幽霊って信じます?
ある晴れた日のこと、木から女の子が落ちてきた。
「きゃぁぁぁ!!!」
ドスン!!と大きな音を立てて綺麗に整えられた生垣に落下したのは綺麗な身なりの女の子だった。
母親が誘われたお茶会に着いてきたアランは庭を散策していたところだ。
あてもなく歩いていたがまさかこんな場面に出くわすとは、と唖然としてしまう。
とりあえず声をかけるべきか。
「あの…大丈夫?」
女の子はアランの声に驚いたようでバッと勢いよくこちらを向く。
溢れ落ちそうな大きな瞳に綺麗な金髪でいわゆる美少女な見た目と服や頭についた葉っぱや枝がミスマッチだ。
「だ、大丈夫!!あの!!これは、ちがうの!!なんとゆうか
。ほら…えっと…あなた、幽霊って信じる…?」
「…え?幽霊?」
怪我をしていないか聞こうと思ったのになぜ幽霊?とアランは思ったがとりあえず話を続けつつ少女に手を差し出す。
「ありがとう。あ、あれ…。」
手を取ったはいいが生垣の中でバキバキと枝を折るばかりでうまく立ち上がれない少女を見かねてアランは一度手を離し脇に手を入れ持ち上げる。アランよりもいくつか年下に見える少女は簡単に持ち上がるほど軽かった。
「…あの、本当にありがとう。助かったわ。」
「いいよ。でも危ないから木登りはやめたほうがいいんじゃない?女の子だし。」
ましてや少女が来ているのは上等なドレスワンピースだ。こんなに汚したのがもし妹なら母から大目玉を食らうだろう。
「ええ、そうよね。わかってる。女の子が木登りはたしかによくないわよね…。そうだ、だから、あなた幽霊を信じる?」
「あぁ、さっきも言ってたね。うーん、見たことはないけどだからといって信じないっていうのもね。どちらかと言うと信じてるかな。」
アランの答えを聞いてめんどくさそうな顔をした少女は一度咳払いをする。
「まどろっこしい言い方するわね?とにかく信じてるってことよね。」
「そうだね。」
頭やドレスについた葉っぱを払って背筋を伸ばすと真っ直ぐにアランを見つめて少女はニコリと笑った。
「こんにちは。そしておめでとう。私はあなたが初めてみる幽霊です。」
「は?」
「わかってる。いきなり言われても驚くわよね。でも本当なの。私って幽霊なのよね。この家に居付く幽霊なんだけどうっかりお散歩中に浮いてた空から落っこちちゃったわけ。」
「…君、木に登ってなかった?」
ペラペラと変な言い訳をしだした少女に思わず突っ込みを入れてしまいアランは少し後悔する。
顔を真っ赤にして目に涙を浮かべてこちらを見ている姿に罪悪感すら感じる。
小さな女の子の嘘をそのまま聞いてあげるのが優しさとゆうものだ。
「ごめん、見間違えかも。」
「そうよ!見間違えよ!木になんて登ってないし私は幽霊よ!そうゆうわけだから!助けてくれてありがとう!それではごきげんよう!」
すごい勢いで言い切り駆け足でお屋敷の方に去っていく後ろ姿に思わず笑いが込み上げる。
アランは人1人分のスペースが綺麗に折れた生垣に目を向ける。そこには赤いリボンが落ちていた。
拾い上げると綺麗に畳んでポケットにしまう。
この後紹介されるであろう婚約者候補はまだ支度に時間がかかりそうだしもう少し庭を散策してから母達のところに戻ろうとアランはまた歩きだした。