2人目 ~スーパーリーゼント~ 内田大矢門戸
今日は異世界転生者面接二日目。
ちゃんと荷物チェックもしたし、ガイドラインもある程度読んだ。
脳の言語適用手術って失敗することもあることを知った。
まぁ、ここは伝えなくていいか。私には関係ないし、知らない方が幸せって言葉もあるからねー。
よーし、今日も仕事するぞーー!
※
「えー、ではお名前をどうぞ」
「あぁん? なんでテメーに名前を言わなきゃなんねーんだよ、人に名を尋ねる時はまず自分からだろ?」
―――――見つけた! 転生者の素質!!
この女子供に容赦しなさそうな性格、しょっぱなガンを飛ばす。
いわゆる「ヤンキー」ってやつか!
金髪のリーゼント、実物は初めて見る。
服も特徴的。
確か特攻服って言うんだよね、あのロングコート。
色々と刺繍ししゅうが入っていて文字もたくさん書いてあるけど、結局「ツッパるぜ」ってことでしょ?
それに沢山の言葉が使われているあたり、私よりも知識があると見ていいはず。
この強烈な個性、豊富な知識、威勢のよさ、間違いなく異世界での魔王討伐に最適な人物だ!!
こいつを異世界に送り込めば、必ずや魔王を討伐してくれるだろう!
「そうですね、ごめんなさい。私の名前はハデスです。あなたのお名前は内田うちだ大矢門戸ダイヤモンドさんですね?」
「おい、その名前で呼ぶんじゃねーぞゴルァ!!」
「え、ええーー!? な、なんでですか?」
「そのクソみてぇな名は捨てた。今の俺の名は内田うちだ龍梧りゅうごだ」
「りゅうご? でも戸籍上はダイヤモンドってなってますけど?」
「だから、捨てた」
「だからなぜ?」
「……キラキラ」
「はい?」
「キラキラネームだからだよ!!」
ダイヤモンドくんが激怒する。
「キラキラって……。ああ、ダイヤモンドってキラキラしてますもんね。それが嫌で名前変えたんですか」
「ちっっげーーーーよ!!! このタコッ!! キラキラネームだから嫌なんだよ!!」
「ふふっ、で、でもあなたのその頭の方がキラキラしてますよ?」
金髪だしね。
「あぁん? てめぇ馬鹿ばかにしてんのか!?」
ダイヤモンドくんが鬼の形相ぎょうそうでブチギレる。
「いッ!? いやいやいや、馬鹿にしてませんよ。はい。すみません」
やばいやばい、相手を怒らせてしまった。
ここは”冥界面接”ではなく”異世界転生者面接”。
相手とバトルするのではなく、相手とコミュニケーションを取る場。
しっかりコミュニケーションを取らないと。
それにこの人はいずれ魔王を討伐する者、英雄の素質がある!
なんとしても異世界に送り込まねば!
「えーっと、ではですね。唐突なんですが、あなたは死んでしまいました」
「ふーん、バイク事故?」
「ええ、そうです」
「やっぱりな。バイクで爆走して、急に視界がブラックアウトしたと思ったらこんなワケのわからねー世界に来たからな」
ダイヤモンドくんはニヒルな笑みを浮かべ、両足をだだっぴろげ、ズボンのポケットに手を入れている。
冷静沈着。
自分が死んだと知っても慌てふためく様子もなく、事実をそのまま受け入れている。
このような人を達観している、というのか!
絶対に異世界に転生させる……!
現世の生まれ変わりの話はカットして、強制的に異世界へ転生させよう。
「しかし、あなたは今ここにいる。なぜだかわかりますか?」
「知らねーな」
「あなたは、選ばれし勇者だからです!」
「は? 勇者?」
「そう、勇者なんです!!」
そう聞くとダイヤモンドくんは口を大きく開け、ガハハと大声をあげて笑った。
一体どうした?
「おいおい、なんだよ勇者って。馬っ鹿じゃねーの? これは夢か? 夢なのか?」
「いえいえ、あなたは死んだんです。もう夢は見れませんよ。ただ、あなたはとても見込みがある方なので、ぜひ異世界に旅立って魔王を倒してほしいのです」
「ハァ?」
「一から説明しましょう! ダイ――――いや龍梧さん。あなたは死んだんです。そして普通ならばそのまま記憶を消して来世を送るはずでした。
しかし、あなたには恵まれた才能があるのです! そしてそれが私達神によって見いだされ、異世界で魔王打倒のために転生してもらいたいのです!! あなたの才能が、その類い稀なる才能が、神によって認められたのです!!!」
途中で思いっきり立ち上がり、過剰なまでに手ぶり身振りして伝えた。
「お、おお。そこまで言われると嬉しいもんだな。本当だったら足立区制覇する予定だったんだが、魔王ぶっ潰して異世界制覇ってのも悪くないな」
顔をにやつかせる内田。どうやら満更でもないらしい。
「でしょう!」
ちょろい。
さっさと異世界へ旅立たせよう。
そして、魔王を討伐した人物を送り出したことで表彰され、十二神の仲間入りを果たす。
ふはははははは、完璧だ!
一寸の間違いもない!!
そしてゆくゆくはゼウス姉さんを超え、十二神を統べる神となる!!!
「おい……おい! 何にやけてんだよ気持ちわりーな」
「あ? あぁ、すみません」
表情を直した私は、トートバッグから契約書と手引書を一緒に取り出し、ダイヤモンドくんを呼び寄せた。
「じゃあ、ここにサインを。手引書は読みます?」
「読まねーよ。眠くなるからさ」
「そうですか」
手引書をしまう。
ダイヤモンドくんはゴミクソ汚い字で契約書にサインをした。
「よし、これであなたは異世界に行き……はぅぅ!?!?」
やばい、やってしまった。
これ異世界行きの契約書じゃなくて、冥界への片道切符だ。
「どうした? 美乳のねぇちゃん?」
「い、いや、特に」
そうだ、最近冥王の権限で冥界の門を開き、ごり押しで冥界に送っていたから忘れてたけど、本来冥界へ行くにはサインを書かせていくんだった。
冥界は、現世で言う刑務所みたいなもの。
異世界や天界で悪さしたものが来る場所が、冥界で様々な罰を受ける。
例えば、火の海や針山、鞭むち打ち、スズメバチによるチクチク刑、幻覚、エトセトラエトセトラ。
そしてこれらは魂への罰と浄化を目的としている。
冥界は先ほど述べた通り、刑務所みたいなものなので例外なく期限付きである。
期限が終わったら、自動的に記憶を消して現世に転生することとなっている。
そう、だから契約書には期限が書いてあるのだ。
ちなみに昨日冥界王の権限で冥界送りにした山本は、私の裁量で3年とした。
部下には、生前に罪を犯したとか適当なこと言っておいた。
もみ消したのである。
そして、今このヤンキー君の契約書の話に戻るのだが、しょ、正直……見るのが怖い。
確かこのヤンキー君、年は18歳だ。
それに対して刑期……はぅぅぅぅぅ!!!!
さ、さささささ、3万年。
ヤバイ、これはマジでヤバイ。
何の刑が科さられるのかは、もう、怖くて見られない。
冥界行きとなった者は歳をとらないようになっている。
つまり100年弱しか生きれない人間でも、何の問題もなく3万年お勤めできる。
ちなみに契約書にサインした場合は、例え冥界王の私でも変更することはできない。
王や神であっても契約書に従うのが神界のルール。
破ぶり捨すてても効果はなし。
……終わった、私じゃなくてヤンキー君sが。
最後くらいは、笑って送り出そう。
「ダイヤモンドくん!」
「その名前で呼ぶなっつってんだろ! 龍梧だよ龍梧」
私は精一杯の笑顔でこう言った。
「これからたくさんの試練が君を待ち受ける。しかし、何があっても絶対にくじけちゃいけないよ。最後まで希望を持って、前に進むんだ」
あー目頭が熱い。私の目には涙が溜まっていたのかもしれない。
「……お、おう! まかせろ! 俺は不死身の龍梧!! どんなことがあっても絶対に諦めない男だ!」
死んでるからここに来てるんだけどね、ダイヤモンドくん。
いやぁーとってもいい顔するなぁこの宝石は。
……胸が痛い。
「お、地面に紋章が表れたぜ。……ん? ドクロが強調されている紋章もんしょうだな。魔王の侵略がこんなにも進んでいるとは」
違うんだなこれが、冥界の紋章なんだよ。
「じゃあ、いっちょ行ってくるか!!」
私は気付いたら敬礼していた。冥界に敬礼という文化はないというのに。
涙がつーっと流れた。
「じゃあな、ハデスさん。また会おうぜ!」
ブォン!
ヤンキー君は異世界という名の冥界へ旅立った。
最後の笑顔は、ダイヤモンドの名に恥じないくらいキラキラだった。20カラットくらい。
不幸な事故だった。
こうしてまた一人、罪のない人間が冥界へ落ちていく。
人生とは、悲しいものだ。
しばらく冥界を出歩くのはやめよう