天使との出会い
「ラウ、離して。僕はもう逃げないよ」
「なりません。アダム様はそう言ってすぐに逃げ出すではないですか。ブロセリアンド王族の神が教育拒否など、旦那様に知られては私は消滅させられます」
「…………」
アダムは顔を顰めた。
____王族も人間臭い。
僕達は一人一人が神なのに、優劣をつけて王族や平民を決めてああだこうだと言われるのは甚だ理解不能だ。
僕の思っていた神はもっと自由で、もっと自分勝手だ。
………それこそ、破戒の女神・アマテラスのような。破戒と言っているけれど、自分勝手な分神っぽいじゃん。
そう思うと、アマテラスは尊敬の域に達する。僕が思っている神はそんな神。こんな人間臭い神で居るくらいなら破戒神と言われていた方がマシだ。
____そうだ。とっととラウを撒いて、破戒の女神が人間と出会ったと言う場所に行ってみよう。
「アダム様!聞いているのですか!」
「聞いてるよ。ラウは僕が好きなんだろう?」
「何も聞いてないじゃないですか!これから旦那様の所に行き、来神の相手をして貰ってから魔力を……」
………どう抜け出そうか………
ブツブツとこれからの予定を並べるラウを他所に、アダムはぼんやりとそう考えていた。
* * *
「ふぅ、なんとか脱出したな」
アダムはそう言って汗を腕で拭う。ラウはとてもしつこい従者で、見つかると厄介だから透明になる魔法を使った。沢山使っているから中々上達していて、誰にもバレずに出てこれた。
もうブロセリアンド城からだいぶ離れているし、解いてもいいかな?
そう思い、透明化を解除した。
白いワンピースは動きやすくていい。前世では男がワンピースを着るのは変だと言うけれど、こっちの方が神っぽくて好きだ。
___僕は神としての自覚がとても強いと思う。
でも、それは仕方ないことのような気がする。だって、神と言えば誰もが憧れるだろう?なんでもしたい放題したって神だから許されるし、傷をついても10分もあれば治る。
痛いけど、死にはしない。
だから人間と僕は違うんだ。そう思うと前世よりも今の方が楽しい。
とはいえ、不満がない訳では無い。
神に生まれたのはいいけれど、王族とか由緒正しいとかうんぬんかんぬん言われるような家には生まれたくなかったなって。正直面倒臭い。
わざわざ神に生まれたのに、なんで人間のようにそんな縛りを持たなければならないのか。
理解不能、理解したくもない。
「…………あ」
そんなことを思っていると、本に書いてあった場所に来た。泉がある。あそこでアマテラスは身体を洗っていたのかな?あと、本の記述には大きな木が______!
そこで、僕の動きは止まった。
人が居た。アマテラスの髪の色だと言われる紅銀の髪、緑の瞳の小さな少女。
そして___背中の大翼。
「…………天使………?」
それは、1つの絵画のようだった。
可愛らしい女の子が翼を生やして本を読んでいる。口元には笑顔がある。
「…………ッ!」
びゅう、と風が吹いた。
白い羽根と、咲いていた花弁が舞う、舞う。
その時____少女と、目が合った。
緑色、というのは少し違った。
ここから見えなかった左目だけ___黄金色だった。
まずい、逃げなければ____「どなた、ですか?」………ハッ!
優しい声、鼓膜を揺らす。
それだけで顔が熱くなった。僕が見蕩れていた………!?そんなはずない!
そう思うけれど、女の子の顔は見れなかった。慌てて言葉を紡ぐ。