2話
此方の世界の家族について紹介しよう。
私がいるのは乙女ゲームの舞台になったランブルシア王国から東に馬車で2時間程進んだ先にあるディアロスという大きな港町である。
《商人の街》といわれるだけあってこの国の貿易の要になっている。
様々な国や地方との貿易で独特な文化もあり、観光の方でも賑わっている。
そんな活気ある街の商家の長女として生まれたのがこの私。シャオリオン・ゼネファである。
ゼネファ商会は遡ること5代前からあるといわれる歴史だけはある商会だ。
祖父がやり手の商人でその時の功労によって準男爵位を承ったという歴史がある。
一人息子の父は家庭菜園が得意な人で、商売に興味がなく店番ぐらいしか出来ないという跡継ぎとして不安要素しかないボンクラだった。
祖父は非常に焦ったのだろう。自分の代で大きくなってしまった商会は継ぎの息子の代で絶対に潰される。
そんなとき嵐の向こう側から一隻の船が港に着く。その船は商船で初めてこの大陸に来たという船だった。
祖父は商会ギルドの会員として海を渡ってきた商人と会った。
異国の商人は歳は若く、黒髪黒目の見目が麗しい女だった。
言葉も此方の国の言葉を巧みに操り何十歳も上の者にも退けをとらない度胸や話術。そしてネームバリューとして此方の国に太いパイプを欲しがっていた。
祖父にしてみたら大博打だっただろう。ぽっと出の女商人にすべてを託したんだから。
祖父はすぐさま父との縁談を薦めた。父と結婚すれば自分が亡き後を託そうと持ちかけた。
結果は一言でいえば祖父と異国から来た女商人のWin-Winの関係ができあがる。
こうして私たちは祖父と母のWin-Winの関係。政略結婚によって生まれたのだった。
愛のない関係かと思われるが、父は主夫になり、母を支え。年がら年中ポヤポヤしている父をみていると癒されるのか母は好きな商売をして上手くいっている。
まぁ、母は父みたいなボンクラにならないようにと教育熱心な時もあるけれど、異国の言葉を喋れるのって楽しいし、商会を継ぐのは3つ年下の弟なので私は気が楽だ。
祖父は弟が産まれた数日後にポックリ亡くなった。老衰だという。
最後に次々代の跡継ぎをみれて安心したのか愛妻家だった祖父は祖母の元へと旅立って行った。
7歳頃から記憶を取り戻してから私は前世の記憶を頼りに商品開発を手伝っている。
発案料として大金を手にしてしまった私。
これが転生チートをするっていうやつか。7歳児が持っていい金額ではないことはわかるぞ。ソッと隠し扉の中にお金を仕舞いこむ。
いつか推しを見付け出したらこのお金で買うんだ。
ーーーーーーー
転機は私が9歳になるかならないかの頃だ。当時は魔法の勉強が楽しくて基礎をあっという間に終わらし、暇で街を散歩していた時のことだ。
いつもは入らない道に入ったらそこは闇市場であった。闇市場って噂であると聞いたことがあったけど、実在したとは。
変なのに絡まれる前にさっさと帰るかと引きかえそうとしたとき近くの檻で目に入った少年がいた。
黒髪で赤目の少年だ。薄汚れてやつれてはいるが一目でわかった。私の推しだ!高揚したまま近くにいる奴隷商人に声をかけた。
「ねぇ、この子は何故入っているの?」
「なんだい嬢ちゃん。奴隷に興味があるのかい?悪いが金を持ってる親御さんを連れてきな。話はそれからだ。」
私の服装が裕福な部類に入るから親とはぐれた迷子と思ったのだろう。奴隷商人はあしらおうとしているのが見え見えだ。
「ではこの子は幾らなの?場合によっては私が買うわ。」
内心今すぐ檻を壊してしまいたい。だが、逃がしてしまったら推しは犯罪奴隷になってしまう。
「ハハッ!買うだって?まぁ、従順ではないからこの通り何度も戻って来てしまってね。引き取ってくれるのなら…これでどうだ?」
奴隷商人が提示してきた額は子どもの奴隷価格としては安い部類に入る。相当手を焼いているようだ。
私は檻の中の推しに声をかけた。
「ねぇ、貴方名前は?」
「……。」
「見たところ手の豆からして剣が多少なりとも使えるようね。なら私と契約しない?」
ギロッと此方を睨んできた。初めてアクションをくれて嬉しい。
「……剣を使えるならなんだって言うんだよ……。」
きゃーっ!!推しが喋った!!!
「耳を貸して?……明日また来るから考えていてね。」
奴隷商人に聞こえないように耳元で喋っちゃった!
「明日お金持ってくるから。この子をキープできる?」
「…承りました。では明日お待ちしております。」
売れるとわかったからか態度を変えた。
よし、家の説得は任せとけ!
あぁ、明日が楽しみだ!