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恋人姉妹と姉の日【12月6日】

恋人で姉妹の二人が姉の日に仲良くするお話


【登場人物】

彩歌もみじ:高校三年生。受験勉強の追い込み中だが妹といちゃいちゃしたい。

彩歌さくら:高校一年生。なるべく姉の勉強の邪魔をしたくないが少しくらいはいちゃいちゃしたい。



 12月に入り夜はますます冷え込んできた。私が部屋でセンター対策の問題を解いているとき、妹のさくらからラインが送られてきた。

『何か欲しいものとか食べたいものある?』

 ふむ、と考え込んだ。私の誕生日は10月だし、何故さくらはこんなことを聞いてきたのだろうか。クリスマスプレゼントにしては聞き方が軽いし受験勉強の差し入れか。それなら隣の部屋にいるのだから直接聞けばいいのに。わざわざ顔を合わさずに聞いてくるということは、顔を合わすのが恥ずかしい理由があるに違いない。つまりさくらは私が何を答えるか分かっていて待ち構えているのだ。

 スマホを置いて立ち上がり、ダッシュで隣のさくらの部屋に突入した。

「さくらが欲しい!」

「!!?」

 ベッドの上で横になっていたさくらがびくりと起き上がって私を見た。困惑と呆れが混ざったその表情に思わずきょとんとする。

「あれ? 誘ってたんじゃないの?」

「なんでそうなるの!」

 ぷんすかと怒るさくらに近寄り、ベッドに飛び込むようにして抱き着く。

「だって~、今私が欲しくて食べたいものってひとつしかないも~ん」

「こら――服の中に手入れないの」

「さくら分の補給補給~」

「もう……絶対そうなるからラインにしたのに」

「なにが?」

「もみじねぇの欲しいもの」

「だからさくらが欲しいって言ってるじゃん」

「…………」

 さくらは少しだけ躊躇する素振りを見せながら、目線だけわずかに逸らして呟いた。

「……私はもう、もみじねぇのものだし」

 あーだめだめ。恋人にこんな顔でこんなこと言われて理性を保っていられる人間がこの世にいるだろうかいやいない。

 さくらがちらと私の方を窺って、何かに気付いたように口元をもごもご動かした。しかし何も言わずに顔を私の方に向けてきゅっと唇を引き結ぶ。それは今から何をされるかが分かっていて受け入れる準備が出来た合図だった。

 可愛らしいさくらの唇に、私はそっと唇を重ねた。優しいのは最初に触れる瞬間だけ。一度唇が接してしまえばあとは欲望のままに唇を動かし、舌を絡めてさくらの甘い蜜をすすった。

 さくらとのキスは決して飽きることがない。付き合ってから八カ月程経ち、もう数え切れないくらいキスをしてきたが一つとして同じキスはなかった。さくらの体温や味は日によって違うし、唇の動かし方も舌の絡め方も、首筋を撫でたときの反応も毎回違う。どのキスも私にとって最高のキスで、飽きるなんて絶対にない。それどころかキスし足りないとさえ思っている。二十四時間ずっとキスをしてもいいくらいだ。

 ちゅ――ぱ、と粘つく唇を離す。お互いのしめった吐息が顔にかかる。さくらの頬は紅潮し、その潤んだ眼差しは艶を帯びていた。

「さくら、欲しいもの言っていい?」

「なに?」

「一日中ずぅーっとさくらにキスしてもらうっていうのはどう?」

「……ちょっと待って」

 さくらが側に置いてあったスマホを取った。カレンダーを開き何かを確認して一言。

「ダメ。違うのにして」

「え~、なんで~?」

「平日だから」

「休みの日にすればいいじゃ~ん」

「そうじゃなくて、12月6日が平日なの」

「6日? なにかあったっけ?」

「姉の日」

「姉の日? そんなのあるの?」

「うん。だからもみじねぇに何かプレゼントしようかなって思ったんだけど」

 さくらのスマホを借りてさっと調べてみる。姉の日はとある漫画家が制定した記念日で、兄弟姉妹それぞれの日があるらしい。姉の日の由来はサンタが貧しい家族の姉を助けたというエピソードからとかでそこまで姉が関係する日ではなかったが、それよりも。

「――え、妹の日もあったの?」

 妹の日は9月6日。ちなみに弟の日は3月6日で兄の日は6月6日。三カ月毎の6日と覚えれば簡単だ。

「みたいだね」

「な、なんで教えてくれなかったの!?」

「私だって姉の日があるって知ったの最近だし」

「や~だ~! 私も妹の日のお祝いする~!」

「来年でいいよ」

「よくない! 私だけが祝ってもらうなんて不公平!」

 自分が祝われることよりも、好きな人をお祝いしてあげたい。子供っぽいかもしれないが、さくらの姉としてそれだけは譲れない。

 そのとき閃いた。

「姉の日のプレゼントは、妹の日をプレゼントしてもらうってどう?」

「……ちょっと意味が分からないんだけど」

「だからぁ、私が妹の日をやり直すのが、姉の日のプレゼント」

「それじゃあ私がもみじねぇを祝えなくなるからヤダ」

 さくらの口調は固く、断固たる意志を感じる。

 こういうところは姉妹でそっくりだ。二人とも自分より相手の方が大切で、喜んでくれることが何より嬉しい

 そっとさくらの頭を撫でてあげる。記念日なんていうのは普段なかなか感謝を表す機会のない事柄を意識して、人や物事を労うのが目的ではないか。毎日愛情を伝え合っている私達には必要ないものだ。

 まぁそれはそれとして。

「だったら翌日の12月7日を今年の振替妹の日にしよ? それならいいよね?」

「……まぁ、うん」

 妹の日を祝えないとあってはさくらの姉を名乗れない。こればっかりさくらのためというより私自身の矜持のために!

 しばらく抱き合ったまま何をプレゼントしてもらいたいかをそれぞれで考えていた。



 待ちに待った12月6日、姉の日。私は朝目が覚めてもずっとベッドに寝ていた。あるものを待っていたからだ。

 かちゃ、とドアが静かに開く音がした。目は開けない。誰が来たのかは見なくたってわかっている。

「……お、おねえちゃ~ん、あ、あさだよ~……」

 さくらの声。しかしその口調や雰囲気はいつもと違った。

「まだ寝てるの? お、起きてるよね?」

「…………」

「お、起きないと、ちゅ、ちゅうしちゃうぞ~?」

 だめだ。頬が勝手ににやけてくる。

 それに気付いてさくらが小声で「起きてるじゃん……!」と呟いた。だけど私はまだ寝たフリを続ける。

 さくらが観念したように息を吐いた。ごそ、と近づいてくる気配がして、ぎし、とベッドが軋んだ。

「ちゅ、ちゅうしちゃうからね」

 私の唇に柔らかいものが触れてから目を開ける。キスを終えたさくらをしっかり見つめて。

「おはよ、さくら。朝から我慢できなかったの?」

「が、我慢もなにももみじねぇが――」

「さくら」

 私がにこりと微笑むと一転して態度を変える。

「……う、うん、寝てるおねえちゃんが可愛かったからつい」

「気にしなくていいよ。妹の愛を受け止めるのも姉のつとめだもん」

 さくらの顔が赤い。慣れてないことをして恥ずかしいんだろう。だがこれが姉の日の私のリクエストなのだ。

『おねえちゃん大好きっ子妹として一日私に接すること』

 さくらはひとたびスイッチが入れば積極的に私を求めてくれるが、普段はあまり好意を見せてくれない。近頃はだいぶ気持ちを隠さなくなったし、さくらの表情や仕草から好き好きオーラを感じ取れるのだが、それでも普通の人からすれば分かりにくいだろう。それをこの機会に存分に見せてもらおうというわけだ。

「ちゅうしちゃうぞ~、かぁ。さくらの考えるおねえちゃん大好きっ子って幼いよね」

「うぅ……」

「ほらほら、おねえちゃん大好きなんでしょ? そんな顔しないしない」

 私が腕を広げるとさくらが頭を預けてきた。抱き締めてなでなでしてあげる。さくらの方から来てくれているというのがポイントが高い。

 今日が休日ならこのままベッドに引きずり込んで一緒に二度寝をするのだが、あいにくと今日は平日。学校に行かなければならない。

 さすがに両親の前や外を出歩くときはお願いは無効にしたが、学校でどうしてもやりたいことがあった。

 昼休みは屋上に忍び込んで友人たちとお昼ごはんを食べるのが日課だった。私のクラスメイトの御園茉里奈(みそのまりな)とその後輩で恋人の宇佐見あゆ。二人とも私とさくらの関係を知っていて見守ってくれている大事な友達だ。

 そろそろ寒くなったねとか、冬休みまでもうちょっとだねとか話しつつ、私は機を見てさくらに呼びかけた。

「さくら、卵焼き好きだよね? 甘いやつ」

「うん」

「今日の卵焼きどう?」

「え? 美味しいと思うけど」

「まだ食べたい?」

「いいよ、もみじねぇは自分の食べなよ」

「さくら……食べたい?」

 語句を強調しながらさくらに微笑みかける。私が何を言いたいかさくらにはすぐ分かったようだ。当たり前だ。私達は以心伝心の姉妹で恋人なのだから。

 さくらは茉里奈とあゆちゃんの方を窺い見た。二人は私達の変な空気を察してかこちらに注目している。

「食べたい?」

 三度目の問いかけ。さくらは決心したように箸を握ったあと、ぎこちない笑顔を浮かべた。

「お、おねえちゃんの卵焼き、食べたいなぁ~」

「食べさせて欲しいんじゃなくて?」

「た、食べさせて欲しいなぁ~」

「しょうがないなぁ」

 私は箸で卵焼きをひと口大に分けてからつまみ上げた。

「はい、あ~ん」

 ぱくり、とさくらが卵焼きを食べた。視線は下に落としたままもぐもぐと口を動かす。

 正面ではあゆちゃんたちがひそひそと話していた。

「なんか今日のさくらちゃん甘えんぼさんですね」

「あれは甘えてるんじゃなくて、甘えさせられてるのよ。ほら、本人は私達に見られて恥ずかしそうにしているでしょう?」

「あぁー、なるほど」

 ひそひその意味がない。さくらにもばっちり聞こえているので余計に恥ずかしがっている。だがまだこれで終わりじゃない。

「もういっこ。ふぁい、あ~ん」

 卵焼きを口に咥えてつきだすと、さくらが『嘘でしょ!?』という顔をした。先程切り分けた欠片なのでキスするくらい寄らないと食べることは出来ない。

 私は微笑んだまま見つめ続ける。さくらが食べないとずっとこのままだよ、と。

 その思いが伝わったようでさくらは「うぅ」と恥辱と恨みの籠もった視線を返し、躊躇しながら顔を近づけてきた。ちょっと可哀想かなとも思ったが、茉里奈たちにキスを見られるのが初めてというわけでもないし。

 さくらの唇が卵焼きを挟みこみ、そして私の唇と触れ合う。卵焼きを押し付けるようにしてさくらの口内へと渡した。唇がフリーになったのでゆっくりと動かしさくらの唇の味をを味わう。正直もう卵焼きとかどうでもいいからめちゃくちゃにキスしたかったが、まだお昼ごはんの途中なので我慢した。

 キスを終えてぺろりと舌なめずりをして笑う。

「も~、さくらったらこんなときでも積極的なんだから~」

「……私たちよりもっと積極的な人達がいるけど」

「へ?」

 言われて顔を正面に向けると茉里奈とあゆちゃんがキスをしていた。私達のことなんてまったく気にしていない濃厚なキス。私とさくらのキスに当てられたのだろうがそんなものを見せられては私のリミッターなんて飛んでいってしまうに決まっている。

「ねぇさくら……」

「や、やっぱりそうなるよね……?」

「ほら、今はおねえちゃん大好きっ子でしょ?」

「そうだけど、まだお弁当残ってるし……」

「キスのあとすぐ食べるから」

「……もう」

 大きく息を吐いてからさくらが艶っぽい瞳を私に向けた。

「おねえちゃん、キス、しよ?」

 結局、予冷が鳴るまでキスし続け慌ててお弁当をかきこんだ。



「勉強しづらくない?」

「ぜーんぜん。むしろ集中力上がってる」

「絶対そんなことないと思うけど……」

 学校から帰宅して最近始めた筋トレを済ませ、お風呂とご飯が終わったあと私は部屋で勉強をしていた。膝にさくらの頭を乗せて。

 左手でさくらの頬を触りながら右手で問題を解いていく。

「関連付け記憶っていうのがあってね、人って何かを覚えるときにただ覚えるだけよりも違う事柄と関連付けた方が覚えやすくなるんだよ」

「あ、それ聞いたことある」

「だから例えば、この単語はさくらの耳たぶをくにくにしてるときに見たな、とか」

 さくらの耳たぶをくにくにする。

「例えばこの連語はさくらのあごの下をこちょこちょしたときのだな、とか」

 さくらのあごの下をこちょこちょする。

「例えばこの文法はさくらの胸を揉んだときのだな、とか――」

 さくらの胸に手を入れようとして弾かれる。

「全部もみじねぇが触りたいだけでしょ!」

「ちょっとさくら~、おねえちゃん大好きっ子だったら喜んで『もっと違うところも触って』って言うとこだよ~?」

「結果的に勉強の邪魔になるんだったらもうやらないよ」

「邪魔になってない! なってないからやめないで!」

 はぁ、とさくらが大きな溜息を吐いてから頭を内側に向け、私の腰に腕を回した。

「……私のせいで受験に失敗したら怒るからね」

 勉強をするよりもさくらといちゃつきたいという私の気持ちをよく知っているからこそさくらは心配している。たとえ私がさくらのせいじゃないと言っても自分で自分を責めてしまうだろう。そういう子だ。ただ、もうちょっと姉を信用して欲しい。

「さくらの大好きなおねえちゃんが、そんなことして妹を悲しませると思う?」

「……思わない。けど怖い」

「怖くなったらそのたびに『おねえちゃん大好き。頑張れ』って言って。そしたらどんなにつらくても勉強頑張れるから」

「……おねえちゃん大好き。頑張れ」

「うん! 頑張る!」

 抱き締めてきたさくらの頭を優しく撫でる。冗談でもなんでもなく、さくらがそばにいて応援してくれるなら受験だろうがなんだろうが乗り越えられる気がしてくる。それは勿論今までの勉強の積み重ねがあってのことではあるが、さくらの言葉が内側から気力をみなぎらせてくれるのだ。

 膝の上のさくらのぬくもりを感じながら、目の前の問題集に再び取り掛かった。今度はさくらにちょっかいは出さない。私だって無闇に心配させるのは嫌だ。妹を心配させるなんて姉失格だ。姉の日だからって妹から祝われるだけじゃなく、姉としての自覚を持って妹を想ってもいいじゃないか。

 しばらく勉強を進め、いつの間にかすやすやと寝息をたて始めたさくらを見下ろしてふっと笑う。さくらの寝顔を見ているだけで心が癒される。同時に触りたい欲も出てくるが、それは今はお預けだ。せっかく気持ち良く寝ているところを起こすなんて言語道断。

 ただ、今は――。

(足痺れてきた……どうしよ……)

 違うことを心配しなければいけないようだ。



 翌日の土曜日。妹の日の振替日。どんなプレゼントを要求されるかをわくわくしていた私にさくらが言った。

「今日は一日中私の部屋で勉強しながら、もみじねぇにはときどきキスをしてもらいます」

「え?」

「もちろんもみじねぇも受験勉強しててよ。それで私が合図したら必ずキスをすること。わかった?」

 さくらの要求は別に難しいことではないしむしろ私としても喜ばしい内容なのだが。

「それって私がさくらにやってってお願いしたのと同じじゃないの?」

「違うよ。もみじねぇは私にキスさせようとしたでしょ? これは私がもみじねぇにキスさせてるの」

 どっちがキスをするかなんて些細な問題だ。私にとってはどちらも変わりない。さくらだってそんなのは分かってる。結局さくらの行動は全部私の為なのだ。

(せっかく妹の日をやりなおそうってことだったのに)

 ちょっと不満な部分はあるがそれでも妹の意を汲んであげるのが姉だ。さくらが私に喜んで欲しいと思っているのなら全力で喜ぶだけ。

「確かに、さくらに命令されて一日中キスをするっていうのは大変だね」

「そうだよ。今日は妹の日なんでしょ? だからもみじねぇにはとことん尽くしてもらうから」

「うん、さくらに喜んでもらえるように頑張って尽くすよ!」

 …………。

 一回目のキスの合図をもらって問答無用で三十分くらいキスし続けたら怒られた。

 キスするとは聞いたけど時間制限があるとは聞いてなかったのに。……まぁ分かっててやったんだけど。



        終


お待たせいたしました。


9月6日の妹の日を知らなくて書けなかったので姉の日でリベンジです。

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