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7 口論というか罵り合い

 女神と別れ街をぶらぶらしていた俺だったが、急に目の前が光ったかと思うと、なんと別れたはずの女神が現れた。


「……何してんの?」


「……全てあなたの能力のせいです。何だっていいですから、とりあえず私の後を付いてきてください」


 そう言って女神は体を反対方向に向け歩き始める……のかと思いきや、立ち止まって俺の方をジト目で見るだけだった。


「……付いてきてくださいと言っているのですが?」


「いや、行くわけねえだろ。まずいろいろ説明しろよ」


「嫌です。時間がもったいないですし――」


「せ・つ・め・い・し・ろ」





 話を纏めると、女神が俺の前に現れたのは、さっき女神が言っていたとおり俺の能力が原因だったらしい。

 というのも俺の能力『女神の加護』は、俺と女神がある程度離れてしまうと女神が俺の元に強制的にテレポートさせられてしまうとのことだった。

 遺憾なことながら俺達の結びつきは相当強いものだったらしい。

 そういえばなんか最初の方で別行動は無理的なこと言ってたような……


「というわけで私に付いてきて貰えますか? 転生者の元に向かうにはあなたのそばを離れるわけにはいかないので」


「いやいや何で優先度お前が高めなの? こっちの都合も考えろよ」


「はぁ、ブーメラン乙です。だったら私の都合も考えてください。私はあなたに無理やりこの世界に連れてこられたんですよ? あなたが私を気遣うのは当然のことだと思いますが」


「連れてこられた、ってそれお前の完全な自爆だろ。お前が仕事サボるからそのしっぺ返しを自分で食らっただけじゃねえか。それに俺の能力名知ってるか? 『女神の加護』だぞ? 主体の俺にサブの女神が引っ付いてるってことだからな」


「そんな屁理屈でつついてくる時点で、器の大きさがしれてますよね、流石です。あのですね、私は『女神』なんですよ? 私のような偉大な存在にあなた如きがため口を利いている時点でおかしな話なんです。敬語すら使わないなんて信じられません。どうして私だけ敬語を使ってるんですか?」


「知らねーよ。じゃあお前も敬語やめればいいだろ。そもそも女神とか言ってどや顔してるけどお前全然使えねえじゃん。仕事サボるしさ。確かに女神っていう肩書きは凄いのかもしれんがお前自身がダメだから総じてダメダメなんだろ。女神の役職を笠に着るんじゃなくてもっと自分の悪い点を見つめ直した方がいいと思うぞ」


「やかましいです。あなたは人の悪口を言うしかできないどうしようもないやつですね。気付いてますか? あなたの発言はただ単に私をけなしているだけで、自分の良さをアピールしてないことに。いえ、してないんじゃないですよね? 『できない』んですよね? 自分のプラスの点を言えないから私にマイナスの評価を押しつけることしかできないんですよね。悲しい人ですね。自分に良いところがないから他人をおとしめていい気分になるなんて。よくいる典型的な陰キャタイプですね。世界はいつだって残酷です」


「いや、俺は別に陰キャじゃねし……たぶん。てかお前だって俺をディスりまくってるじゃねえか。さっきも言ったけどお前自体はなんも凄くなくて寧ろマイナス――って、こんな話してどうすんだよ」


 不毛すぎて死にそうだ。

 ……てかそもそも何話してたっけ?


「あなたがワガママを言ってるからこんなことになったんです。はぁ、最悪です。世界一時間を無駄にしたひとときでした」


 それには同感だ。

 なんでこんなやつとこんなに言い争わなきゃならないんだ。

 これじゃ意味もなく時間が過ぎていくだけだ。

 バカバカしいにもほどがある。


「とにかく、俺は行かないからな。お前がそんな態度である限りは」


「……なんですかこのむかつく生物は。ペットなんかになったらワンワン吠えまくって言うこと聞かないタイプですね」


「どういう基準だよ……。あのな。俺がその気になれば『命令』で何とでもできるんだぞ? それを使わないだけ俺の善良さが窺えるだろ」


 本当はもうこんな下らないやりとりなどしたくない。

 だが流石に無理矢理言うこと聞かせるのは違う気もするしな……。変なパスみたいなのが繋がるからある程度指示できそうな感じはあるんだけども。


「そんなんで主導権を握っているつもりですか…………はぁ、じゃあわかりました」


 女神は諦めたように溜息を吐く。

 なんだ、本当に諦めたのか?


 ……でも考えてみれば、確かに女神もかわいそうっちゃかわいそうなんだよなぁ。


 自分の責任とはいえ、この世界に閉じ込められて八方ふさがり。

 唯一の対処法を、女神からしたら格下の人間なんかに阻まれることになってしまって。

 さらにそんな人間に命令されていいように使われてしまうという屈辱。


 確かに俺が逆の立場だったら、嫌いな人間の言うことなんか聞きたくないな。

 ……うーん、これはちょっと俺も雑に扱いすぎたかな。

 腐っても女神。敬う気持ちはないけれど、もう少し人権を大切にしてあげてもいい気がしてくる……ようなしてこないような……。


「譲歩しましょう。もう口論で口説き伏せるのは止めにします。ではこれは女神からの強制命令です。あなたは問答無用で私の言うことを聞いてください。言っておきますがこの命令は私だけでなく天界のおきてにのっとった最上級のルールですからね。あなたの一存で拒否できるものではありません。ということで行きましょう。さっさと付いてきてください」


「……はぁ、らちが明かないか」


 俺はなんかもう色々諦めたい気分になってきた。

 これまでの短い経験から判断しても、間違いなくこの先ごねる。それはもうひたすらにごね続けることになるだろう。

 するとどうなるかというと、ただただ面倒い人生になる。

 今さっきの答弁が無限に続くとか、頭がいかれそうになるに決まっているのだ。


 いやぁなあ……結局俺が折れるしかないのかねぇ。

 だって俺たち二人の縁は何をどうあがいても切れることがないわけだし、じゃあ必然的にどちらかは絶対に折れるしかなくなるわけで。

 ほんとなんて言うわがままな奴なんだよ。



「なんですか、そのふてぶてしい態度は。私のすごさがまだ全然分かって――」



 女神はまだ何か言っているが、まぁでももうここまできたら別にいいかな、と思えてこなくもない。

 ゆっくり生きたいってのはあるけど、よくよく考えたら俺自身特に何か成し遂げたい野望とかもないしな。しかも元々すでに終わってる命で、これはおまけの人生みたいなものだし。さらにいえば女神と行動しながらでもスローライフ自体は送れるかもしれないしな。だってただ付いていくだけだろ? 丁度いい異世界観光みたいな感じでいいじゃないか。うんうん、なんか自分で納得できたかも。よしもうこれでいこう。



「全く仕方ないな。で、どこにいるんだ? その転生者ってのは」



 そして俺のその質問に対しなぜか少し間が空く。

 見てみれば女神の目がほんの少し――気のせいかかもしれないが、本当にちょっとだけその目が見開かれているような気がした。


「……ようやく素直になったんですね。女神のすごさがやっとわかりましたか」


「それはさっぱりわからん。で、どこなんだよ」


「私も分かりません。が、結構離れています」


「え? さっきどこにいるか分かるって言ってたじゃん」


「方角と距離は分かっています。地名が分からないだけです。この世界にさほど興味なんてなかったので」


 ああ、そういうことか。

 女神は神のエネルギーを感じとることができる。だからその転生者がどこにいるのかは分かるが、この世界の具体的な地名を知らないから答えようがないということだろう。


「はあ、なるほどな。数日とかで辿り着けそうな距離なのか?」


「そんなわけないでしょう。直線距離でも歩いて一月はかかるでしょうね」


「は? めちゃくちゃ遠いじゃねえか」


 直線距離で一ヶ月って……いろいろ考慮したら絶対それよりもかかるぞ。


「よくそれで手ぶらで行こうとしたよな。お金とか持ってないだろ?」


「それは……なんとかなる予定でした」


 おい。何とかならないやつだろそれ。


「はぁ……仕方ないなぁ」


 どうして俺が女神のために考えなくちゃならないんだろうな。



 まあ、今回くらいはいいか。

 俺も別に転生者が気にならないって言えば嘘になるし。

 同じ地球人として何を思って生きてんのかとか、聞いてみたくはある。



 そういうわけで、結局俺は女神の作戦に協力することになったのだった。……大変遺憾ではあるが。



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