまった。
神の座よりも___好きな人の隣に、在りたい。
「…………兄上、私は………」
「…………ふん、お前が居なくなってくれれば父上は私を見てくれるだろう。
行くならとっとと行け、『堕ちた神』よ」
「___はい」
アダムは目の前にある蝋燭に手を翳した。すると炎は轟々と燃え盛り_____檻は勿論、王城を燃やした。
炎を切り裂くように外に出る弟の背中に『じゃあな』とアーヴァインは言った。




