不愉快な女神
『運命の場所』に来たセラフィールは大木の後ろに隠れていた。
今日は___アダム様を驚かせようと思います。小さい頃はこうして大木の後ろに隠れてアダム様の様子を見ていました。
わたくしが居ないとキョロキョロし、肩を落とし、『ばあ!』と大きな声で驚かせると顔を顰め、しばらく口を聞いてくれなくなる………とても愛らしい御方なのです。
アダム様は………わたくしが恋慕の情を抱く御方。気づいたのは3年前。いえ、好きだった時期はもっと前かもしれません。
わたくしはもう成人しました。立派な淑女なので、恋のひとつくらいします。けれど、わたくしがお慕いしているのはアダム様ただお一人。
そう思うと送られてくる婚約の申し込みを破棄するのに躊躇などなくなりました。わたくしはアダム様以外とそんな関係になりたくありません。
……最も、アダム様がわたくしをどう思っているのかは知りませんが………
それでも、好かれるために頑張っているのです。今日も、コトにお願いして化粧をしてもらいました。ドレスもピンクと白の可愛いドレス。職人でもあるお父様の作ってくださったものの中でも可愛いものを選びました。
アダム様はわたくしより2歳年上です。年上の御方は年下か或いは年下に見える者を好きになる、とアドラオテルが言っていたから。わたくしも努力して年下のような格好をして、振り向いてもらうのです!
そう一人で気合いを入れていると、ガサリ、と草むらから音がした。見ると、銀髪を1本に束ね、紅い瞳のアドラオテルよりも細身のアダム様だ。
キョロキョロと辺りを見ている。………ふふっ、今もこうしてわたくしを探してくださるのを見ると笑みが零れてしまいます。
…………とてもひねくれているのに、可愛い御方。わたくしはお慕いしているのはああいう所があるかもしれません。
なんて、それよりそろそろ大きな声を____「アダム様!」………?
不意に、知らない女性の声がした。
見ると___わたくしより、遥かに美しい御方。淡い赤の髪に、エルフのようにとんがった耳、緑の瞳の美しい女性が。わたくしはもう一度木陰で息を潜めた。
* * *
セラフィールの姿を探しているとき自分の名を呼ばれた。
声のした方を見ると………父上が見初めて傍に置いている女神が立っていた。この女は頭がよく回り、よく様々なことを申し付けていると聞くが、僕は知らない。
つまりこの逢瀬の時間に呼ぶわけがない。
「…………何故、此処にいる?」
「ふふ、此処にアダム様がよくいらっしゃると聞いたもので。興味を持ちこちらに赴いた次第です」
そういって女神は馴れ馴れしく私の腕を抱き甘ったるい吐息をかけてくる。
この女はいつもそうだ。隙あらばこうしてベタベタと身体を密着させてくる。確かにこの女は美しい。父が見初める程の知能もあり使い出がある女だ。
だが、所詮それまで。否、この媚を売る所作が己の価値を下げている、というところか。だから名前すら知らない。興味が無いから。
アダムはあからさまに嫌悪感を出しながら冷たく言い放つ。
「離せ。不愉快だ」
「ふふふ、私を冷たく突き放してくるのは貴方様だけですわ。…………でも、そんなことを仰らないで?私、とても悲しい」