イギリス皇太子の称号について
イギリス皇太子の正式名称ってみなさんご存知でしょうか。
ニュースなどではチャールズ皇太子、とよばれていますが正式には
His Royal Highness Prince Charles Philip Arthur George, Prince of Wales, KG, KT, GCB, OM, AK, QSO, CC, PC, ADC, Earl of Chester, Duke of Cornwall, Duke of Rothesay, Earl of Carrick, Baron of Renfrew, Lord of the Isles and Prince and Great Steward of Scotland.
(CNNのPrince Charles Fast Factsから引用)
という非常に長い称号になります。CNNはアメリカの放送局ですから、間違いがないか心配がないわけではないですが、ひとまずこれを前提に話していこうと思います。
His Royal Highness Prince
His Royal Highnessの部分が女王エリザベス2世を示していて、Princeは国王の親族、王室の一員の意味です。訳語としては王子ですね。
つまりこの部分は、女王エリザベス2世の王子、という意味ですね。
Charles Philip Arthur George
チャールズ、フィリップ、アーサー、ジョージ。全部英語の男性名称です。
イギリスの王子はいくつも名前を持っています。
例えばチャールズ皇太子の子供ウィリアム王子もウィリアム・アーサー・フィリップ・ルイと、4つも持っていて、しかも父親とかぶったりしています。
Prince of Wales
ウェールズ公です。ウェールズ大公とも訳すことがあります。
ウェールズはグレートブリテン島南西部にある地域を指します。
あれ、さっきPrinceは国王の親族っていわなかった? ならばこれもウェールズ王子じゃないの? と不思議に思う人もいるでしょう。
最初に出てきたPrinceは国王の親族、王室の一員の意味ですが、こっちのプリンスは意味が違います。
13世紀に、ウェールズは公国、Principality を名乗っていました。そして、その公国の支配者の称号がPrince of Walesでした。つまりこれはウェールズ地域の支配者の称号なわけです。
最初のPrinceは王室を指し、こっちのPrinceは支配者を指すのですから、かなりややこしいと思います。
ちなみにこれを大公と訳す人がいるのは、この後話すDukeがイギリス王家から付与された称号であるのに対して、Prince of Walesは、バチカンから認められたれっきとした支配者の称号であるというところがあるためでしょう。そのため、Dukeと訳の上で差を出すために、大公と翻訳する人が出てくるわけです。
KG, KT, GCB, OM, AK, QSO, CC, PC, ADC
それぞれ称号や役職です。
Knight of the Garter (KG)
ガーター勲章
Knight of the Thistle (KT)
シッスル(あざみ)勲章
Knight Grand Cross of the Order of the Bath (GCB)
バス大十字騎士勲章
Order of Merit (OM)
メリット勲章
Knight of the Order of Australia (AK):
オーストラリア騎士勲章
Companion of the Queen's Service Order (QSO):
ニュージーランド騎士勲章(女王功績勲章)
全て勲章です。
ちなみにガーターはガーターベルトのガーターで、女性がつける靴下止めですし、バスはお風呂のバスです。
Privy Counsellor (PC)
枢密院議員
Aide-de-Camp (ADC)
フランス語で「副官」の意味ですが、ここでは女王陛下の個人的顧問集団を指しています。
この二つは役職の一種です。両方とも女王陛下の諮問を受ける役割ですね。
Earl of Chester
ここからが貴族位になります。
チェスター伯は、チェスター、ウェールズの隣にある場所の伯号です。
ウェールズ公とセットにされるイギリスの伯爵位であるため、貴族位の中では2番目に書かれています。
Duke of Cornwall
コーンウォール公です。これは、イングランド王の王太子に与えられるものです。
イギリス皇太子とイングランド王太子の違いですが、
そもそもイギリス、と日本では訳しますが、英語ではUK,United Kingdom、連合王国といいますし、実際イギリスはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北部アイルランドその他の連合王国です。
イングランドとスコットランドはもともとは別の王国で、現在のイギリスは連合王国であり、エリザベス女王は連合王国の国王、という形になっています。
そのためチャールズ皇太子は、連合王国であるイギリスの皇太子であるとともに、イングランド王の王太子でもあり、伝統的にイングランド王太子に与えられていた公号を得ているわけです。
なお、コーンウォールも地名で、ブリテン島の南西の飛び出した部分です。
Duke of Rothesay
ロスシー公です。こちらはスコットランド王太子に与えられるものです。
ロスシーはスコットランドにある島の名前で、ビュート島ともいわれています。
Earl of Carrick
キャリック伯です。これもスコットランド王太子に与えられるものです。
Baron of Renfrew
レンフルー男爵、と訳すのは非常に悩ましく、バロン・オヴ・レンフルーと直接音で訳されることが多いものです。
イングランドや連合王国での男爵、バロンと同格なのは、スコットランドではLord of Parliamentであり、バロンはスコットランドでは貴族位ではないとされています。バロン・オヴ・レンフルーについても議論がありますが、ここではあまり深くは掘り下げません。、
これもスコットランド王太子に与えられるものです。
Lord of the Isles
諸島の主、です。これもスコットランドの称号です。スコットランド西海岸にはいくつもの島があり、それの支配者、という意味です。
Lordは支配者の意味ですが、卿とも訳され、イギリスの侯爵、伯爵、子爵、男爵の貴族にも使われます。
Prince and Great Steward of Scotland.
スコットランド公及び大執事。
スコットランド公国、というのはスコットランド全体を指すわけではなく、スコットランドの南西の方にあった地域に存在していたものであり、現在ではスコットランドの王位継承者につけられる称号になっています。
さらに大執事というのが、スコットランド公にはくっついていますが、歴史的経緯はややこしいのでここでは解説しません。
ここまで書いてきましたが、イギリス皇太子は
4つの公爵(2つのPrinceと2つのDuke)
2つの伯爵(Earl)
1つの男爵(Baronですが男爵と訳すのが正しいかは疑問符が付きます、ただここでは男爵と訳しておきます)
1つの卿(Lord)
1つの大執事(Great Steward)
を持っているわけです。
日本の五爵は、家につけられる称号のため、二つ以上の爵位を持つことはありませんが、ヨーロッパにおける爵位は土地の支配権の称号なので、多くの土地を支配していれば、いくつもの爵位を持つことになります。
そして、日本の五爵は公候伯子男と明確な順位付けがされていますが、チャールズ皇太子の称号の順番を見ればわかるように、必ずしも日本の五爵の通りの順位付けがされているわけでもありません。
最後にチャールズ皇太子の配偶者の話に少しふれます。
チャールズ皇太子は二回結婚しており、最初のダイアナ妃は離婚前はPrincess of Walesと呼ばれていました。イギリスの場合、配偶者は女性形の称号を得ます
一方カミラ妃は、Duchess of Cornwall(英国王室のウェブサイトでもAbout The Duchess of Cornwallとなっています)であり、Princess of Walesの称号は使っていません。なお、上で述べたようにDuke of Cornwallはイングランドの称号であるため、スコットランドではDuchess of Rothesayを使っているようです。
これは、ダイアナ妃が人気がありかつ有名であるため、カミラ妃はPrincess of Walesを避けたようです。