31話
俺を見下ろすレイモンドと見つめ合うこと数秒。動き出したのはレイモンドの方だった。
「今後の予定を伝えに来たのだが……。」
そう言葉を切り、俺から目線を外した。そして口を閉じ目を大きく開いて固まった。
レイモンドの視線の先には酔っ払いがいる。
嫌な予感がして俺も後ろを振り返るとワインボトルを片手にラッパ飲みをしようとしているニコラスがいた。
「お前は何をしているんだ!!」
頭上から怒鳴り声のあと、俺の横を通り過ぎて酔っ払いの方にスタスタと早歩きで向かった。
「ゲッ、レイモンド!もう来たの~?」
ワインボトルをレイモンドに没取されてふてぶてしく文句をいう酔っ払い。
「もう来たではない!玄関の鍵に細工をしたのも!奥さまの晩酌のワインが突然消えて厨房が騒いでいたのも!やはりお前のせいか!!」
「えー、だって俺。今弟子を勧誘中なんだもん。レイモンドはあっちに行ってよ~」
「ならよかったな。弟子なら魔工房の奴らがお前がこの間発明した魔道具に使用した技術を是非とも欲しいらしいぞ。」
そうレイモンドがまくし立てるとニコラスは顔を歪めた。
「えー。イヤだよあんなジジィども。才能ないのにすぐ偉ぶるし~。それに変にこだわるし頑固だしさ~。」
「……兎に角。シンは魔法よりも今後は勉学中心だ。やることが沢山あるぞ。」
酔っ払いのことはひとまず無視するらしい。賢明な判断だと俺も思う。
それにしてもまた新しい単語が出てきた。此方の言葉は専門的な言葉を使われると意味がわからかくて会話についていけない。
俺は日常会話なら聞いたり表情や仕種で覚えたが、専門的な単語は知らない。だから次は勉学中心なんだろう。俺の偏った知識を糺すために。
「あの、魔工房って何……?」
「ああ、簡単さ。技術の進歩もしない頭が化石の奴らの集団さ~」
答えたのは意外にもニコラスだった。
「コラッ!事実かもしれないが、それはお前の主観だろう。」
「えー。だって第一印象悪くすれば警戒してくれるでしょ?それに、シンは特に気をつけた方がいいんじゃないかな~?」
「確かにな。シンは闇魔法を使える。」
これにはレイモンドも同意らしい。
「……何に、気を付けるんだ?」
「いいか、シン。魔工房とはいわゆる我が商会の敵対する商会が所有する工房の一つだ。」
「どれぐらい敵対しているかというとね~。確かゼネファ商会の2代目だったやつの死が奴らが関わっている~ってわかってからだったかな~?」
「……何故お前が詳しく知っているのかは聞かんが、奴ら一時期だが闇魔法の才能を持つ子どもを国中から集めていると噂されていてな。一度、国の騎士団がガサ入れをしたが証拠がなくて検挙できなかったと聞く。」
「ま、何をしようとしてたのかは大体予想はつくけどね。まだ、諦めてないと思うよ~。」
「……どういうことだ?そいつらは何をしようとしていたんだ?」
「君が俺の弟子になったら教えてあげるよ~。……俺もう眠いから寝るわー。」
まだ夕暮れの時間だが魔法使いは眠いらしい。そりゃあ、高そうなワインを丸々1本飲んだらそうなるよな。
一つ欠伸をするとソファから立ち上がり、ヨロヨロと少し覚束ない足取りで俺の横を通り過ぎて部屋から出ていった。
やっと静かになった室内には疲れた顔をしたレイモンドと俺が残された。
本題に入る前にまずは散らかった部屋の片付けを二人でした。
掃除中にレイモンドはニコラスの注意事項や愚痴、対処法、愚痴…等のニコラスについての雑談をした。
雑談を聞きながらだったからかすぐに掃除は終わってしまった。
……一番為になったのはニコラスを物理的に黙らす方法だった。




