天使は気づく
お父様とお母様が居て、逃げようとしたらわたくし達は一瞬で『運命の場所』に居た。何が何だか分からなくて、アダム様を見た。
アダム様はいつもの素っ気ない顔で言葉を紡いだ。
「転移魔法だよ。………あそこに居ちゃまずいだろう?」
「…………ですが………」
セラフィールは涙目になる。
空はもう暗い。ここの森は深く、花火なんて見えない。
____デートが台無しだ。
そう思うと涙が出る。
ポロポロと泣くセラフィールに、アダムは慌てて声をかけた。
「ど、どうしたんだよ次は」
「ひぐっ、わたくし、は………アダム様とデートもまともに出来ないダメな女なのです、楽しい時間をわたくしは……滅茶苦茶に……申し訳ございません……」
涙が止まらない。誰が悪いとかそんな話じゃないのはわかっているけれど、楽しい時間を滅茶苦茶にした自分が許せなかった。
アダムはそう言って泣きじゃくるセラフィールの言葉に一瞬目を見開いてから、すぐに目を細めて、しゃがみながら泣くセラフィールに視線を合わせた。
「………セラ」
「っぐ………今は、顔を見ないでくださいまし………」
「そんなの、無理だ」
「きゃっ」
アダムはセラフィールの手を引いて、抱き締めた。突然の事でセラフィールは涙を流しながら目を見開く。
わたくし、またアダム様に抱き締められました。それだけで、胸がドキドキして、顔が熱くなっていきます………
顔をほんのり赤らめているセラフィールに気づかないアダムは、耳元で囁く。
「セラは悪いことをしてないけど、泣くほど気になるなら…………代わりに僕のお願いを聞いて」
「お願い………?」
「うん。…………セラの大きな白い翼で僕を抱えて飛んで?
空の上から、花火を見よう」
「…………!」
耳が、熱い。
けど、それよりも………驚いた。
だって元々ナナちゃんの言っていた『セラが飛んで空の上から花火を見るの!』という無茶苦茶なプランを、ひねくれているアダム様が言うと思っていなかったから。
少し離れて、アダム様を見ると……とても優しいお顔をしていた。
「………ダメ?」
「…………ダメでは、ありません。けど、驚いて……わたくしの翼は………」
「僕はセラの大きな白い翼、好きだよ」
「___ッ」
甘い、甘い言葉。
先程食べた綿菓子なんかよりも甘い。
そして、心が熱くなる。
____ああ、そうか。
セラフィールは背中から翼を生やした。そして、アダムを抱き締める。アダムも浮遊魔法を自分にかけて、共に浮上した。
それと同時に花火が空に咲き誇った。
赤、青、黄の色とりどりの花火を見ているアダムを見たセラフィールは思った。
____わたくしは、アダム様が好きだ。
ひねくれているのにどこか優しくて、それで、泣いているわたくしでも態度を変えずに普通に接してくれる………この人が、好きなんだ。
花火は365回咲き誇る。
セラフィールは花火ではなくアダムを、アダムは花火を見つつも、何度もセラフィールを見ていた。
_____この人が、好きだ。
花火大会の日、花火を見ながら2人の気持ちは合致したのだった。




