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5 サボる奴はいろいろ軽いから立ち直りも早い

「おい、そう落ち込むなって。俺だってお前が帰れなくて嫌なんだぞ。邪魔くさいし」


 がっつり凹んでいる女神を慰めがら、俺は手に持った白い紙切れを晴れ渡る大空にかざしながら大きく溜息をつく。


 現在俺達は大神殿横のベンチに腰掛けていた。

 結局あのあと女神の狼藉は一応許されはしたが、今後の出禁を言い渡されてしまった。しかも何故か付き添いの人物ということで俺まで一緒に出禁になった。解せぬ。

 因みに天から降ってきた紙切れもいたずらはやめてくださいとか言われて突き返された。もう完全に変人扱いだ。あの時の神官さんたちの目はガチだった。



 うーん……まあそりゃ天界に戻れなくなったとなれば落ち込むのも分かるけどさ。

 どうすんのこれから?


「あのなぁ、まぁ気持ちは分からなくないけど、俺だってこんなところで生活したいってわけじゃないんだぞ? 別にこれからの暮らしにワクワクするわけでもないし。いっその事二人で心中でもするか?」


 俺は紙切れをポケットの中にぐちゃぐちゃにねじ込みながら、冗談交じりでそんなことを言ってみた。しかし女神はまるで反応しない。

 何をやっても無駄なのかね……。


 俺はおもむろに女神のほっぺを、ちょんちょん、とつついてみる。

 反応はない。

 次にほっぺを思いっきりつねってみた。

 これも反応がない。


「てか柔らかいな……――ベゴッ!」


 思いっきり顔面を殴られた。

 女神の躊躇ない左アッパーが俺の顎を下からとらえる。


「……心中ですか……それもありかもしれませんね……」


「いってーな……それは流石に冗談のつもりだったんだが?」


「ありよりのありですね。あなたがどうなるかは知りませんが、おそらく私は復活して貰えるでしょうし……」


 なるほど。

 確かに女神視点一理あるかもしれない。

 女神に関して言えば死んでも復活させて貰えそうだ。


 もっと言ってしまえば俺が死ねば『女神の加護』とかいう能力もなくなって、女神が解放される可能性もあるんだが。

 ……でも流石にそれはな……。


「……ただ」


「ただ?」


「そうなった場合天界に戻った私に席があるかといえば……」


「厳しいのか?」


「……天界の権力争いは熾烈です。大きなミスをしてしまえば、あっという間に下の階級の者たちと交代させられることになりかねません。女神候補は腐るほどいますからね」


「うん? 大きなミス……?」


「分かりませんか? ……要するに私は今あなたの『女神の加護』という能力によってここにいるわけです。つまり私がその使命を果たせなければ、それは任務失敗と同じ意味にとらえられても不思議じゃありません」


「うーん、つまり例えば俺が死んだりしたらそれはもうアウトってことか……?」


 女神は俺の能力『女神の加護』によって、俺をサポートするためにここにいる。

 俺が死ねば女神はしっかりサポートできなかったと見なされて、ミスとしてカウントされてしまうかもしれない。

 そうなれば、罰として、他の女神候補の誰かと女神の座を交代させられかねないということだろう。たぶん。


「でもそれを言うならそもそも仕事サボってこんなことになってる時点でもうアウトじゃね?」

「それは……まぁ、大丈夫という線にかけましょう」

「どこが大丈夫なんだよ。なんの根拠があってそんなこと言ってんの?」

「とにかく、私はもうこれ以上ミスを増やすわけにはいかないというわけです。というかもう既にかなりのイエローカードがかさんでヤバい――ってなんでこんな話をあなたにしなくちゃならないんですか。それに近いです。同じいすに座らないでください」


 ええ……今更かよ……。

 仕方ないので俺は大人しくベンチから立ち上がり、うんっ……と背伸びをした。


 なるほど、つまりもうこいつは天界においてかなりすれすれの位置にいるというわけだな。これ以上ミスをすると、どうにかこうにかもうヤバいらしい。

 ていうかそんなにミスが嵩んでるってことは、やっぱりこれまでも散々仕事サボってたんだな。

 そしてそのしわ寄せが今になって来てしまっていると。

 マジで自業自得だな。自分で蒔いた種は自分で刈り取るとはよく言ったものだ。

 本当救いようがない。かわいそうな奴。


「はぁじゃあ、俺達は死なない路線で行くってことでいいんだな」


「そうですね。流石に女神の座の陥落はマズいです。あの地獄にはもう戻りたくありません」


 地獄って……天界も過酷な場所なのだろうか。


「てか急に元気になったよな。やっぱり俺のほっぺつねりが効いたのか?」


「ある意味効きましたね。吐き気がしました。……ただそれに関しては開き直っただけです。大母神様がそのまま使命を全うしろ、とおっしゃるのであれば仕方ないので」


 あれだけ落ち込んでいたのに、立ち直るのは結構早いようだ。

 まあ仕事サボるくらいだし、いろいろ軽いんだろうな。


「だったらこれからどうするつもりなんだよ。使命を全うするっていうなら、俺が死ぬまで俺のサポート要員として生きていかなきゃならねんじゃねえの」


「そんなの死んでもごめんです。だから第二の作戦に出るとします」


「第二の作戦?」


 そう言うなり女神は立ち上がってどこかへ行こうとする。


「おい、どこ行くんだよ」


「あなたに教える義理はありません」


 ……でた。またこれだ。


「女神さん? お・し・え・て」


 すると俺の言葉に反応し、女神の動きがカチリと止まる。

 俺と女神との間で見えないパスが繋がってる感覚だ。

 そしてそのままこちらに振り返り、俺の前まで戻ってきた。


 ……この能力――『女神の加護』って思いっきり女神を奴隷化してるよな。そんなこともないか? まぁある程度鎖で繋いどかないと何しでかすかわからないからな。犬を繋ぐちょうどいいリードなのかもしれない。となると差し詰めペット化といったところか?

 戻ってきた女神は、忠実にすらすら語り出した。


「この世界から私が抜け出す方法は、実はもう一つだけ残されています。それというのも――『魔王』を倒すことなんです」


「魔王?」


 ゲームなどのラスボスによく登場しているアレだな。この世界にもいたのか。まぁ異世界だしな。


「実は元々この世界が創られた目的というのは、転生者達に『ゲーム』をして貰う目的だったんですね。そして、そのゲームのクリア条件というのが『魔王』を倒すこと。魔王を倒せばこの世界は『攻略』されたと見なされ、自動的に消滅します」


「……とんでもない裏事情だな……」


 衝撃の事実に普通に驚く。


「ですから魔王を倒せば合法的にこの世界から脱出できるという訳です」


 ……まあ、なるほど。

 その言葉を鵜呑みにするとして、確かにこの世界が終われば女神がこれ以上俺をサポートする必要もなくなるだろう。

 まあその場合世界の終わりと同時に俺は死ぬってことになるだろうけど。


「ふーん。でも魔王って簡単に倒せるのか? 何か今意気揚々とどっか行こうとしてたけど」


「そんな簡単に倒せるわけないでしょう。もうこの世界が誕生してから1億2000万1165年にもなるんですよ? その間ずっと魔王は倒されていないということですから」


「……無理ゲーじゃねえか」


 魔王強すぎる。


「でも今の言動的にも、女神であるお前なら勝てるってわけ?」


「……今の私じゃ無理ですね。天界にいた時の力が使えないと言ったでしょう。今の私は非力な町娘と同程度の戦闘力です」


「よわ……じゃあ今どこ行こうとしてたんだよ」


 負けるなら魔王のところに行っても意味ないじゃん。


「そんな考えなしに私が動くわけないでしょう――秘策があります」


「秘策?」


 女神は一拍空けたかと思うと口を開いた。





「それは――私が送り込んだ転生者に会うことです」





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