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恋人姉妹のクリスマスイブ

【登場人物】

彩歌もみじ:大学一年生。大学入学を機に一人暮らしを始めた。クリスマスに合わせて実家に来ている。

彩歌さくら:高校二年生。姉のもみじとは恋人の仲。土日は姉の住んでいるマンションに通う。


 クリスマス、家族で過ごすか恋人と過ごすか。

 海外ではクリスマスは家族で祝うものなのだから日本もそれに倣うべきだ、なんて声もあったりするけど、住んでいる場所にもよるし仕事や学校の都合もあるのでどちらが良いとか決められるものでもない。中にはイブは恋人、クリスマスは家族と過ごすという人もいるだろうし。

 けれど、もしも恋人が同時に家族でもあったならそんなことに悩む必要なんてまったくなくなってしまう。

「あー、食べ過ぎた~。おなかいっぱいだぁ~」

 彩歌もみじは妹のベッドに背中から倒れ、自分のお腹をさすった。久しぶりに戻ってきた実家で母の手料理をたくさん食べて満足顔だ。

「もみじねぇほんと食べ過ぎ。お腹壊しても知らないよ?」

 呆れたように息を吐きながら彩歌さくらがもみじの隣に腰を下ろした。さくらに向かって姉のピースサインが返ってくる。

「キャベジン飲んだからだいじょーぶ」

「そういう問題じゃないんだけど……。明日朝の九時には出るんだからちゃんとしといてよ」

「もっちろん! さくらとのクリスマスデートなのに私が体調崩すわけないって!」

「その自信は――まぁ、うん」

 どこから来るのか、と言おうとしたが『確かにそうだ』と納得してしまった自分に気付いてさくらは言葉を飲み込んだ。そういう姉なのだ。

 と、もみじがさくらの手を握った。ん? と見返す妹に姉が優しく微笑みかける。

「サンタさんにお願いはないの?」

「え? いや別にいいよ。プレゼントは明日一緒に買いに行くんだし」

 クリスマスデートの一番の目的は互いに相手へ渡すプレゼントを買うことだ。そのあと色々見て回ってから予約していたケーキを取りに行って家に帰ってくる。だからわざわざサンタへ何かをお願いする必要もない。

「違う違う」

 もみじが首を横に振ってから目を細めて笑う。艶美で、じんわりと熱を帯びたような笑顔。

 さくらがその笑顔にどきりとしている隙に背中を引っ張って倒し、もみじはさくらの耳に口を近づける。

「そういうモノ的なアレじゃなくて、もっとこう、ね? 私にして欲しいこととか、逆にやってみたいこととかさ」

「…………」

「あるでしょ? 何でも言っていいよ」

「…………」

 姉の吐息と体温を間近に、さくらはひとしきり考えてから口を開いた。

「ない」

「えぇっ、ないのー!? ホントに!? 何でもいいんだよ!?」

「だって、別に今して欲しいこととか思いつかないし」

「どんな恥ずかしいポーズでもさせ放題なのに!?」

「そんな趣味ないって」

 言ってからさくらが口ごもり、照れくさそうに目線を外した。

「……それに、もしそういうことして欲しくなったら、そのときにもみじねぇにお願いしたらしてくれるでしょ?」

「するよ! 当然!」

「じゃあサンタさんにお願いしなくていいじゃん」

「ホントだ!」

 二人で小さく笑い合う。これまでの日々が満たされていたからこそ、新しく何かを願う必要もない。特別な日であってもいつも通りに過ごせるのが姉妹なのだから。

「さて、と、そろそろ歯磨いて明日の準備して早めに寝なきゃね」

「うん」

 さくらに軽くキスをしてからもみじは起き上がり、手を振って妹の部屋を後にした。

 …………。

 ……。

 深夜もほど近くなり物静かになった廊下をそろりそろりと進む影。

(サンタさんにお願いはなくてもサンタさんが現れないとは言ってない)

 寝巻姿に赤色のサンタ帽子を被ったもみじが、自分の枕を抱えたままさくらの部屋のドアをゆっくりと開けて中へと歩を進める。

(これは別に寝込みを襲うとかじゃなくて、朝起きたときに私が隣にいるというサプライズプレゼント的なやつで……ん?)

 常夜灯の暗いオレンジの下、ベッドではさくらが仰向きで寝ていた。ただし、不自然なくらい片側に寄って。まるで隣に寝る場所を開けてくれているかのように。

 もみじが肩の力を抜いてふっと息を吐く。

「……バレてた?」

「そりゃね。もみじねぇが来ないわけないし」

 さくらが起きていたということはもみじが来るのを待っていた証拠だ。頬を緩ませながらもみじがさくらの隣に枕を並べる。

「またまた~、ホントは私に来て欲しかったんじゃないの?」

「…………うん」

「――――」

 素直な返事にもみじは堪らず布団の中に飛び込んでさくらを横から抱きしめた。

「だからサンタさんにお願いしてって言ったのに」

「……うん」

 お願いしなかった理由は、わざわざお願いをするような内容ではなかったし、実家にいる間は過度な触れ合いはしない、と決めていたから。もみじもそれを分かっているから優しく妹の頭を撫でながら穏やかな声音を紡ぐ。

「一緒に寝よっか」

「うん」

 布団の下で手を繋ぎ、肩を並べて天井を見上げ、薄明りのなか小さな声で明日のことを話し合う。どんなお店に行こうか、何を買おうか、お昼はどこで食べようか。

 それはもみじとさくらにとって何よりの睡眠導入剤だった。

 小さい頃もそうであったように、恋人となった今も、これからも、きっと変わることはない。


 恋人で姉妹の二人が過ごした、なんでもないクリスマスイブ。



    終




長らく更新してなくてすみません。


ちょっと書いてツイッターにあげようと思ったんですが、文量が超えてしまったので普通に投稿することにしました。

短いですが楽しんでいただければ幸いです。

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