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異世界転生者採用面接試験  作者: ハデス
5/10

3人目 ~チートを我が手に~ 西谷誠也


 ううぅ、昨日はネルガルと飲みすぎて頭が痛い。

 昨日の酒のあまりの美味しさについついやっちゃった。

 ネルガルは今日休みって言ってたし、アイツ本当に抜け目ないな。

 うぇー、気持ち悪い。

 今日の面接はさっさと終わらせてしまおう。

 

  ※

 

「に、西谷にしたに誠也せいやさん、あな――――――」

 

「うぉぉぉぉーーーすげぇぇぇぇー!!! 本当にあったんだ、死後の世界!! しかも可愛い女性との面接!! なにこれもしかして、異世界転生ってやつか!?!!?」

 

 ……なんだこいつ。

 目の前に現れたのはブレザーの制服を着た黒髪の男子高校生。

 生意気にも第二ボタンは開けており、群青色のネクタイを緩く締めている。

 それはともかく、死んでんのになんでこんなテンション高いんだよ?

 こっちは二日酔いでテンションゼロだというのに……。

 しかもアイツの声、妙に高いから、二日酔いの頭に響いて痛い。 


「ん? なんか酒臭いんだけど? もしかしてお姉さん……」

 

「い、いや、飲んでないですよ。酒」

 

「いや、俺まだ何も言ってないけど?」


 ドヤ顔で言われた。

 この野郎……!

 

「まぁ、いいや。ここって死後の世界だよね?」

 

「そうです。なんか……うっ! ……や、やけに冷静ですね」


 マズい。気を抜いたら吐きそう。 


「まぁね、俺達の世界では異世界転生ものが流行っているからな」

 

「へぇー……異世界のことも知っているとは……」


 話が早くて助かる。

 いちいち説明する手間が省けたわ。

 

「えーっとですね、ウゲー。あなたは死にました。そして、ウッ!! ……あな、あなたはランダムで選ばれた特別な人間でもあります。こ、ここからあなたの選択肢はふた、二つぅー……。一つは記憶を消して現世にウゥ転生。もう一つは異世界に―――――」


「異世界に転生で!!!」


 こいつ、人の話を最後まで聞けないのか?

 まぁ、ここは私が大人になってあげねば。

 この人も伝説のヤンキー君と同様に、18歳だからな。

  

 しかし今のままでは面接が出来ない。

 その前に吐いてしまう。

 ――――仕方があるまい。

 トートバッグから超高級な薬を取り出し、口の中に放り込み、水で流し込む。

 すると見る見る吐き気がなくなり、頭痛も綺麗さっぱりなくなった。


「ふぅー、スッキリ。……では、異世界に転生するための面接を始めます」


 いつもの美しい顔をして言った。

 

「え、面接やるの?」

 

「ええ、やりますよ。異世界に行く人の最終目標は魔王を倒すことですから」

 

「やっぱ、魔王いるんだ?」

 

「ええ、います」

 

「異世界ってさ、魔法とか異能とかある? 使える?」


「努力は必要ですが、使えます」

 

「へぇー、そうかあ。楽しみだなあー!!」

 

「あのー、まだ行けるとは限りませんからね?」

 

「わかっているよ。それにしても、こんな可愛いお姉さんに会えるなんて、それだけでも死んだ甲斐かいがあったな。」

 

 可愛いって初めて言われいた!! キュン!!!

 ――――なんて思うとでも思ってんのかこいつは!?

 キモい。

 果てしなくキモイ。

 何こいつ、超絶気持ち悪いんだけど。

 マジでどうした?

 死んだショックで頭イカれたか?

 あとこいつ、なんでタメ語なんだよ。

 冥界送りにすんぞ。

 つっても前回、前々回と冥界に送っているからな。

 これ以上冥界に送るのはよくない。

 真面目にやるか。

 

「じゃあ、はじめますね。私はハデスです。よろしくお願いします」

 

「ええええ!! ハデスかよ!! 男だと思っていたが、女なんだな」

 

「一応、真面目な面接ですからね、言葉遣いもしっかりして頂かないと」

 

「あーはいはい。わかりました。気をつけまーす!」


 ふぅー、落ち着け、我慢だ、我慢よハデス。


「では、西谷さん。自己PRをお願いします」

 

「うーん、自己PRですか。例えば?」


 面接に来て例えばっておかしいだろ。

 

「え、ええと、異世界では魔王を倒すために行くわけですから、喧嘩が強いとかだと嬉しいですね」

 

「あ、それなら潜在能力はあると思いますよ。小学五年生の時だったかな。上級生三人に囲まれてリンチされてたんだけど、途中からプツンときて、気付いたら周り血だらけで倒れていたってことがあって、キレたらやばいって言うか――――」

 

「はい、ダウト」 


 西谷を指差す。


「ちょちょ、ちょっと!!! ダウトって!!」

 

「いやいや、いくらなんでもわかりますよ。どう考えてもそんなの嘘でしょ」

 

「そんな……。そうだ! ショーコ、ショーコはあるんですか?」

 

「証拠はないですねー」

 

「じゃあ、証明できないっすよね」

 

「ではあなたの言う潜在能力、今ここで試してみましょうか?」

 

「え?」

 

「いやね、私、本職は冥界の面接なんですよ。そんなところに来る奴って、大抵血の気の多いもんばっかでね。なかなか契約書にサインしないんですよ。それでそんな奴らを力でねじ伏せるのが私の役目なんですわぁ」

 

「え……?」


 西谷の顔がみるみる引きつり、青ざめる。

 心なしか、今まで前のめりだった姿勢が後ろにさがっていた。

 

「戦いましょうか。その潜在能力、発揮しないと実践ではクソの役にも立ちませんからね。勝てたら、問答無用で異世界に送りましょう。その代わり……」

 

「その代わり……?」

 

「もし負けたら、冥界二百年送りですからね?」

 

「え、じゃあ、やめときます」


 即答しやがった。

 根性無しめ。

 せめて冥界がどういう場所か聞いてから言えよ。

 

「じゃあ、詐称ってことでいいんですね?」


「……はい、かまいません」


 彼はしょんぼりした。

 

「はい、じゃあ自己PRの続き、お願いします」


「……」


 ん?

 なんかこの人、体モジモジさせてんだけど。

 

「どうされました?」

 

「あ、あのー……」

 

「はい?」

 

「実は、生まれてから一度も、その、あの、何もなくて……」

 

「は?」

 

「自己PRするもの、ありません」


 そう言いながら彼は涙目になり、一気に卑屈ひくつになった。

 荒々しいと思ったらすぐに大人しくなったりと、風のような奴だな。

 

 ――――ったく、しょうがねぇなぁ。


「西谷さん。何かあるでしょう? ほら、ね?」


「ないです」


 今にも崩れ去りそうになる西谷。

 今こそ潜在能力を引き出す時だろ?

 呆れつつも、私は助け船を出す。


「ほら、何でもいいですから。些細なことでもいいですから。思いついたのを思いついたまま言えばいいんですよ」


 すると西谷はうつむきながら少し考え込み、あっ、と頭に上にペカッと電球が光ったような顔をした。


「輪投げが得意です」


 輪投げ? なんじゃそりゃ? という言葉が出るのをグッとこらえ、


「いいじゃないですか! 他には!?」


「あ! あとは綾取あやとり!!」


「おお!!!」


「でんぐり返しも!!!!」


「おおおーっ!!!!!!」


「紙飛行機を長く飛ばせる!!!!!!!」


「ふざけるんじゃない!!!!!!!!!!!」

 

 バン! と机を叩いた。


「えぇー……」


 西谷がイタズラして怒鳴られた子犬のように萎縮いしゅくする。

 

「綾取りとかでんぐり返しとか上手くても魔王なんか倒せるか!!!」


「さっきまでノリノリだったじゃん。それに何でもいいってハデスさんが……」


「うるせぇぇぇぇっ!!!」


 再び机を叩いてぼやく西谷に一喝いっかつした。

 それに対し、今度は口を尖がらせた。

 どうやら不満たらたらのようだ。


「ま、こんなんじゃ異世界に転生できませんね。来世に期待してください」


「そんな!?」


 西谷がガバッと立ち上がった。

 座っていた木の椅子が後ろに倒れた。


「どうしても異世界に生きたいんです! 異世界に行ったらマジで頑張るんで、ホントお願いします! 俺もラノベの主人公みたいに輝きたいんです!! 俺もしたいんです、恋とか、俺TUEEEEとか!! お願いします!!!」


「ダメです」


 一蹴いっしゅうすると、西谷がゾンビのように近づいてくる。


「頼むよ~。俺だって輝きたいんだよぉ~。今まで良いことなかったんだからさ~。なぁ頼むよ~綺麗な灰色の髪したお姉さん~」


「な、甘ったれる―――め、やめろー! 私に触るな! お、おい、離れやがれ!!!」


 私の前にある机をまたぎ、一反いったん木綿もめんのように西谷がまとわりついてきた。


「頼むよぉ~輝きたいんだよぉ~」


「く、やめろ! 根性なしめ!」


 西谷のうにゃうにゃ動かす手を払いのけ、蹴って突き飛ばす。

 べちゃっと右肩から地面に倒れる西谷。

 ゾンビのように受け身を取らずに倒れたのがかなり不気味だった。


「はぁはぁ……くそ、なんだこいつは!?」


 なんでこんな変な奴を私が担当しなきゃならないんだ。

 こういうアブノーマルな奴は正規の面接官が担当するべきだろ。


「うぅ……うぅ……」


 今度は葉っぱが落ちるように地面に座り込み、すすり泣き始めた。

 勘弁してくれ。


「お願い……ハデスぅー……」


「だめだ。それに呼び捨てにするな。死んでからも甘ったれてるんじゃない。自己PRも出来ないくらい、努力してきてねー人間を、今まで逃げてきた人間を信用できるものか!」

 

「そんなぁ! そこを何とかお願いします!」


 西谷は目にも止まらぬ速さで正座して、額を地面につくほど頭を下げた。

 

「お、おいおい、人間がそんな簡単に土下座をするな」

 

「本当に行きたいんです!! 異世界に!!! ハーレム……いや、可愛い彼女を作りたいんです!! イキリたいんです!!!」

  

 土下座を超え、もはやピンと体を棒のようにして寝そべった。

 いわゆる『土下寝』である。

 プツっと私の頭の中で何かが切れた。

 

「わかった」

 

「え、じゃあ――――――」

 

「お前を現世に転生はしない」


「おお……」


 頭だけを上げ、背筋している形となった西谷。


「ただし、異世界にも転生させない」


「――――え?」


「お前は、冥界行きだ!」

 

「はいぃぃぃぃぃ!?!?!?!?!?」


 西川は跳ねるように体を上げた。


「二年間、冥界で修行をしろ。それが完了したら、異世界に送ってやる。もし、無事やり遂げたらボーナスとして、特殊能力、つまり異能もつけてやろう」

 

「め、冥界の修行って、例えば?」

 

「そんなん聞いてどうする。どうせ行けばわかるんだ。知らない方がいいだろう」

 

「ち、ちなみに人間は?」

 

「ああ、いるよ。二人。一人は三年で、もう一人は三万年だ。どうだ、それに比べたら楽だとは思わんか?」

 

「せ、性別は?」

 

「男だよ、2人とも」


「え、いやだ……いやだ……」

 

 この期に及んでまだすがり付いてくる。

 本当にどうしようもない奴だ。


「だめだ、お前の冥界行きはもう決定事項だ」


 パチンと指を鳴らし、冥府の門を召喚した。

 西谷は、門の登場に自らの運命を察し、口と目を限界まで開けて絶句している。

 

「だめだ……。行ったらきっと自殺するよ」

 

「安心しろ、冥界はすでに死んだ者が行くところだ。自殺したくても出来ない仕組みになっている。だから確実に二年間修業できる。よかったな。逃げ道が無くて」

 

「い……いやだ……」

 

「さぁ、契約書のサインしろぉ~」


 涙で濡れた西谷の頬に冥界の契約書をこすり付ける。 


「い、いやだ」


「なら後からでいい。でもサインが遅くなる分、修行日数も増えるぞ」


「そ、そんなぁー!」


 私はこの腰抜けくんを片手で持ち上げ、門に放り込んだ。

 

「いーーーーーーやーーーーだーーーーーーー!!!!!!」

 

 バタン!


 門は閉まった。西谷を無事に吸い込んで。

 ……。

 まぁ、二年修行したら、そのまま現世に転生されるんだけどね。

 嘘ついちゃった。

 ……。


「くっ、私に嘘をつかせるな……」


 苦い表情で独り言でこれ言うと、良い神っぽいから言った。

 ふぅー、すっきりした。

 仕事頑張ったな~。

 今日は唐揚げとハイボールだな。


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