天使と神の子の花火大会!
その言葉を頑張って飲み込んで、視線を泳がせながら裏返った声を出す。
「し、仕方なくだ!僕は優しい神だからな!」
「へへ、嬉しいです……」
「~ッ!」
そう言って本当に嬉しそうな顔をして微笑むセラフィールに言葉を失うアダム。
その後、花火大会の日程やどんなことがしたいかなど話した。
そして、『花火大会』の夕方に此処で待ち合わせをしよう、と決めてからトランプで遊んだけれど、アダムはそれどころではなくボロ負けしたのだった。
* * *
花火大会、当日
「…………ッ」
アダムは逢瀬の場所で、緊張していた。
服装はいつものローブではなく……黒い浴衣。衣類の神に頼み、特注で作った代物だ。
セラフィールとの初デート。気合いが入らないなんて無理だ。前世を必死に思い出し、浴衣まで用意した。
しかし、セラフィールはどんな格好で来るのだろうか………流石にお姫様が浴衣なんて着てこないよな。そりゃあ、見たいけど。
でも、一緒に居てくれるだけで___「アダム様!」……!
「セ……ラ?」
想いを寄せる女の声がして、急いで振り返る。そこには__ピンクの浴衣を着た、セラフィールが。長い髪の毛も後ろで団子にして、簪を差している。
こんなの見蕩れないなんて、無理だ。
見蕩れているアダムに、セラフィールはぜいぜいと息を切らしながら、頭を下げた。
「っは……申し訳ございません、抜け出すのに時間がかかってしまい………」
「そ………れは、いいんだけど、その格好……」
「?………ああ、このユカタはお父様が作って下さったのです。この簪も、この手持ち巾着も。
お父様は不思議な方で、こういうものに造詣が深いのです」
そう言ってにっこり笑うセラフィール。
………セラフィールの父親というのは何者なのだろう。僕と同じ日本育ち?それにしたって自分で作るなんてできるのか………?
何はともあれ………これは嬉しい。セラフィールの浴衣姿はとても目の保養だ。
「……?アダム様?」
「ハッ、な、なんでもない!それより、行こう。花火が始まる前にセラの住む世界の街が見たい」
「ええ。案内致します。あちらに弟が作った抜け道があるので、そこに行きましょう」
セラフィールとアダムは、初めて2人で逢瀬の場所から出たのだった。
* * *
「…………………」
アダムは呆然とした。
目の前には___綺麗な中世的な街並みにはそぐわない、明らかに『日本』の屋台、出店が並んでいたから。世界観が無視されている。異様な光景なのに、街の人間達は楽しげである。
「セラ、この祭りは………なんというか、街並みに似合わない気が………」
「そうですね。これもお父様が考えてくださったのです」
セラフィールはそう言いながらカランコロンと下駄を鳴らして歩く。
___絶対その父親というのは日本人だ。
「………?アダム様、お嫌ですか……?」
「そ、そんなことない。神の世界の祭りより趣があって僕は好きだ」
「まあ、神様の世界にもお祭りがあるのですね!どんなお祭りなのですか?」
「とてもつまらないよ。そうだなぁ……」
セラフィールとアダムはそんな話をしながら出店通りを歩いたのだった。