恋人姉妹のハッピーハロウィン
恋人で姉妹の二人がハロウィンにかこつけていちゃいちゃするだけのお話
【登場人物】
彩歌さくら:高校一年生。姉のもみじとは恋人同士。
彩歌もみじ:高校三年生。いつでも妹といちゃつくことを考えている姉。
「ハロウィンってさ、恋人たちの為にあるようなイベントだよね」
ハロウィンの数日前、姉が急にそんなことを言い出した。
「そう? どっちかって言うと子供が参加するイメージあるけど。もしくはコスプレを楽しむ日」
「甘いよさくら。ジェリービーンズより甘い」
「なんで急にお菓子の例えだしたの? ハロウィンだから?」
「ハロウィンと言えばあのキーワード『トリックオアトリート』! この魔法の言葉が世のカップルたちには大事なんだよ!」
反応するだけムダなようだ。とりあえず言いたいことを全部言わせようと先を促す。
「それで?」
「お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ――それはつまり、お菓子をもらわなきゃイタズラしていい!」
「いやダメでしょ」
「逆裏対偶の法則だよ」
「……いや対偶じゃないから成り立ってないよ。イタズラするならお菓子はもらえない、が真だよね?」
「それはともかく」
「ともかく!?」
「さくらの周りでもハロウィン当日にお菓子をもらえないならイタズラをしちゃおうモンスターが出没するかもしれないから気を付けてね」
「……分かった」
言ってる意味は分からないけど、姉が何をしたいかはよく分かった。
十月三十一日。ハロウィンの日がやってきた。
すでに備えは万全。チョコレートの詰め合わせを買ってあるので複数回に渡ってやってこられても大丈夫だ。イタズラってどんなことされるんだろうかとちょっと気になったが自分から『イタズラして』なんて恥ずかしくて言えるわけがない。
(お菓子を渡さなければイタズラしてもらえるのかな……? だ、ダメダメ! もみじねぇのことだからここぞとばかりに私の想像もつかないようなスゴいことをしてくるに違いない)
先日の姉の誕生日に身も心も結ばれたとはいえそういうのにはまだ耐性がない。
(そのうち慣れて私からお願いすることもあるのかな……)
そんな自分を想像するだけで全身が熱くなり枕に顔を突っ込みたくなる。けどきっと、そのときの私も幸せなんだろうな、と思った。
準備を整え、さぁいつでも来いと構えていたのだが姉からの接触は全然なく、平和に時間が過ぎていった。てっきり日付が変わった瞬間や、登下校の最中なんかで言ってくるものと思っていたので拍子抜けだった。
しかし油断は出来ない。姉のことだからトイレの瞬間やお菓子を渡せないタイミングを狙っているのかもしれない。
「さくら、晩ごはんの前にお風呂入ってきなさい」
「はーい」
お母さんに言われて浴室に向かう。頭と体を洗ってから湯船に浸かり、ふぅ、と心地よい息が漏れ出たとき、はたと気が付いた。
――今を狙われたらマズいんじゃないか。
お菓子どころか服すらもない裸一貫状態。こんなときに『トリックオアトリート』と入って来られたら為す術がない。
いや待て冷静になろう。いくら姉が私のことに関しては暴走しがちと言っても、さすがに母がリビングにいるのに浴室の中にまでは入ってこないはずだ。
(私なら――お風呂から出た瞬間を狙う)
ちゃぷ、と上半身を出してドア越しに洗面所の方を覗いてみる。
「――――」
人影があった。あのシルエットは間違いなく――。
「さーくら」
「!?」
驚いてお湯がバシャリと跳ねる。
「な、なに? もみじねぇ」
「もうそろそろ出る? 次私入るから」
「え、えっと、今浸かったとこだからもうちょっと掛かるかな」
「何分くらい?」
「10分、いや15分くらい掛かるかも。あ、出たら呼ぶからもみじねぇ部屋に行ってていいよ」
「そっかー。分かった」
「…………」
ドアの前から人影が離れた。
(私の考え過ぎだった……? まぁとにかくもみじねぇがいないうちにお風呂を出ちゃおう)
一度肩まで浸かって体を温めたあと、ザバっと立ち上がった。一応確認の為にドアをそっと開けて首を洗面所に出す。よし、誰もいない。
浴室から出てバスタオルを取り体を拭き始める。ふと鏡を見た瞬間、洗面所の扉が開いた向こうに姉が立っていた。
「ひっ――」
「もう出たんだ。早いね」
姉はにこにこと満面の笑みで私に歩み寄り洗面所の扉を閉めた。逃げ場はないぞと言うように。軽くホラーだ。
「お、おどかさないでよ。お風呂入るんでしょ? あいたから入っていいよ」
「トリックオアトリート」
「!」
「さくら、トリック、オア、トリート」
やっぱりそれが狙いかと気付いてももう遅い。姉は私の後ろから抱きつき、濡れるのも構わずに囁く。
「ほーら、お菓子は? くれないんだったらイタズラしちゃうよ?」
お菓子は手元には無い。脱いだ服のポケットにチョコが入れっぱなしだが動きを封じられているので取ることが出来ない。
姉の手が肌の上をなぞるように滑っていく。動悸が早くなり胸の内側を激しく叩く。お風呂から出たばかりなのに湯冷めするどころか体温が上昇していっているようだ。
すでにイタズラをされるかどうかよりも何をされるかで頭がいっぱいだった。まさかこんな所でと思うのと同時にもしここでされたらと思うと正常ではいられない。
「も、もみ、ね……」
舌が回らない。鏡に映った私は全身が紅潮していて、自分でもとても色っぽく見えた。
姉の指がお腹から腰へ、腰から太ももへと降りていく。その指の軌跡から痺れるような感覚が脳へと昇ってきて思わず声が出そうになり唇を噛んだ。
「――――っ」
腕の関節は鉄のように固いし足は床に貼り付いて動かない。
違う。動けないんじゃなくて動きたくないんだ。
だって、いくら頭でダメなことだと分かっていても私の心がもっと触れて欲しいと思ってしまっている。
撫でて欲しい触って欲しい、くすぐって欲しい爪弾いて欲しい。体の全てで姉の愛を感じ取りたい。
「さくら……」
艶と吐息の混じった囁きに鼓膜が震える。
肌と耳から脳を揺さぶられて私の理性の堤防が崩れた。
「おねぇ、ちゃん……」
唇のぬくもりを求めて顔を横に向けたとき――頬を指で突かれた。
「はい、イタズラ大成功〜」
「…………え?」
淫靡な雰囲気などどこへやら。いつもの朗らかな表情に戻った姉が楽しそうに笑う。
「ドキドキした? ねぇドキドキした? さすがの私でもここでそんなことしないよ〜」
「…………」
うりうりと頬を捏ねくり回してくる姉を睨んだ。抗議、というかまんまと乗せられてその気になってしまった自分が恥ずかしかった。今更の話ではあるが、結局ところ姉にイタズラされることをどこかで喜んでいたんだろう。
姉がなだめるように私の濡れた頭を撫でる。
「そういうのはちゃんとしたときに、ね?」
「……うん」
不満も恥ずかしさも一瞬でどこかに消えて、淡い嬉しさだけが胸に残った。
「お風呂あがりにごめんね。体冷えてない?」
「大丈夫」
姉がタオルで髪を拭いてくれる。体はまだ火照っていた。当たり前だ。昂ぶった感情はそうそう冷めたりしない。
このまま拭き終わって部屋にすぐ戻るなんて出来なかった。
「ドライヤー掛けるよー」
「……もみじねぇ、トリックオアトリートって私が言ってもいいの?」
その意味を姉はすぐに察してくれた。ドライヤーを手に持ったまま穏やかに微笑む。
「いいよ。お菓子欲しい? それとも私にイタズラしちゃう?」
「……甘いのが欲しい」
「りょーかい」
姉は私の頬に手を添えて、とびきりの甘いキスをしてくれた。
終
お待たせいたしました。
短めの時節ネタです。ハロウィンぽいかと言われたらいつもどおりな感じですが。




