プロローグ
龍神シリーズ第3弾です。
楽しんでいただければ幸いです。
それは偶然。
それは運命。
どんな言い方が正しいのか、その時の僕にはわからなかったんだ。
ただ、こう思った。
______天使だ。
天使。比喩ではない。
その姿は天使でしかなかった。
紅銀のふわふわとした髪、優しい緑の瞳。
そして。
大きな、とても大きな白い翼。
それを見た時____『神の子』である僕は、初めて『神』の存在を信じたんだ。
『神の子供』がここにいる理由。
それは数時間前に遡る_______。
* * *
「…………………破戒した女神、か」
ぽつり、そう呟いたのは銀髪の長髪、紅い瞳の少年だった。少年の手には『破戒した女神・アマテラス=ブロセリアンド=ガーデン』と表紙に記された古びた本が開かれている。
ストーリーはこうだ。
アマテラスは別の世界に繋がる境界線で水浴びをしていた時に、別の世界の男に出会った。
別の世界の男はアマテラスを見初め、何度も境界線に足を運んだ。
アマテラスは次第にその男を好きになり、神の座を捨てて男の手を取りこの"神しか住むことを許されぬ世界"・ボックス=ガーデンを出た。
そして、その男と結婚した。
だから、アマテラスは罪深い女神で許してはならぬ存在なのだ。
____三文小説以下の出来だな。
少年はそう思いながらページを捲ると、その女神が逢瀬をしていたという場所が記されていた。
ここからそう遠くないな………「アダム様!」…………
そんなことを思っていると、無造作に部屋の扉を開け放たれた。そこには、紫の髪、鋭い角を額に生やした黒目の男・ラウがぜえぜえと息を切らしながら立っていた。
ラウは少年を見つけるなり脱力する。
「ここにいましたか………アダム様」
「うるさいぞ。ラウ。ここは僕の部屋だ。ノックもせずに入ってくるのは礼儀にかけるのではないか?」
「貴方が『授業』を抜け出すからです!ほらほら、早く行きますよ!アダム様!」
「……………」
嫌な顔をする少年の腕をラウは引っ張り、引き摺るように歩き出す。
少年が廊下に出ると、歩いていた従者らしい格好をした神々がその場で膝を着いた。
少年の名はアダム=ブロセリアンド=ガーデンと言う。ブロセリアンドという一族は神々の住まう『ボックス=ガーデン』で、様々な世界において沢山の神を排出した優れた一族である。
____なんて人間らしい世界なのだろう。
アダムは引っ張られながらぼんやり思う。
『ボックス=ガーデン』に住まう神は、元々全員異世界の人間だった。僕もそうだ。異世界にある"ニホン"という世界で生きていた人間。
生まれた時こそ『神に選ばれたんだ!』と浮かれたものだが、今はなんの感慨も持たなくなった。
それは、神になれる存在というのは前世で『不遇な扱いを受けてきた』魂が何故か神の子として生を受けるという意味のわからない理由だからだ。
確かに僕は前世で不治の病で子供のうちに死んだ。けどそれは病気だから仕方がないことで、友達が欲しい学校に行きたいなど未練はあるものの、悔いはない。
それを勝手に『不遇な扱い』と勝手に決めつける神がもう人間臭いだろう?それに、身分みたいなものがあるのも人間臭い。人間と違うのは魔法が使えるかどうかだけだ。
そもそも転生して自由な体を得たけれど、こうして従者が引っ付いて僕に『神の子としての教養』を身につけさせようとしているのが窮屈である。