6 これでようやくのんびりできるぞ!
「それは――私が送り込んだ転生者に会うことです」
現在女神は俺に、この世界を脱出する方法を教えてくれていた。
その方法というのが『魔王』を倒すことだったのだが、どうやって魔王を倒すのかと聞いてみれば、そんなことを言い出したのだ。
「……転生者」
そう言えば俺以外にも転生してるやつがいたんだったっけか、と思い出す。
異世界どきどき何とかキャンペーンみたいなやつで、死んでいった若者のうち十万人に一人が転生できるとかいう内容だったはずだ。
「私がこの世界に送り込んだ転生者はあなたを含め十七名ほどいますが、そのうち十二名ほどが戦闘系の能力を選んで転生しました。元々『ゲーム』で『魔王』と張り合いを持たせるために授けた能力なのでそのどれもが強力な能力です。ま、今となってはゲームとして成り立たなくなってキャンペーンだけが惰性のように残ってしまった感じですけどね。それもこれも魔王が強すぎるので」
へー。俺以外に十六人も転生者がいたのか。知らなかったな。
で、そのうち十二人が戦闘系能力と。やっぱファンタジーといえば戦闘というイメージがあったのだろうか。
「なるほど。でも魔王は超強いんだろ? その人達で倒せるのか?」
「それは一番の問題ですね。ですが中には凄い有能な方がいた記憶があります。その人ならなんとかなるかもしれません」
「記憶があります……って、よく覚えてないのかよ」
「何ですかその生意気な態度は。仕方ないでしょう。今から3000年以上前の話なんですから」
「はっ? 3000年……?」
「そうですよ。私が女神に就任してちょっと経ったくらいですね」
「なら今この世界で、そいつはもう3000年以上生きてるってことか?」
「そうなります」
「え、寿命とかないの?」
「転生者は全員ありませんね。完全に不老です。まあ不死ではありませんが」
とんでもないな……。
3000年とか生きてたらめっちゃ賢くなってそう。
有能なやつ……か。
一体どんな転生者なんだろう。
「なるほど。じゃあ今さっきはその転生者のところに行こうとしてたんだな」
「そういうことです」
「でも場所とか分かるもんなのか?」
「それはもちろんです。私は女神としての力は失いましたが、神エネルギーを感じ取ることくらいはできます。私が送り込んだ転生者なので、もちろん彼らは神エネルギーを放出しているわけです。ですので転生者の方達の居場所は探知することができます」
なるほど。そういう仕組みだったのか。
今思えば森の中で女神が大神殿の方角を探れたのも、神エネルギーとやらを感じ取ったからなのだろう。
大神殿は天界とやらと繋がっているぽかったしな。手紙降ってきたし。
「というわけでいい加減解放して貰っていいですか? 本当なら殺してでも立ち去りたい気分なのですが」
「ん? ああ、もう行っていいぞ」
そう言うや否や、女神はどこかへ向かってトコトコ歩いて行ってしまった。
「…………」
――これでようやく一人になれたな。
元々大神殿がダメだったらそこで別れるとか言っていたはずだし。
女神はその転生者とやらを探しに行ったわけだが、別に俺が付いていく必要もないだろう。
そんなこと手伝ったって面倒なだけだし、魔王を倒すならどうぞ勝手にしてくれって感じだ。俺は一切興味ない。
それはさておき、これでようやくゆっくりできる。
まあ、折角転生したんだし、のらりくらり暮らしていこうかな。
あいにく寿命は無限らしいし、まったりやっていけばいいだろう。
「そういや不老ってずっとこの姿のままってことだよな……」
だとしたら永遠にこの十五才のガキの体のままということになる。
せめて二十歳くらいの青年みたいな見た目にはなりたかったかも。
まあ贅沢を言っても仕方ないのは分かってるんだけどな。
「うーん、これからどうしよっかなぁ」
俺はとりあえず街をぶらぶらしてみようと、人通りのある道に出て歩く。
ひとまず生活基盤を整える必要はあるだろうな。
安定した収入を得て、ちょっとずつこの世界に馴染んでいく。
何を始めるにしてもまずはお金が入り用だ。
とはいえ俺にできる仕事なんて果たしてあるのだろうか。
力も別にあるわけじゃないし、特殊な技能なんかも全くない。
「能力があれば違ったのかもな……」
不幸にも転生時に貰える能力は、女神を召喚するとかいう雑魚能力になってしまった。
あの時ランダムとか言わずにもっとマシな能力を選んでれば良かったという後悔が押し寄せる。
マジで何やってんだって感じだが、急に死んだとか異世界転生とか言われて訳分かんなかったしな……。
今あの時に戻れれば、絶対良い能力を選んでやるのに。
「にしても新鮮だな」
道行く人は、日本にいた時とは全く違う服を着ている。
中には剣などの武器を平然とぶら下げている人もいた。すげえ物騒だが、これが世界の常識なのか。
あと異世界だからといって、特に耳の生えた生き物だったり、人間以外の生き物が歩いているといったことはない。
顔に関していえば種々様々だが、やはり髪の色が赤や緑だったりとカラフルなのが印象深いな。
と、まあそんな感じで異世界のいろいろについて、ぶらぶらと見物している時だった。
――突如、目の前が光り出した。
「え、なに……?」
目の前に光の粒のようなものが集まってくる。
周りを歩く人も、足を止めてこちらの方を見ていた。
当然だ。こんなもん気になる。
そして俺を含め通行人達が驚く最中、その光の収まりと共に現れたのが――
「……最悪です」
なんと先程別れたばかりの女神だった。
……いや何してんだよマジで。