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12 こいつの気持ちが初めて分かった気がする

「ちょっと! 結局あんたの目的は何なんすか!」


 決闘が終わり、一旦ギルドの中へ戻ってきたところで、女神がオレンジ短髪少女に問い詰められていた。

 どうも納得いっていない感じだ。

 因みに俺は相も変わらず少し離れた位置で見守っている。


「だから言いましたよね。そちらの人に付いてきてもらうと。そしてこうも言いました。後からやっぱりやめだとかはなしだと」


「そ、それはそうっすけど! そうっすけど何か違うじゃんっ!」


「図々しいにもほどがありますね。自分の意見を一方的に押しつけるだけなんて、性格の底がうかがい知れます。ろくな死に方しなそうです」


「だ、だってユユは――」


「――そうね。約束は約束だわ」


 合間に入ってきたのは白黒の髪の女。エルフーレやらリーダーなどと呼ばれていた人物だ。


「私たちの負け。それは認めましょう。でもだからこそ一度しっかりと話し合いたいの。少し時間をいただいてもいいかしら?」


 なんだ、この期に及んで何かしようとしてるのか。


「はぁ、まあ身内の事情ということでしょうか……仕方ないです。許可します」


「ありがと。じゃあ部屋を用意しましょう。ギルドの待合室が空いていたと思うから」


 負けたというのにそれほど取り乱した様子のない白黒の女が、受付へ向かって優雅に歩いて行く。

 その後ろを女神の方をひと睨みしたオレンジ髪少女と、その他メンバーが付いていった。


 ……なんかすげえ事なってんな……。


 何はともあれ今が女神と話すチャンスだ。

 未だ変わらず注目を集めていた女神へとこっそり近づいて話しかける。


「……おい。よく決闘とか受けたな」


「……ああ、誰かと思ったらあなたですか。そういえばいましたね」


「いや、ホント何ていうかお前らしくないというか……ルールとか無視してもっと強引に行くものかと思ってたわ」


 街に入る際門番とあれほどもめ合っていた女神らしからぬ今回の対応に、少なからず驚きを隠せない。

 決闘を持ちかけられても、『そんなのどうでもいいので』とか言うのがこれまでだったはずだ。


「それはこの世界がそういうものだと理解したからです。私の権威が行き届かないとわかれば、人間たちのルールにのっとるほかありませんからね。仕方ないです」


 女神はなんともないようにそんなことを言ってのける。


 ……なんか急に成長した感あるんだが、気のせいか?


「そうか。お前もその辺がようやく分かったんだな」


「何ですか偉そうに。結局私任せで自分はなにもしていないくせに」


「あー……それはマジで悪い」


 今回の功績は100パーセント女神によるものだ。

 俺はといえば眺めてるくらいしかできなかったからな……。


「まあでもなんか良い感じに事が運んだな。まさかあの子をスカウトできるとは……。これで転生者のところにも行けるんじゃないか?」


「そうですね。なにやら話があるようですが」


 女神が視線を向けた先には、白黒の女が一人歩いてきていた。


「席がとれたわ。そちらで話すとしましょう…………隣の人は?」


 当然ながら女神のすぐ隣にいた俺のことが気になるようだ。


 あー、うん。どこにも隠れられないよな。


「初めまして。えーと、一応女神の飼い主です」


「ふざけないでください。ただのおじゃま虫でしょう」


「いや、それはお前目線の話で……あ、とりあえず仲間的な立ち位置の者です」


「そう……」


 白黒の女は気持ち目を細めこちらを観察してくる。

 邪気眼がどうのこうの言っていた能力で、俺を見透かしているのかもしれない。


「…………」


 白黒の女はかなりの時間黙っていた。

 そんなに見つめられると普通に照れるんだが。よく見たらこの人相当美人だし。


「……いいわ。ではあなたも来てもらえるかしら」


「あ、わかりました」


 というわけで俺は女神と共に女の後ろに付いていった。



 ○



 その後、ギルド内部に設けられていた会議室のような場所に俺たちは通された。

 室内は結構広く、お互いの顔が見合えるように席が配置されている。


 すでに腰掛けている他のメンバーを横目に、俺たちも席へとついた。

 俺の場違い感が半端じゃないが、女神の横で大人しく縮こまっておこう。

 切り出したのはやはり白黒の女だった。

 女神はここまで妙に大人しく言うことに従っている。


「決闘はアルトさん、あなたの勝利よ。負けた私たちはユユをあなたに贈る。それには違いないわ」


「何がいいたいんですか? 簡潔にいってください」


 女神がぴしゃりと言い切る。

 こういうところは謎の大物感があるんだよな……。


「そうね。では忌憚なく言わせて貰うけど……私たちはあなたにもっと寄り添えると思っているの。だからユユを欲した理由を聞きたい。場合によっては決闘の報酬以上の成果が期待できると思ってる……分かるでしょ?」


「なんですか。はぐらかそうとしてるんですか? 何はともあれ、そのユユとかいう人を私が譲り受けるということは変わりないですのでそのつもりでいてください」


「それは勿論よ。でもこういう事を言うのも小癪だとは思うけれど、『あげる』という表現も随分と中途半端なニュアンスを含んでいると思うのよね。その辺の解釈を一致させるのがこの集まりであると思って頂けるかしら?」


 うーんと……なんだ? 全然わからんのだが。


「簡単にいってといいましたよね。この下らない問答を繰り返すのもうんざりなのでいいますが、私はある場所に安全に辿り着きたいというだけです。その道中の戦力を探していたら丁度いいのがいたので貰っておいたまでです」


 その他にも女神は冒険者を雇おうにもお金がなく無理なことや、稼ごうと思っても稼ぎのいい仕事がなかったため困っていることなどを向こうへ伝えた。


「……本当にそれだけのことなの? ユユを何かに利用しようといった魂胆は……?」


「だから道の途中の護衛をして欲しいだけといってるじゃないですか。はぁ、皮肉なことにこういった繰り返しにもだいぶ慣れてきましたね。人の話をちゃんと聞いてください」


「……あーっと、この人の言ってることは本当ですよ。マジで金がなくて困ってたんです」


 俺は会話に参加できるチャンスと思って助太刀に入った。

 白黒の女たちはお互い顔を見合わせる。

 信じられないといった様子だったが、否定する要素もなく考えあぐねていることが窺えた。


「本当にそれだけのことで私たちに決闘を……」


「だとしたらかなりヤバいっすよね……」


 彼女らは見るからに呆れていた。

 恐らくもっと大層な理由がくると構えていて、それがすかされたため拍子抜けしているといったところだろう。

 とりあえずのところは信じてくれているようだった。


 てか信じるも何も、そもそも信じてもらう必要もないんだけどな……。

 向こうが納得するかしないかはこちらにはどうだっていい話だ。


「因みに、その行きたい場所というのはどちらまで?」


「徒歩で一ヶ月以上の距離ですね」


 女神が即答する。


「明確な場所は分からないのかしら?」


「分かりますよ。位置はリアルタイムで正確に把握できます」


「あ、僕たちこの辺の地理に疎くて、地名とか全然分かんないんですよね」


 それを聞いて白黒の女は再び考える素振りを見せる。


 ……なんかちょっと面倒臭くなってきたな。


 隣を見てみても女神は真顔ながらも、うんざりといった雰囲気を放っていた。

 それに関しては同感である。


「……人間とはやはり無能な生き物ですね。この程度に長考することに何の意味があるというんですか……」


 ――ああ。なるほど。


 女神がさっきからここまで大人しくしている意味をようやく理解した。


 さっきも話していたが、恐らく女神はこの世界の人間のルールに何とか合わせようと努めているのだ。

 自分の価値観で動けばあまり良い結果にならないことを理解したがために、この世界に適応しようとしている。


 元々女神にとって神としての超常的な力は当たり前のもので、力を失った直後は振る舞い方がよく分からずに暴走してしまったといったところだろう。



 それというのは、例えば俺が急に手足がもがれたという状況にも似ているかもしれない。

 それまでの常識が崩れ去り、環境に否が応でも対応しなければならない。


 恐らく女神は今、その変化に頑張って対応しようとしている。

 人間という、女神にとっては低次元の存在の基準をはかっている最中なのだ。


 だからそれがこんなにも女神らしくない中途半端な行動を取らせている。



 まあそれが良いことなのか悪いことなのかは分からないけれども。

 ここではそこまで我慢する必要はないんじゃなかろうか、と俺は思う。


 単純に目的が達成できればそれでいいのだ。

 お互いが納得し合えばそれでもう終わりなんだし。

 だから俺は提案する。


「えーとですね。ぶっちゃけその子はそこまでいらないので、僕達を目的地にまで無事に送り届けて貰えますかね? そしたらもう僕達の関係はそれまででいいので。もちろんそのユユって子はお返ししますし」


 これは決まったな。

 元々転生者の元に会いにいければそれでいいのだ。

 このぐらいシンプルでいいだろう。

 んなことより、とっとと転生者のところに行こうじゃないか。



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