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死んでもいい

作者: C

「死んでもいいわ」

君が不意にそう言った。

あの時はなんて物騒なんだと思ったけど、

きっと君の精一杯の意思表示だったんだね。


僕らは夏のあの日夏祭りに行った。

初めて君に連絡をした時の緊張を思い出すと

よく頑張ったなあなんて思う。

「駅前に16時、少しご飯を食べて夏まつりに行こう。」

そういうときって普通女子って浴衣とか着てくるもんじゃない?

なのに君ってTシャツにジーンズ、スニーカー。

ショートヘアなんだから男の子かと思うくらいの格好で現れて、やっほーって言った。


「じゃあとりあえずファミレス行こ」

君が言った。

ぼくと君は間にリンゴ3つ分。

健全、健全。

高校生なんてこんなもんよ。

可愛らしい僕ら高校生はファミレスで可愛らしくハンバーグなんて頼んじゃって、それでセットのポテトなんて頼んじゃって、ぼくは内心焦っていた。

このままだとデートではない。

僕らはポテトを突きながら一学期の学祭のこと夏休みの残りに何するかそんなことをダラダラ話した。

「そういえば夏休みどっかいくの?」

「うん。中学の友達と街で遊ぶよ。」

「え、それって男?」

…しまった。彼女はこういうことを聞かれるのも、言われるのも嫌いだ。いつだったかラインで、「今何してるの?」と聞いたことがある。

彼女の返事はこうだ。「生きてる。」

なるほど、とりあえず話を変えよう。

「けどいいなあ街まで行けて!うち田舎だし遠いからさあ、うちからだと結構電車賃かかるんだよ!」

「いいでしょう!」

負けた、、彼女の笑顔に負ける僕。

今日も無理です。


僕らはポテトを食べ終えて店を出た。

やっぱ間にはリンゴが3つ。

人の波が僕らを押して押して、2つになったり一つになったり、そのうちにだんだん暗くなって音楽が聞こえてきた。

「花火、そろそろかな!」

人だかりでなんだか押されて危なっかしい彼女がヘラヘラ笑いながら言った。

「りんご飴買ってきてもいい!?」

「俺が買ってくるよ!」

「えー!一緒に行く!いちご飴もあるかもしれないし!」

彼女は絶対に僕に奢らせてくれない。

いちご飴を満足げに頬張りながら空を見つめている彼女。

パーーーっと紫の光が上がった

パーーーーーーンパラパラパラー

彼女の瞳が緑色に揺れていた。

君はこっちを向くとニコッとして

「綺麗だね!」っと言った。

その笑顔をまた黄色い光が飾っていた。

「うん。」

人はこういう時気の利いたセリフを言えなくなるらしい。

僕が身をもって体験した経験談だ。

彼女は綺麗だった。

花火が上がるたびに彼女の大きな瞳に花が咲いた。

少し大きめのTシャツの裾が風に揺れていた。

髪の毛が風で顔にかからないように添えられた手が

僕の手に落ちてくればいいのに。

それでやっぱり綺麗だった。

あんまり見たらやっぱりバレて欲しいけどバレてしまうので、僕も空を見た。花火の音より小さな君の息が聞こえたと思う。

うわぁとかスゴイとか似合わないくらい似合いすぎる可愛い声がたまに聞こえた。

男の子っぽいとか言われてるくせに、ちゃんと女の子だった。

パーンと最後の1つが打ち上がると寂しそうに

「もう冬かあ」

と隣から呟いた声が聞こえた

こういうところがずるいと思う。

僕らの距離にリンゴは入らなかった。

すごい人混みの中真っ直ぐに歩くのは至難の業だった。

ねえちょっと待って!とか、あれ?どこ?とか、

ならもう!と、とっさに掴んでしまったのは反則だろうか。

「駅まで!」

と僕はタクシーに乗る時のように叫び、

彼女はひとつ

「オウ」

と言った。

駅までの道は15分かそこら。

最初の10分は揉まれるように進んでいった。

ぱっと道がひらけた頃、

「あ、月」

と彼女が言った。

月が僕らを照らしていた。

「綺麗だなあ」

彼女が少し躊躇ってそしてぽそっと

「死んでもいいわ」

と言った。

僕は物騒だなあとか思いながらやっぱりまた月を見つめた。

彼女もまた月を見ていたと思う。


駅に着くと僕らは別のホームだった。

夏休みは残り2週間。

次の電車は3分後。

ひとつ逃せば3、40分は来ないこの田舎町。

「じゃあまた学校で!」

恥ずかしかったし、ぱっと華麗なターンで僕はホームに上がった。

あんなにしゃべってたくせにやけに塩らしい彼女がじゃあね!と手を挙げていた。


5年経ったいまでも花火が上がっているのを見ると

あの日君の目に咲いた花を思い出す。

あの時から数年経って夏目漱石の話を聞いた。

死んでもいいわ。

そうか、そうだったんだなあ。

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