3人目 ~チートを我が手に~ 西谷誠也
ううぅ、昨日はネルガルと飲みすぎて頭が痛い。
昨日の酒のあまりの美味しさについついやっちゃった。
ネルガルは今日休みって言ってたし、アイツ本当に抜け目ないな。
うぇー、気持ち悪い。
今日の面接はさっさと終わらせてしまおう。
※
「に、西谷誠也さん、あな――――――」
「うぉぉぉぉーーーすげぇぇぇぇー!!! 本当にあったんだ、死後の世界!! しかも可愛い女性との面接!! なにこれもしかして、異世界転生ってやつか!?!!?」
……なんだこいつ。
目の前に現れたのはブレザーの制服を着た黒髪の男子高校生。
生意気にも第二ボタンは開けており、群青色のネクタイを緩く締めている。
それはともかく、死んでんのになんでこんなテンション高いんだよ?
こっちは二日酔いでテンションゼロだというのに……。
しかもアイツの声、妙に高いから、二日酔いの頭に響いて痛い。
「ん? なんか酒臭いんだけど? もしかしてお姉さん……」
「い、いや、飲んでないですよ。酒」
「いや、俺まだ何も言ってないけど?」
ドヤ顔で言われた。
この野郎……!
「まぁ、いいや。ここって死後の世界だよね?」
「そうです。なんか……うっ! ……や、やけに冷静ですね」
マズい。気を抜いたら吐きそう。
「まぁね、俺達の世界では異世界転生ものが流行っているからな」
「へぇー……異世界のことも知っているとは……」
話が早くて助かる。
いちいち説明する手間が省けたわ。
「えーっとですね、ウゲー。あなたは死にました。そして、ウッ!! ……あな、あなたはランダムで選ばれた特別な人間でもあります。こ、ここからあなたの選択肢はふた、二つぅー……。一つは記憶を消して現世にウゥ転生。もう一つは異世界に―――――」
「異世界に転生で!!!」
こいつ、人の話を最後まで聞けないのか?
まぁ、ここは私が大人になってあげねば。
この人も伝説のヤンキー君と同様に、18歳だからな。
しかし今のままでは面接が出来ない。
その前に吐いてしまう。
――――仕方があるまい。
トートバッグから超高級な薬を取り出し、口の中に放り込み、水で流し込む。
すると見る見る吐き気がなくなり、頭痛も綺麗さっぱりなくなった。
「ふぅー、スッキリ。……では、異世界に転生するための面接を始めます」
いつもの美しい顔をして言った。
「え、面接やるの?」
「ええ、やりますよ。異世界に行く人の最終目標は魔王を倒すことですから」
「やっぱ、魔王いるんだ?」
「ええ、います」
「異世界ってさ、魔法とか異能とかある? 使える?」
「努力は必要ですが、使えます」
「へぇー、そうかあ。楽しみだなあー!!」
「あのー、まだ行けるとは限りませんからね?」
「わかっているよ。それにしても、こんな可愛いお姉さんに会えるなんて、それだけでも死んだ甲斐があったな。」
可愛いって初めて言われいた!! キュン!!!
――――なんて思うとでも思ってんのかこいつは!?
キモい。
果てしなくキモイ。
何こいつ、超絶気持ち悪いんだけど。
マジでどうした?
死んだショックで頭イカれたか?
あとこいつ、なんでタメ語なんだよ。
冥界送りにすんぞ。
つっても前回、前々回と冥界に送っているからな。
これ以上冥界に送るのはよくない。
真面目にやるか。
「じゃあ、はじめますね。私はハデスです。よろしくお願いします」
「ええええ!! ハデスかよ!! 男だと思っていたが、女なんだな」
「一応、真面目な面接ですからね、言葉遣いもしっかりして頂かないと」
「あーはいはい。わかりました。気をつけまーす!」
ふぅー、落ち着け、我慢だ、我慢よハデス。
「では、西谷さん。自己PRをお願いします」
「うーん、自己PRですか。例えば?」
面接に来て例えばっておかしいだろ。
「え、ええと、異世界では魔王を倒すために行くわけですから、喧嘩が強いとかだと嬉しいですね」
「あ、それなら潜在能力はあると思いますよ。小学五年生の時だったかな。上級生三人に囲まれてリンチされてたんだけど、途中からプツンときて、気付いたら周り血だらけで倒れていたってことがあって、キレたらやばいって言うか――――」
「はい、ダウト」
西谷を指差す。
「ちょちょ、ちょっと!!! ダウトって!!」
「いやいや、いくらなんでもわかりますよ。どう考えてもそんなの嘘でしょ」
「そんな……。そうだ! ショーコ、ショーコはあるんですか?」
「証拠はないですねー」
「じゃあ、証明できないっすよね」
「ではあなたの言う潜在能力、今ここで試してみましょうか?」
「え?」
「いやね、私、本職は冥界の面接なんですよ。そんなところに来る奴って、大抵血の気の多いもんばっかでね。なかなか契約書にサインしないんですよ。それでそんな奴らを力でねじ伏せるのが私の役目なんですわぁ」
「え……?」
西谷の顔がみるみる引きつり、青ざめる。
心なしか、今まで前のめりだった姿勢が後ろにさがっていた。
「戦いましょうか。その潜在能力、発揮しないと実践ではクソの役にも立ちませんからね。勝てたら、問答無用で異世界に送りましょう。その代わり……」
「その代わり……?」
「もし負けたら、冥界二百年送りですからね?」
「え、じゃあ、やめときます」
即答しやがった。
根性無しめ。
せめて冥界がどういう場所か聞いてから言えよ。
「じゃあ、詐称ってことでいいんですね?」
「……はい、かまいません」
彼はしょんぼりした。
「はい、じゃあ自己PRの続き、お願いします」
「……」
ん?
なんかこの人、体モジモジさせてんだけど。
「どうされました?」
「あ、あのー……」
「はい?」
「実は、生まれてから一度も、その、あの、何もなくて……」
「は?」
「自己PRするもの、ありません」
そう言いながら彼は涙目になり、一気に卑屈になった。
荒々しいと思ったらすぐに大人しくなったりと、風のような奴だな。
――――ったく、しょうがねぇなぁ。
「西谷さん。何かあるでしょう? ほら、ね?」
「ないです」
今にも崩れ去りそうになる西谷。
今こそ潜在能力を引き出す時だろ?
呆れつつも、私は助け船を出す。
「ほら、何でもいいですから。些細なことでもいいですから。思いついたのを思いついたまま言えばいいんですよ」
すると西谷は俯きながら少し考え込み、あっ、と頭に上にペカッと電球が光ったような顔をした。
「輪投げが得意です」
輪投げ? なんじゃそりゃ? という言葉が出るのをグッと堪え、
「いいじゃないですか! 他には!?」
「あ! あとは綾取り!!」
「おお!!!」
「でんぐり返しも!!!!」
「おおおーっ!!!!!!」
「紙飛行機を長く飛ばせる!!!!!!!」
「ふざけるんじゃない!!!!!!!!!!!」
バン! と机を叩いた。
「えぇー……」
西谷がイタズラして怒鳴られた子犬のように萎縮する。
「綾取りとかでんぐり返しとか上手くても魔王なんか倒せるか!!!」
「さっきまでノリノリだったじゃん。それに何でもいいってハデスさんが……」
「うるせぇぇぇぇっ!!!」
再び机を叩いてぼやく西谷に一喝した。
それに対し、今度は口を尖がらせた。
どうやら不満たらたらのようだ。
「ま、こんなんじゃ異世界に転生できませんね。来世に期待してください」
「そんな!?」
西谷がガバッと立ち上がった。
座っていた木の椅子が後ろに倒れた。
「どうしても異世界に生きたいんです! 異世界に行ったらマジで頑張るんで、ホントお願いします! 俺もラノベの主人公みたいに輝きたいんです!! 俺もしたいんです、恋とか、俺TUEEEEとか!! お願いします!!!」
「ダメです」
一蹴すると、西谷がゾンビのように近づいてくる。
「頼むよ~。俺だって輝きたいんだよぉ~。今まで良いことなかったんだからさ~。なぁ頼むよ~綺麗な灰色の髪したお姉さん~」
「な、甘ったれる―――め、やめろー! 私に触るな! お、おい、離れやがれ!!!」
私の前にある机を跨ぎ、一反木綿のように西谷がまとわりついてきた。
「頼むよぉ~輝きたいんだよぉ~」
「く、やめろ! 根性なしめ!」
西谷のうにゃうにゃ動かす手を払いのけ、蹴って突き飛ばす。
べちゃっと右肩から地面に倒れる西谷。
ゾンビのように受け身を取らずに倒れたのがかなり不気味だった。
「はぁはぁ……くそ、なんだこいつは!?」
なんでこんな変な奴を私が担当しなきゃならないんだ。
こういうアブノーマルな奴は正規の面接官が担当するべきだろ。
「うぅ……うぅ……」
今度は葉っぱが落ちるように地面に座り込み、すすり泣き始めた。
勘弁してくれ。
「お願い……ハデスぅー……」
「だめだ。それに呼び捨てにするな。死んでからも甘ったれてるんじゃない。自己PRも出来ないくらい、努力してきてねー人間を、今まで逃げてきた人間を信用できるものか!」
「そんなぁ! そこを何とかお願いします!」
西谷は目にも止まらぬ速さで正座して、額を地面につくほど頭を下げた。
「お、おいおい、人間がそんな簡単に土下座をするな」
「本当に行きたいんです!! 異世界に!!! ハーレム……いや、可愛い彼女を作りたいんです!! イキリたいんです!!!」
土下座を超え、もはやピンと体を棒のようにして寝そべった。
いわゆる『土下寝』である。
プツっと私の頭の中で何かが切れた。
「わかった」
「え、じゃあ――――――」
「お前を現世に転生はしない」
「おお……」
頭だけを上げ、背筋している形となった西谷。
「ただし、異世界にも転生させない」
「――――え?」
「お前は、冥界行きだ!」
「はいぃぃぃぃぃ!?!?!?!?!?」
西川は跳ねるように体を上げた。
「二年間、冥界で修行をしろ。それが完了したら、異世界に送ってやる。もし、無事やり遂げたらボーナスとして、特殊能力、つまり異能もつけてやろう」
「め、冥界の修行って、例えば?」
「そんなん聞いてどうする。どうせ行けばわかるんだ。知らない方がいいだろう」
「ち、ちなみに人間は?」
「ああ、いるよ。二人。一人は三年で、もう一人は三万年だ。どうだ、それに比べたら楽だとは思わんか?」
「せ、性別は?」
「男だよ、2人とも」
「え、いやだ……いやだ……」
この期に及んでまだ縋り付いてくる。
本当にどうしようもない奴だ。
「だめだ、お前の冥界行きはもう決定事項だ」
パチンと指を鳴らし、冥府の門を召喚した。
西谷は、門の登場に自らの運命を察し、口と目を限界まで開けて絶句している。
「だめだ……。行ったらきっと自殺するよ」
「安心しろ、冥界はすでに死んだ者が行くところだ。自殺したくても出来ない仕組みになっている。だから確実に二年間修業できる。よかったな。逃げ道が無くて」
「い……いやだ……」
「さぁ、契約書のサインしろぉ~」
涙で濡れた西谷の頬に冥界の契約書を擦り付ける。
「い、いやだ」
「なら後からでいい。でもサインが遅くなる分、修行日数も増えるぞ」
「そ、そんなぁー!」
私はこの腰抜けくんを片手で持ち上げ、門に放り込んだ。
「いーーーーーーやーーーーだーーーーーーー!!!!!!」
バタン!
門は閉まった。西谷を無事に吸い込んで。
……。
まぁ、二年修行したら、そのまま現世に転生されるんだけどね。
嘘ついちゃった。
……。
「くっ、私に嘘をつかせるな……」
苦い表情で独り言でこれ言うと、良い神っぽいから言った。
ふぅー、すっきりした。
仕事頑張ったな~。
今日は唐揚げとハイボールだな。