5話
現在馬車に揺られて家に帰宅中
閉鎖空間に推しと二人っきり。二人、っきり……そう。私今推しと我が家に帰っているの!
同じ馬車の中にいることをロベルトはあまり良い顔はしてなかったけどね。強行突破しちゃいました。
それに早めに推しに対する免疫つけないとね!私倒れちゃう。いや、倒れたら推しとの時間が勿体ないから踏ん張るつもりだけれど。
それにしてもずっと黙っているのは何でだろ?……あ、そうだ!自己紹介!自己紹介してないよ!
「自己紹介がまだだったわね。私はシャオリオン・ゼネファよ。」
「……本当に、俺を自由にする気があるのか?」
お?返事をしてくれた!これだけで進歩よね。
「もちろん、あるわよ。」
長い前髪の中からじっと私を観察している。そうだよね。昨日の今日で私を信用なんて出来ないわよね。
「詳しくは先ほども伝えた通り身綺麗になってからよ。」
「ふんっ、そうかよ。」
推しは黙ってそっぽを向いて窓の方に眼を移してしまった。
あぁ、もっと会話をしたい!!もっと見つめあっていたかったのに!バカ!私のバカ!もっと上手く会話を繋げれなかったの!
いつの間にか馬車は止まっていて、外から声をかけられた。一人脳内会議を悶々と行っていると家に着いたようだ。
ロベルトにエスコートしてもらって馬車から降りると家から猛ダッシュでこちらにくる小さな影。
それはそのまま私に突っ込んできた。
「おねぇちゃーん!!お帰りなさい!ねぇ!お土産は?このあと時間はある?あのね、あのね!今日の訓練でね……って誰?そいつ。」
突進を繰り出してきたのは3歳下の弟エミールだった。
私たち以外の人がいる事に気づき私の影に隠れた。
「ただいま。エミール、ごめんなさいね。後ろの彼と大事な話があるからずっとは無理だけれど、彼の身支度が整えるまでなら時間はあるわよ。」
それを聞きエミールは早く私を家に連れていこうとする。柔らかくて小さな手はギュッとスカートを引っ張りはじめた。
「なら、早く行こうよ!ロベルト!その人の身支度ゆっくりで!ゆっくりできて!!」
「あらあら、甘えたさんねぇ。エミール、ドレスを引っ張らないで、手を繋ぎましょう?」
「うん!早くっ!早くっ!」
うちの弟くんが可愛い。これまで禁断症状がなかったのって身内に癒しがいたからだわ。
普通の姉弟ってこんなにベタベタするものなのかな?って思うけれど、母に甘えたくてもその母は仕事で長期間不在が当たり前。だから寂しいと私に甘えてくる。
父にはそこそこ甘えるけれど、一緒に畑を手伝わされるから仕事終わりを見計らって甘えにいく。結構この子計算高い子なんだよね。要領がいいってのもあるんだけれど。
私にも勉強等があるので一日中は構うことは無理なのは理解してくれている。だから甘えにきたら全力で構うことにしている。一日一回食事以外の時間を見つけてはお茶をしたりね。
昨日は今日の準備で時間を空けることが出来なかったから余計に構ってほしいのかな?
何れにしても身綺麗になるまで時間がかかると思うしエミールと過ごすことにしよう。
玄関から入りその辺にいた侍女にお茶とお湯の準備をするよう伝える。
後ろを振り向き一応推しに一言言わなきゃ。
「わからない事があればロベルトに聞くといいわ。私たちはお茶をしているから、準備をするのはゆっくりでいいわよ。」
「……わかった。」
「ロベルト、彼を頼みます。」
「かしこまりました。」
話が終わったと知るとエミールは話の続きをしようといつもお茶をする庭に先導する。
推しが気になって話半分にならないよう気をつけなくちゃ。




