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恋人姉妹は筋トレに励めない

恋人で姉妹の二人が筋トレに臨みつついちゃいちゃするお話


【登場人物】

彩歌さくら:高校一年生。恋人の姉とのいちゃいちゃが増々止まらないお年頃。

彩歌もみじ:高校三年生。恋人の妹に甘えたいし甘えられたいおねえちゃん。



 夜、私がベッドの上でスマホをいじっていたら慌ただしい足音が一階から近づいてきた。

 その勢いのまま私の部屋のドアがバンっと開けられる。

「さくら、大変だ!」

 飛び込んできたのは私の姉の彩歌もみじだった。お風呂から上がってすぐ来たらしく、バスタオル一枚姿で髪の毛もまだしっとりと濡れていた。

「大変大変っ!」

 姉がばたばたとベッドの横までやってきて私を覗き込む。その格好だとタイヘンがヘンタイに聞こえなくもない。

「……ちゃんと拭かないと風邪ひくよ」

「じゃあさくら拭いて~」

 にこりと笑いベッドに腰掛けた姉に「もー」と言いながら衣料タンスからハンドタオルを取り出す。姉の髪をタオルで挟みぽんぽんと叩き水気を吸い取ってあげる。

「ドライヤーもお願い~」

「はいはい」

 姉には私をぎゅっとしたい日とぎゅっとされたい日があるらしく、日によって甘え方が全然違う。姉というより妹のような振る舞いをするのは、私にとことん甘えたい気分のときだ。それを分かっているから私も自然とお姉さんのような口調になる。

「拭いてもらうのはいいけど、タオル一枚でうろうろしちゃダメでしょ」

「は~い」

 最近寒くなってきたから湯冷めするといけないというのもあるが、なにより目のやり場に困る。バスタオルだけでは姉の恵まれたプロポーションを隠すことなど出来ない。露出で言えば水着の方が多いが、防御力の無さはバスタオルの方が上だ。指を引っ掻けるだけで容易に全身が(あらわ)になってしまう危うさは、なんというか私の心がざわざわしてしまう。

(……もみじねぇの胸、見えそうなんだけど)

 走ってきたからなのかバスタオルがずれて姉の胸がこぼれてしまいそうになっている。何度か見たことはあってもその膨らみは視界に入るだけでドキドキしてしまう。

 教えてあげるべきか、それとも何も言わずに見守るべきか。見守ると言えば聞こえはいいが、ただ単に姉の裸を見たいだけなんじゃないかと言われたら反論出来ない。

 理性の私と欲望の私が頭の中で戦いを繰り広げていたとき、姉が自分の胸元を見下ろした。

(気付いた?)

 ほっとすると同時に残念に思う自分がいた。とにかくこれで脳内戦争が終結する。

 姉が胸のところのバスタオルを摘まんだ。そのまま上にあげるかと思いきや、引っ張って胸元を広げてみせた。

「――――」

 私の視線がそこに釘付けになった瞬間、姉が振り向いた。

 目と目が合い、数秒。姉がにんまりと笑う。その表情はすでに甘えるものではなく、妹を困らせて楽しもうとするいつもの姉になっていた。

「見たいなら言ってくれればいいのに~」

「ち、ちが、別に見たいわけじゃ――」

「今更恥ずかしがらなくてもいいじゃ~ん。もう見られてないとこなんてないんだからさ」

「あ、あぅ……」

「いいんだよ? さくらが見たいときに見て、触りたいときに触ってくれれば。私だってそうするからさ」

 姉がゆっくりと私の方へと体を寄せて、私の背中を支えるように腕を回し、ベッドに押し倒した。馬乗りになったまま艶やかに微笑む。

「さくらは、見たくない?」

 私の視線が姉の顔から胸元、体へと移り、知らず溜まったつばを飲み込んだ。

 さっきお風呂に入ったばかりだとかここが私の部屋だとか両親が下にいるとか、そんなことはもうどうでもいい。

「……見たい、よ」

 気付いたときには自分の心に正直になっていた。

 姉は嬉しそうに目を細めたあと、巻いていたバスタオルの端を掴み、その戒めをはらりと解いて。

「――ぃくしっ!」

 くしゃみをした。

 それをきっかけに私に正気が戻ってきた。というよりこのまま雰囲気に流されて欲求を満たすのと、姉が体調を崩すことを天秤に掛けたらどちらが大事かなんて言うまでもない。

 私は体を起こすと問答無用で姉を毛布で包み、再びベッドの端に座らせた。

「え、ちょっとさくら! 違う、今のはほこり! ほこりでくしゃみしたの!」

「いいから。髪乾かすよ」

 ドライヤーを出してきて姉の髪を持ち上げながら温風を当てる。

「ぶー、せっかくさくらがその気になってくれたのにー」

「つべこべ言わない。そんな格好で来たのが悪い」

 そういえばなんで姉はこんな格好なんだっけと思い、最初の姉の慌てようを思い出した。

「もみじねぇ、結局何が大変だったの?」

「え? あぁそうそう! 私の体重が増えてたんだよ! 先月から1kgも!」

 なんだそんなことか、と言えないのは私も気持ちが分かるからだ。1kgは確かに大きい。私もいきなりそれだけ増えたらショックだろう。けどそれが姉の場合だとそこまで深刻にならないのは、きっとそんなことくらいで姉を嫌いになったりするわけがないと分かっているからかもしれない。

「気にし過ぎじゃない? 晩ごはんの前か後かにもよるし」

「いーや、部活やめて受験勉強するようになって夜にちょっと食べることも増えたし、絶対太った!」

「そんなに太ったようには見えなかったけど」

 先程見た光景を思い出す。お腹周りもたるんでいなかったし、相変わらずスタイルは羨ましいくらい良かった。

「それは好き好き補正が掛かってるの。私からすればさくらの体が宇宙一綺麗で魅力的な体だと思ってるからね」

 何も言い返せない。実際その通りだと思う。どれだけプロポーションのいいグラビアアイドルよりも、姉の方が魅力的だ。

「というわけで、筋トレに付き合ってね」

「筋トレ? やるの?」

「うん。最近ちまたで流行(はや)ってるみたいだよ。毎日適度に続けて体調がみるみるよくなったーって」

「ジョギングとかはしないの?」

「してもいいけど、さくらも付き合ってくれる?」

「…………」

 運動が苦手な私には荷が重い。

「ひとりでやってもつまんないよ。だったら私が筋トレするのをさくらに手伝ってもらう方がいい」

 それなら私の負担もないし、姉も続けられるということだろう。こっちとしても異存はない。

「わかった。今日から始める?」

「お風呂上がりは筋肉が緩んでるから筋トレしても脂肪燃焼効果が低いんだって。だからやるのは明日から。晩ごはん前に何セットかやる感じかなー」

「…………」

(明日から始めるつもりなら、別に急いで今日伝える必要はなかったんじゃ……?)

 胸中で独りごちながら、多分お風呂上がりに私に甘えにきただけなんだろうなと思った。いつだって姉の優先順位は私といちゃつくことが一番なのだから。

 乾かした髪を櫛で整え終わると、姉が嬉しそうに「ありがと」と言ってキスをした。



 翌日、学校から帰宅した私達は部屋着に着替えて姉の部屋に集合していた。

 髪を後ろにまとめた姉が手首や足首をぷらぷらさせながら言う。

「それじゃあ今から腕立てと腹筋とスクワット各10回ずつを3セットするからよろしくね」

「よろしくって言われても、私なにすればいいの?」

「腹筋のときは足を押さえてもらって」

「うん」

「他のときは回数を数えながら盛り上げてくれればいいよ」

「……盛り上げる?」

「『頑張って!』とか『やれば出来る!』とか『どうしてそこで諦めるんだ!』とか」

「松岡○造じゃん……」

「まぁ適当に声掛けてくれればいいから~」

 難題を押し付けられて戸惑う私を余所に姉が腕立て伏せを始める。

「筋トレとか久しぶりだな~」

 とか言いながら割とスムーズに腕立てをしていく姉。

「バスケ部でやってたんでしょ?」

「こういう筋トレはあんまりやらなかったよ。スクワットとか反復横跳び系はよくやってたけど」

「あんまりやらなかったのにそんなに出来るの……?」

 筋力テストのときにやった私の腕立て伏せの記録は3回だった。

「そりゃまぁ多少は鍛えてましたから――っと、これで10回だね」

「あ、ごめん数え忘れてた」

「いいよいいよ。じゃあ足押さえて~」

「うん」

 仰向けに寝転がった姉の足を押さえると、腕を前側でクロスさせてリズムよく腹筋を始めた。今度は私も回数を口に出して数えていく。腹筋を終えたらスクワット、スクワットを終えたらまた腕立て伏せから。途中で「きついきつい」と言いながらも3セット終えてしまった。

「ふぇー、久々だしやっぱり2セットにしとけば良かった……」

「すごい。さすがもみじねぇ」

「えっへっへー、さくらに褒められると疲れもとんでっちゃうね」

 床に両足を投げ出したまま姉が笑う。

「せっかくだしさくらもちょっとやってみたら?」

「わ、私?」

「回数決めなくていいから、出来るとこまで」

「……全然出来ないよ?」

「やる前から諦めちゃダメだよ。大丈夫大丈夫、やれば出来る!」

「その応援はいらないんだけど……」

 溜息をついてから腕立て伏せの体勢になる。手はハの字でついた方がいいんだったか。

「い~~~~ち」

 私の腕立てに合わせて姉が数字を言ってくれる。

「に~~~~い」

「――っふ」

 やばい。もう限界が近い。一度背中を丸めて休んでから勢いをつけて三回目に挑む。

「さ~~~~……」

「っ、っ……!!」

「頑張れ~。あとちょっとだよ~」

「ん、っう――」

「あ、さくらのその声と表情、すっごいえっち」

「――――!」

 力が抜けてその場に崩れ落ちた。床にへばりついたまま息を整える。

「……そういうこと、急に言わないでよ……」

「ごめんごめん、つい本音が」

 姉が私の体を仰向けにして、足を抱え込んだ。

「はい、次腹筋」

「オニ……」

「使う筋肉違うから大丈夫。はい、やってみて」

 部活でも後輩に対してこんな感じで指導していたんだろうか。スパルタ、というほど厳しくはないが甘えは許されなさそうだ。腹筋をやるしか選択肢がない。

「ふっ――」

 背中を浮かせて反動をつけて上体を起こす。すかさず姉から注意が飛んできた。

「反動つけたら腹筋にならないよ~。ちゃんとお腹だけで持ち上げなきゃ。はい、もういっかい」

「うぅ……ふっ――んぐっ!!」

「お、その調子その調子」

「う、ぐ、ぐ……!」

「ほらさくら頑張れ~」

「ん――っくぅ――」

「腹筋出来たら、キスしてあげる」

 姉が私の膝に顔を乗せてにこりと笑った。キス。キスはしたい。でも――もう、限界――。

 ばたんと後ろに倒れた。胸を大きく上下させる私を眺めて姉が不満そうに呟く。

「ご褒美用意したら頑張れると思ったのにー」

「……で、出来ないものは、出来ないんだって……」

「逆だったら私何回でも腹筋出来る気がするけどなー」

「……私がご褒美にキスする側?」

「そうそう。ほら、試しに私の足持ってよ」

 よろよろと体を起こして姉の足を持つ。その膝の上に顔を乗せた。

「こう?」

「うん。そのままにしてて」

 腹筋の体勢になった姉が上体を持ち上げた。姉の顔がどんどん迫ってきて、あっと言う間に目と鼻の先までやってきた。

「ね?」

 優しく微笑んだあと、私の唇にキスをした。柔らかな唇が私の感触を確かめるように何度も吸い付いてはねばついた水音をたてる。

 互いの濡れた吐息を重ねながら姉に囁く。

「……筋トレにならなくない?」

「ほんとだ」

 くすりと笑ってから私を床にそっと押し倒す。昨夜と同じようなシチュエーションで姉が見下ろしてくる。

「じゃあ次は腕立て伏せ。1回するごとにキスのご褒美」

 私に被さっていた姉が腕を曲げた。再び近づいてくる姉の顔。案の定というか分かりきっていたというか、姉は私にキスをすると腕を戻すことなくそのまま体を密着させてきた。

 体の触れ合う面積が増えた分、さっきより姉のぬくもりをたくさん感じられる。いつしか私も姉の背中に腕を回し、甘い蜜を求めるべく舌を絡めていた。

「――っ、はぁ――」

 トレーニングもダイエットももう関係ない。ただ、視界を埋め尽くす愛しい人と触れ合いたい。その情動が心を指を唇を動かしている。

 こんな場所でダメだとわかっていても止められない。意志が弱いのではなく、姉への想いが強すぎるのだ。それが姉妹両方なのだから自分たちでは止めようがない。

「――筋トレよりも、こうやって汗かく方がいいかもね」

「……汗かくようなことするの?」

「さくらが付き合ってくれるなら、ね」

 そんな言い方をされてイヤだと言えるわけがない。恥ずかしさから目線を逸らしつつ返事の変わりに唇で答える。差し出した私の唇に姉が優しく唇を重ねた。


 晩ごはんの後、冷静になった私が『筋トレとキスは分けること!』と姉に言い聞かせてとりあえずは今後の方針を固めたという。



        終


大変お待たせいたしました。


昨今の筋トレブームに乗って思いついたものを書いてみました。

きちんとした筋トレをするなら自重トレーニングにしたり、超回復の為に毎日部位をローテーションして行ったりする方がいいのかもしれませんが、筋トレが目的ではないので許してください。

ぎゅっとしたい日とぎゅっとされたい日、という表現は個人的なお気に入り。


【ご連絡】

現在pixivの百合文芸コンテストに短編百合を投稿中です!(2020年1月9日まで)

活動報告やツイッターで投稿のお知らせをしていますので、もしよろしければそちらも是非ご覧ください!

小説家になろうにも投稿する予定ですが、結果が出てからになるのでかなり先になります。


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