ボロアパート9
あの日、帰ってきた母親を捕まえてまた話すつもりだったが帰って来なかった。
まぁそのうち帰ってくるだろうし、ウチにいるのは知っているからと諦め、しばらくは計画通りにアイツを飼う事に集中していた。
日々、扱いは雑になり元の汚い姿以上に酷い見た目になっていった。
…気づけば3ヵ月経っていた。
そんなある日。
テレビのニュースで、2つ隣の部屋に住んでた女子中学生の事が流れてた。死んだらしい。死因は不明…。
それともう一つ。
夫婦喧嘩に巻き込まれた子供のニュース。
3年前にこの辺りのアパートで起こった事件らしい。
2歳の子供が頭を殴られて死んだって。
何でもその犯人が刑務所の中で急に苦しみ出して死んだそうだ。「なんか変な事件が続いてんだな…。ま、俺には関係ないわ。」
しっかし、あの中学生にはビビったけどな。
まさか、親と友達まで殺してたなんてな。わかんねーもんだわ。
そう言いながらアイツで憂さ晴らしする俺も俺だな。
「ははっ。お前の母ちゃん、よっぽどお前がいらないんだな。帰って来やしねぇじゃんか。たぶんお前捨てられちまったんだなぁ。」
いつも通り何の反応もない…。
「なんだよ。面白くねぇな…またいじめてやるか。」と呟きながら振り向くと、物凄い形相で睨むアイツが立っていた。
「な、なんだよ。本当の事じゃねえか。お前の母ちゃん迎えに来ないだろうが!嫌われてんだよ!」
…何だか様子がおかしい。背筋がゾワゾワする。
次の瞬間!
真っ黒な腕が伸びてきて俺の首を絞めた。
「うっ、や、やめろ…。」
ヤバい!息が出来ない…。
物凄い力で体が持ち上げられる。
このままじゃ死んじまう。
足をバタバタとさせ、必死にもがくが力はどんどん強くなる。
目の前が暗くなってきて俺は意識を失った。
……「う、う〜ん。…い、痛っ。」
首の痛みで目が覚めた時、アイツは部屋のどこにもいなかった。
「くそっ!どこ行きやがったんだ!逃げられた!」
どうせ行く所なんてないはずだ。
戻ってくるか、どっかで野垂れ死ぬだろう。
しかし、その後アイツがこの部屋に戻って来る事はなかった。
今にして思えば俺はラッキーだったんだと思う。
あの母親が死んだと聞いたのは、その日の夕方の事だった。大家の婆ちゃんが部屋を片付けに来ているのを見つけたのだ。
俺は何かわかるかもしれないと思い、手伝わせて欲しいと頼んだ。婆ちゃんは渋ったが、重い物を片付けるのに役立つと思ったんだろう。
最後には了承してくれた。