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異世界転生者採用面接試験  作者: ハデス
7/10

4人目 ~シャンパン入りまーす!~ 吉田修一


 今は試用期間中だから、異世界面接が1日1回だ。

 それ以外は謎の雑用をやらされている。

 ポセイドン姉さんに聞いたところ、最高1日50人とするらしい。

 ひえー、めんどくさい。

 冥界の面接は多くて20人くらいなのに。

 面接内容は罪状読み上げて、質疑応答して、契約書にサイン。

 私はめんどーだから、契約書にサインさせるだけの簡略面接だけどね。

 うーんでも、簡略にした結果、面接者とバトルが多くなったんだよなー。

 なんでだろう、時代かな?

 ……というか、今んとこ面接で全員冥界送りにしちゃってるな。

 これ以上送るとヤバイな、もう現時点で十分アウトだけど。

 つか、今更だけど、現世の人間を冥界に送ったのは初めてだったな。

 うわぁー、やばい前例つくっちゃたよ。

 

 ……まぁ、いいや。

 もう過ぎたことだし、何とかなるだろう。

 今日はこの異世界面接で最後だし。

 よーし、頑張るぞ!

 

  ※


吉田よしだ修一しゅういちさん。あなたは死にました」

 

「おいおいマジか」

 

「マジです。お悔やみ申し上げます」

 

「いやいや、それ残された人に使う言葉だから! 当事者には使わないから!」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、そうだよ!あと、俺の名は『アレキサンダー』、通称『アレク』ね」

 

「あれ、日本人でしたよね?」

 

「ちっちっち」


 人差し指を左右に振ったあと、吉田は、


「俺の職業はホ・ス・ト。基本的には源氏名で呼んでもらわないと、ね?」


 言い終わる直前にウインクした。


 え、またこーゆー系?

 こーゆー頭いっちゃってる系?

 なんか目の前の人は前に冥界に送ったヤンキーよりも光った髪色してるし。

 ウェディングドレスも真っ青になるほどの純白なスーツに、どういう思考回路したらそれをチョイスするのか、理解に苦しむワインレッドのワイシャツを着ている。もちろん第二ボタン開けている。

 しかも体の至る所に金ピカのアクセサリーつけてるし。


「あのー金ピカさん」


「金ピカさんってなにッ!? なにそのクソダサネーム。あだ名つけるならもっと輝いたものにしてよ!」


「じゃあツルピカさん」


「バカにしてんの!?!? そのネームだと一部分しか輝いてないから!! そんでそいつの一部分はもうお先真っ暗だから!!!!」


 前に乗り上げてダイナミックに突っ込んでくる。

 テンションたけー。


「あのー、ホ、ホストってどのようなご職業なんですか?」

 

「美しいお姫様ひめさま至福しふくの時間を提供する仕事かな」

 

「はい?」


 理解出来なかった。

 吉田は面接中にも関わらずスーツのポケットからクシと手鏡と出して髪を整えだす。

 やべー奴なのはわかるが、今までとはまたベクトルが違う。

 ただ、めんどくせーってのは確実だな。

 つか、お姫様って……。

 女性のこと姫って言うんか。

 あー、また変なの来ちゃったよ。

 頭の処理が追い付かず、混乱する。 


「これでも俺は店でナンバーワンだったんだぜ。一日の最高売り上げは三千万かな」

 

「あのー、それって凄いことなんですか」

 

「凄いことだよ! 三千万なんてなかなか売り上げられないからね」

 

「はぁー、そうなんですか」


「いやー昨日のシャンパンタワーも圧巻だった。大きな声で『シャンパン入りまーす!』ってね。それからのシャンパンコール。もう、昨日は甘美なミッドナイトだったよ」


「へぇー」


 私は自分の毛先を見る。

 痛んできたなー、しっかりとケアしないと。

 アフロディテにでも手入れの仕方教えてもらおう。

 

「……なんか興味なさそうだけど?」

 

「まぁぶっちゃけ」


 その発言を聞くなり、吉田は落ち込むが、すぐに気を取り直して尋ねてきた。

 

「ん? そういえば君、名前なんていうの?」

 

「え、私? 私は冥界の王である神ハデスです」

 

「へぇー、可愛い名前だね。君にピッタリだよ」


 投げキッスされた。

 

「これでも神なんですけど。口の利き方に気をつけてもらいたいですね」

 

「これはこれは、姫に失礼いたしました」


 ついに私を姫呼ばわりしてきた。

 しかも顔がさっきのツッコミおとぼけ顔からシャキッとした営業フェイスになってやがる。

 さっさと終わらせて帰ろう。

 

「とりあえず、あなたは死にました。そこであなたに二つの選択があります。一つは記憶を消して現世に転生すること。もう一つは記憶を保持したまま異世界に転生し、魔王を倒すことです。」

 

「異世界? 魔王?」


「説明します。異世界は魔法や特殊能力がある世界です。あなた方の世界でいう、ファンタジーな世界だと思ってくださってかまいません。しかし、その世界ではちょっとした手違いがあり、魔王が生まれました。そこであなた方転生者には魔王を討伐して頂きたいのです。こちらからの援助としては、記憶の保持、言語習得のみです」

 

 今回はなかなかいい説明したんじゃない?

 そのおかげか、吉田が質問することなく考え込む。

 すんなり理解できたとみていいだろう。

 私は常に進化する。

 退化の二文字はないのだ。

 

「なるほど、じゃあ、俺は異世界にします」

 

「ほう、理由は?」

 

「現世ではたくさんの姫に喜ばせました。次は異世界でって感じですね。俺は自分の可能性を試してみたいんです」

 

「私の話聞いてた?」


 ……こいつ、魔王討伐する気ゼロだろ。

 

「その私の異世界の第一のお姫様がハデス、あなたです」

 

「はいそうですか。じゃあ面接始めましょうか」

 

「あれ……おかしいな? 普通ならこれでお姫様はみんなイチコロなのに」

 

 手応えを掴めないのか、吉田は自らの右手をグーパーする。

 私はその仕草が終わるのを待たずに質問する。 


「じゃあ、あなたが異世界に行きたいと思う理由はなんですか」

 

「え、あぁ、って、さっき言ったじゃないですか! しっかり聞いててくださいよ! 自分の可能性を試したいって。異世界の女の子を落とすんですよ! そんで異世界のホスト王となるんです」

 

「テメーこそ話聞いてねーじゃねーか!! 異世界に送る理由は、魔王を倒すためだっつてんだろ!!!」

 

「フゥウー、それが君の素顔かい? ちょっと怖いけど、そのギャップが可愛いね。君みたいな子は初めて会ったよ」

 

 ブチッ―――。

 

「冥界行き」

 

「え?」

 

「冥界行き」

 

「ちょちょちょ、早い早い、冥界行き早いよ」

 

「じゃあ、その営業やめろ。腹立つわ」


「ふぅー、わかった、わかりました」


 やれやれ、お手上げ状態だ、というジェスチャーをオーバーにする吉田。

 そのあと、オーケーオーケーわかったわかったと私をなだめるように手で、抑えて抑えて、と表現したあと、足を組んで顎に手をえて、よし、君の要望に従うよ、言ってみという恰好をする。

 あーキレそう。

 こいつは生理的に無理な部類だわ。

 でも一応、面接はしよう。


「はい、次の質問です。あなたの強みは何ですか?」

 

「女の子を元気にしちゃうこと」

 

「魔王は男なんでその強みはいかせないっすね」

 

「じゃあ、幹部とかは?」

 

「幹部は過程であって、最終目的は魔王ですから。それに女の子というよりは雌って部類ですね、人間の感覚で言うと。それに幹部の女はみんな魔王にメロメロですから」

 

「そっちの方が俄然がぜんやる気出る」


 目に闘志を燃やす。

 なんでこんなに自信があるんだ?


「あ、そうそう、ホストってどうやって女性を持て成すんですか?」

 

「酒とトーク力で。酒はまぁ、ノンアルコールでもいいですけどね」

 

「幹部の戦いの最中に酒飲んで話すんですか?」

 

「まぁ、セオリーなら。他にも誕生日プレゼント送るとか、幹部のところに毎日通うとかですかね。店に来ると他の姫が驚いちゃいますから」

 

「正気ですか?」

 

「正気です」

 

「そんなこと成功しませんよ」

 

「ふっ、成功者はいつだって最初は馬鹿にされるんですよ」

 

「へー」


 頭お花畑か。

 

「それにね、歴史は暗記するもんじゃなくて、作るもんですから」


 ほう、面白いことを言う。

 歴史を作り見てきた私に向かってそのようなことを言うとはな。

 私は笑みを浮かべて頭お花畑くんに向けて提案する。


「そう。そこまで言うなら歴史作ってもらいましょうか。冥界で」

 

「なんで!? つか、さっき姫が言った選択肢のなかで冥界っていう選択なかったんですけど!?」

 

「隠し選択肢」

 

「いらないから、そーゆー遊び心いらないから!!」

 

「……というか、さっき言ってたじゃないか、歴史は作るもんだって。冥界にはホストがないんだよ」

 

「!?」


 吉田の頭に電流走る。

 

「その伝説の男に、お前がなるんだ」

 

「姫……」

 

「今日からお前は、冥界のホスト王だ!!」


「……はい!!」


 吉田が輝いた目で頷く。

 どうやらやる気は十分あるようだ。

 今のうちに話をまとめておこう。

 

「よし、じゃあここにサインを」


 ホストくんはろくに契約書を読まずに素早くサインした。

 あれ、こいつサインに『アレキサンダー』って英語筆記体で書いてやがる。

 これって大丈夫なのか?

 つか地味に字が上手いのが腹立つな。

 

「そうだ、お前のお気に入りの言葉とかないの?」

 

「そうですね、『シャンパン入りまーす!』ですかね。シャンパン好きなんです、俺」

 

「へぇー、私もシャンパンが好きだ。君の店が繁盛したら、行くとしよう」

 

「はい!!」

 

 冥府へとつながる紫色の紋章が、吉田の足元に出現する。


「あ、なんか下が光って―――――」

 

「それは冥界へ行く紋章だ」


「そうですか。じゃあ、いっちょ歴史を作ってきます!」 

 

「ああ、頑張ってこい」

 

「はい! 冥界のホスト王に、俺はなる!!」

 

「……ストップストップ、それは駄目だ。その台詞はよくないな。違うのでもう一度やり直して」


 紋章の中へ消えそうになるところを、吉田の首根っこ掴んで止める。


「えー、じゃあ、シャンパン入りまぁーーす!!!」


 ブオン。


 ホストくんは冥界へと旅立った。

 ……まぁ、冥界に酒なんてないし、個人が所有できる土地とかないから、永遠に店開けないけどね。

 でも、歴史作るとか言ってたから、まぁいいか。

 刑期は300年。

 罪状は詐欺でいいか。

 ふぅーーー、今日も仕事終わった。

 やっぱ冥界に送るとストレス発散になるな。

 ……明日は休日だし、今日はシャンパン飲むか。

 シャンパン入りまーす!!

 なんつって。


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