26話
「呪いとはまたけったいな。」
ロベルトは目を瞑り、少し考えたあと口を開いた。
「ニコラス殿、彼にかけられた呪術はアレかな?」
「そうそう。アレだよ。いやー、帝国って未だに時代遅れな呪いを使っているからね。すぐにわかったよ!」
私とシンが座っているソファの向かい側で大人しく座っているニコラス。片手にはお菓子のお皿を持っている。
……お菓子を与えておけば大人しくなるのか……。よし、今度からお引き取り願う時はお菓子を持たせよう。それにしても夕食前によく食べれるなぁ。
「ねぇ、そのアレってなんなの?シンは追跡って言っていたけど……?」
「うーん、惜しい!残念ながら彼には3つの呪いがかけられているからね~。」
ニコラスはフォークを指揮棒の様に振るいまるで歌うように爆弾を投下した。
3つもあるの!?1つだけでも驚きなのに、3つもあるの……?
これには流石のロベルトも驚きを隠せていなかった。
「……3つも呪いをかけるなど、なんと酷い……。」
「すごいところはそれだけではないんだけどね~。なんと!3つもかけられているから呪い同士がケンカして反発しているんだよね。超ウケる。呪術をかけたやつはこれを計算してやったのかは謎だけど、そのお陰で君は生きているんだよ☆」
「反発か、そうか。だから彼は無事なのか!」
ロベルトが何かに気づいた顔をした。
何が何だからわからない話をどんどん進める大人たちに置いていかれないように頭をフル回転する。
頭を抱えている私に気づいたロベルトは丁寧に教えてくれた。
「お嬢様、呪いは1つだけでも博打です。それは知っていますね?」
「えぇ、確か……。材料も貴重な物が多く、魔力や儀式は長い期間を要する。強力なものほど代償やしっぺ返しされた時は大変だ。って先生は言っていたわ。」
あと、儀式中に飲食やトイレもダメ。何日も飲まず食わずが続くとか。途中で失敗したら材料も新しいのに変えなくてはいけないし、何より怖いのは変に失敗すると術者にかかるとか、かからないとか……。そこら辺は眉唾だけどね。
何でそこそこ知っているかって?此方の世界のホラー話ってなんだろうって軽く家庭教師に聞いたらガッツリ勉強の延長線で話してくれた。
まぁ、私も昔ばなしでよくある悪い子は悪い魔女に呪われてしまうよってオチだと思っていたんだよ?調べたら実在してましたってオチだったが。
「その通ーり!帝国って昔から魔法より呪術に頼ることが多くてさ~。独自の解釈してさらに間違った使い方をしているのに可笑しいよね~。」
お前の感覚の方が可笑しいのでは?
「ゴホン、呪い1つだけでもかなり膨大な力を持っています。だが、呪いにも相性というものが存在しておりましてな。1つだけなら正常に動くものがシンの中に複数あることで、呪いは不完全にかかっている状態ですな。」
呪いにはそれぞれ特性が備わっていて、3つ合わせると相性が悪く反発しているってことかな?
要は薬でいうと一緒に飲んだらダメな薬があるのと同じで呪いにもそれがあるって事か。なるほど。
「なら、シンは呪いなんかで死なない?」
私が今一番怖れていることを聞く。
「今は、ね。だけど、成長するにつれてこの奇妙なバランスが保っているなんて保障は俺はできないな~。」
「……なぁ。俺の呪いを解術できるのは何故だ?俺が知っている追跡の呪いはある階級になると生まれながらに強制的につけられるものだ。それは絶対に一生涯外せない枷だと言われた……!」
これまで黙っていたシンはニコラスを疑わし気に聞く。
「フフン!それはねぇ~!俺が超天才だから♪」
今日一番のウザさに手ではなく足が出そう。今ふざけないでくれます?
「答えになっていないわよ。それに、シンがかけられている残りの呪いはなんなの?」
「まあまあ。その前に……ねぇ、君にかけられている呪いはこの家では発動されていないのではないのかい?」
当たりだったのかシンの表情が強ばった。
「まぁ、その顔を見れば当たりみたいだね!お姫さまに感謝しろよ~。お姫さまは君の命を救ったんだからね☆」
???確かに…当初の目的は原作通りにならない様に推しを救う事だけど、本番は学園入学からスタートでは?
「この子にかけられているのは1つが先程言った追跡の呪い。2つ目は楔の呪い3つ目は悪夢だよ。」
どれも初めて聞くものばかりだ。
「……確かに。ここに来てから悪夢は見ない……。誰かに見られている様な感覚もしないな。何故だ…?」
「それはですね。この建物が特別だからですよ。」
ロベルトはシンを見ながら懐かしいのか微笑みながら告げた。
特別ってこの別館が?
「正確に言えば、敷地内全てに呪術対策はされております。ですが特に厳重にかけられているのはこの別館なのですよ。」
ロベルトは祖父の若い頃の話をしてくれた。
「大旦那様は特に恨みや妬みを持たれた関係で追跡の呪いをかけられた事があります。」
祖父の過去に呪いが関わっていたなんて知らなかった。
「行く先々で敵の追跡が次々と襲ってくる。偶然にしては可笑しな点がありすぎました。」
「ある仕入れ先で占い師をやっていた老婆を助けた時に、その答えを教えてくださりました。」
『ありゃりゃ、おめぇさん。呪われているよぉ。相手は相当しつこい奴だねぇ。』
『呪い……?まさか。呪術は禁術ですよ。かけるにしたってリスクの方が大きい。』
『そのまさかだよぉ。よぉし、おめぇさんに助けてくれた礼に良いことを教えてあげよう。』
「そう言って老婆はある魔法使いのいる場所を占ってくれました。」
「大旦那様は半信半疑でその場所に行き、見つけたのはいいのですが魔法使いに絡まれました。」
「え?絡まれたの?何で?」
黙って聴いていられなくて思わず声をあげてしまった。
チラッとニコラスの方に目で見た。ロベルトは苦い顔をしながら答える。
「それは、なんとも……。後で直接本人に聴いてくだされ。」
アッ、察した。……世の中には聞かない方が幸せなこともあるものね。
此方の話よりもお菓子に夢中になっている魔法使いをチラ見した。
「……その魔法使いのお陰で呪いを取れましたし、また呪われない様に対策として敷地内には常に呪いを弾き出される様になっております。」
呪いって取れるの?いや、弾き出されるって……。何故世の中に普及されていないんだ?疑問がまた出てきたがまずは話を進めないと。
「どぉ?お姫さま!俺が天才だってわかったでしょ?」
誉めてと言わんばかりに自己主張してくる。
「ハイハイ。そうね。あなたは天才よ。それでシンの呪いはリスク無しに解術できるの?」
「あー、俺の場合は呪われた対象を移し替えるだけだから、別に害はないよ?まぁ見てくれた方が早いかな?」
さぁ、早速見せようと立ち上がったニコラスに待ったをかけたのはロベルト。
「これ、時間を考えなされ。今日はお嬢様もシンも試験で疲れておる。緊急ではないのなら日を改められよ。」
「……シンは今すぐに呪いをどうにかしたくないの?」
意見を聴かれるとは思われていなかったのかギョッとした目でみられた。
流れは後日になる流れだったが、当の本人の気持ちを聞いていない。できれば自分の意見をガンガン言って欲しいな。
「……俺はここ数年の悩みだった悪夢が今止んでいるなら……後日でも構わない。」
少し考えた後、しっかり私の目を見てシンは主張した。
「では、今日は解散ですね。ロベルトはこの事を母に報告しておいて下さい。ニコラスは許可があるまで待機。そろそろ夕食だから私は行くわね。シンも今日はお疲れ様。」
ソファから立ち上がり私は解散を告げた。言わないとニコラスが何時までもここに居座りそうだから。
新たな悩みはすぐ解消されそうでよかった。
私は少し晴れやかな気持ちでシンの部屋を出た。




