15話
お茶会が終わって現在自室の机にかじりついている。
例の温泉の資料や土地や気候。特産品等を自分なりにまとめている。
わかっていたことだけど、紙の情報じゃ限界があるなぁ。一度自分の目で現地を見てみたいな。
今問題なのが一番目が領主。二番目が目立った特産品がないこと。三番目近くの領地に貴族の避暑地があり観光客はそっちに行ってしまうこと。だろうか?
我が家にしつこく嫌がらせをする貴族って一定数いるもので、その中でも南の代表的なのがエーデル子爵家。
この家は先代の祖父の代から因縁がある。
昔からこの名前を名乗る奴にあったらすぐ逃げろと父含め私たちは言われて育ったぐらいだ。
まぁ、祖父が亡くなり因縁が切れたかに思われたが、商会を自分の物にしたい子爵は尽く父に第2夫人でもいいからと女を送り続けた。
父が人間不振になりかけて母がキレた。
そしてキレた母は子爵家に物を売るのを系列店も含めて禁止にしてしまった。子爵家は物資は届かないなどかなり大変だったらしい。そりゃそうだ。自分の領地で子爵家には誰も物を売らない何て誰が思う。
これが警告だと手紙を出し。また嫌がらせをするようなら系列店や職人を子爵領から撤退すると告げたそうだ。
こうしてめでたく母の代でも因縁が出来上がってしまったのでした。
当時の私はなんだかピリピリしてて皆忙しそうだなと赤ちゃんのエミールの頬っぺたをプニプニしていて知らなかった。初めて聞いた時は物理的な経済制裁だとちょっと引いた。
……はぁ、やっぱり領主の許可がいるものが多いかな。
最低でも道を整備して貰いたいんだよね。
あーあ。せっかく爵位が貰えたのなら温泉がある地域だけお祝いで貰えないかな?……いや、そうした場合の見返りをどうする?んー。あ、そうだ。
私今悪い顔していると思う。ニヤニヤしながら計画書をガリガリと書きだす。
コンコンとドアノックの音。入室の許可を出した。
ガチャリと入室してきたのは母の秘書の一人。30代後半でキリッとした鋭い目付き。重低音の声で失礼しますと一礼する。
「奥さまの命により、お嬢様のサポートをすることになりました。」
「えぇ、よろしくお願いしますね。レイモンド。」
レイモンドはロベルトの長男で次の執事になるだろうと言われている。
「早速お願いしたいのですが、子爵家のお金の流れや黒い噂など少しキナ臭いこと。なんでもいいので集めてくれませんか?」
「金の流れですか?あそこの家は小物で横領をしていたとしても微々たるものですよ。」
「先に子爵家を動けないように潰します。塵も積もれば山となると言うでしょ。数は多ければそれだけでいいのです。」
「そうですか。ではそのようにしましょう。」
「それと、子爵家と仲が悪かったり、敵対派閥も知りたいわ。」
本当に潰せる訳ないからこちらに手を出さないよう根回ししなきゃね?
祖父の情報を制する者が勝つ。計画通りにいけばその通りになりそう。
シンに秘書の技能を仕込みたいわね。ついでにお願いできるかな?
「あのねレイモンド。一人、私の秘書を作りたいの。時間があればでいいのだけれど、シンに仕事に関わらせることって出来ないかしら?」
「シンとは……あぁ、噂の彼氏ですか。奥さまが会うのを大変楽しみにしておられましたよ。」
「ち、違うわよ!彼氏じゃないわよ!!もう、お母さんったらちゃんと訂正しておいてよー!」
机の引き出しからこの間のシンのアンケートを出してレイモンドに渡す。
「ふむ。剣の腕に覚えがあると。ほぅ……帝国から。それでは短期間でもよろしいのであれば私が持つ技能を授けましょう。」
「ありがとう。とても忙しいのに。」
「いえ、お嬢様のお気に入りがどこまで食らいついてくるのか楽しみですよ。」
クツクツと含み笑いをするレイモンド。
凶悪そうな顔をしている。
この顔のせいで未だに独身のレイモンド。子どもが好きなのに半分結婚を諦めて甥や姪を甘やかすのが楽しみだとか。
よく妹や義妹に甘やかすなと怒られているのを見たことがある。
正直、ロベルトと親子と知ったときは似てなくて驚いたものだ。
母の秘書をしているぐらい仕事はできる。だがシンはまだ子どもだ。どこまで教えるのだろう?
主人の私が聞いてもいいよね。
「それで、どこまでシンに教えてくれるの?」
一瞬目が光った気がした。
「お嬢様、それは彼次第、になるでしょう。」
ちょっと不安になってきたなぁ。頼む人選ミスったか…な?
レイモンドもロベルトから技能を教わっていたと聞くし、大丈夫よね……?
明日、シンが母に認められる事を切に願う。
頼む、ここをクリアしてくれないと私の計画が詰むから!