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異世界転生者採用面接試験  作者: ハデス
3/10

2人目 ~スーパーリーゼント~ 内田大矢門戸


 今日は異世界転生者面接二日目。

 ちゃんと荷物チェックもしたし、ガイドラインもある程度読んだ。

 脳の言語適用手術って失敗することもあることを知った。

 まぁ、ここは伝えなくていいか。私には関係ないし、知らない方が幸せって言葉もあるからねー。

 よーし、今日も仕事するぞーー!


  ※


「えー、ではお名前をどうぞ」


「あぁん? なんでテメーに名前を言わなきゃなんねーんだよ、人に名を尋ねる時はまず自分からだろ?」


 ―――――見つけた! 転生者の素質!!

 この女子供に容赦しなさそうな性格、しょっぱなガンを飛ばす。

 いわゆる「ヤンキー」ってやつか!

 金髪のリーゼント、実物は初めて見る。

 服も特徴的。

 確か特攻服って言うんだよね、あのロングコート。

 色々と刺繍ししゅうが入っていて文字もたくさん書いてあるけど、結局「ツッパるぜ」ってことでしょ?

 それに沢山の言葉が使われているあたり、私よりも知識があると見ていいはず。

 この強烈な個性、豊富な知識、威勢のよさ、間違いなく異世界での魔王討伐に最適な人物だ!!

 こいつを異世界に送り込めば、必ずや魔王を討伐してくれるだろう!


「そうですね、ごめんなさい。私の名前はハデスです。あなたのお名前は内田うちだ大矢門戸ダイヤモンドさんですね?」


「おい、その名前で呼ぶんじゃねーぞゴルァ!!」


「え、ええーー!? な、なんでですか?」


「そのクソみてぇな名は捨てた。今の俺の名は内田うちだ龍梧りゅうごだ」


「りゅうご? でも戸籍上はダイヤモンドってなってますけど?」


「だから、捨てた」


「だからなぜ?」


「……キラキラ」


「はい?」


「キラキラネームだからだよ!!」


 ダイヤモンドくんが激怒する。


「キラキラって……。ああ、ダイヤモンドってキラキラしてますもんね。それが嫌で名前変えたんですか」


「ちっっげーーーーよ!!! このタコッ!! キラキラネームだから嫌なんだよ!!」


「ふふっ、で、でもあなたのその頭の方がキラキラしてますよ?」


 金髪だしね。


「あぁん? てめぇ馬鹿ばかにしてんのか!?」


 ダイヤモンドくんが鬼の形相ぎょうそうでブチギレる。


「いッ!? いやいやいや、馬鹿にしてませんよ。はい。すみません」


 やばいやばい、相手を怒らせてしまった。

 ここは”冥界面接”ではなく”異世界転生者面接”。

 相手とバトルするのではなく、相手とコミュニケーションを取る場。

 しっかりコミュニケーションを取らないと。

 それにこの人はいずれ魔王を討伐する者、英雄の素質がある!

 なんとしても異世界に送り込まねば!


「えーっと、ではですね。唐突なんですが、あなたは死んでしまいました」


「ふーん、バイク事故?」 


「ええ、そうです」


「やっぱりな。バイクで爆走して、急に視界がブラックアウトしたと思ったらこんなワケのわからねー世界に来たからな」


 ダイヤモンドくんはニヒルな笑みを浮かべ、両足をだだっぴろげ、ズボンのポケットに手を入れている。

 冷静沈着。

 自分が死んだと知っても慌てふためく様子もなく、事実をそのまま受け入れている。

 このような人を達観している、というのか!

 絶対に異世界に転生させる……!

 現世の生まれ変わりの話はカットして、強制的に異世界へ転生させよう。


「しかし、あなたは今ここにいる。なぜだかわかりますか?」


「知らねーな」


「あなたは、選ばれし勇者だからです!」


「は? 勇者?」


「そう、勇者なんです!!」


 そう聞くとダイヤモンドくんは口を大きく開け、ガハハと大声をあげて笑った。

 一体どうした?


「おいおい、なんだよ勇者って。馬っ鹿じゃねーの? これは夢か? 夢なのか?」


「いえいえ、あなたは死んだんです。もう夢は見れませんよ。ただ、あなたはとても見込みがある方なので、ぜひ異世界に旅立って魔王を倒してほしいのです」


「ハァ?」


「一から説明しましょう! ダイ――――いや龍梧さん。あなたは死んだんです。そして普通ならばそのまま記憶を消して来世を送るはずでした。

 しかし、あなたには恵まれた才能があるのです! そしてそれが私達神によって見いだされ、異世界で魔王打倒のために転生してもらいたいのです!! あなたの才能が、その類い稀なる才能が、神によって認められたのです!!!」


 途中で思いっきり立ち上がり、過剰なまでに手ぶり身振りして伝えた。


「お、おお。そこまで言われると嬉しいもんだな。本当だったら足立区制覇する予定だったんだが、魔王ぶっ潰して異世界制覇ってのも悪くないな」

 顔をにやつかせる内田。どうやら満更でもないらしい。


「でしょう!」


 ちょろい。

 さっさと異世界へ旅立たせよう。

 そして、魔王を討伐した人物を送り出したことで表彰され、十二神の仲間入りを果たす。

 ふはははははは、完璧だ!

 一寸の間違いもない!!

 そしてゆくゆくはゼウス姉さんを超え、十二神を統べる神となる!!!


「おい……おい! 何にやけてんだよ気持ちわりーな」


「あ? あぁ、すみません」


 表情を直した私は、トートバッグから契約書と手引書を一緒に取り出し、ダイヤモンドくんを呼び寄せた。


「じゃあ、ここにサインを。手引書は読みます?」


「読まねーよ。眠くなるからさ」


「そうですか」


 手引書をしまう。

 ダイヤモンドくんはゴミクソ汚い字で契約書にサインをした。


「よし、これであなたは異世界に行き……はぅぅ!?!?」


 やばい、やってしまった。

 これ異世界行きの契約書じゃなくて、冥界への片道切符だ。


「どうした? 美乳のねぇちゃん?」


「い、いや、特に」


 そうだ、最近冥王の権限で冥界の門を開き、ごり押しで冥界に送っていたから忘れてたけど、本来冥界へ行くにはサインを書かせていくんだった。

 冥界は、現世で言う刑務所みたいなもの。

 異世界や天界で悪さしたものが来る場所が、冥界で様々な罰を受ける。

 例えば、火の海や針山、鞭むち打ち、スズメバチによるチクチク刑、幻覚、エトセトラエトセトラ。

 そしてこれらは魂への罰と浄化を目的としている。

 冥界は先ほど述べた通り、刑務所みたいなものなので例外なく期限付きである。

 期限が終わったら、自動的に記憶を消して現世に転生することとなっている。

 そう、だから契約書には期限が書いてあるのだ。

 ちなみに昨日冥界王の権限で冥界送りにした山本は、私の裁量で3年とした。

 部下には、生前に罪を犯したとか適当なこと言っておいた。

 もみ消したのである。

 そして、今このヤンキー君の契約書の話に戻るのだが、しょ、正直……見るのが怖い。

 確かこのヤンキー君、年は18歳だ。

 それに対して刑期……はぅぅぅぅぅ!!!!

 さ、さささささ、3万年。

 ヤバイ、これはマジでヤバイ。

 何の刑が科さられるのかは、もう、怖くて見られない。

 冥界行きとなった者は歳をとらないようになっている。

 つまり100年弱しか生きれない人間でも、何の問題もなく3万年お勤めできる。

 ちなみに契約書にサインした場合は、例え冥界王の私でも変更することはできない。

 王や神であっても契約書に従うのが神界のルール。

 破ぶり捨すてても効果はなし。

 ……終わった、私じゃなくてヤンキー君sが。

 最後くらいは、笑って送り出そう。


「ダイヤモンドくん!」


「その名前で呼ぶなっつってんだろ! 龍梧だよ龍梧」


 私は精一杯の笑顔でこう言った。


「これからたくさんの試練が君を待ち受ける。しかし、何があっても絶対にくじけちゃいけないよ。最後まで希望を持って、前に進むんだ」


 あー目頭が熱い。私の目には涙が溜まっていたのかもしれない。


「……お、おう! まかせろ! 俺は不死身の龍梧!! どんなことがあっても絶対に諦めない男だ!」


 死んでるからここに来てるんだけどね、ダイヤモンドくん。

 いやぁーとってもいい顔するなぁこの宝石は。

 ……胸が痛い。


「お、地面に紋章が表れたぜ。……ん? ドクロが強調されている紋章もんしょうだな。魔王の侵略がこんなにも進んでいるとは」


 違うんだなこれが、冥界の紋章なんだよ。


「じゃあ、いっちょ行ってくるか!!」


 私は気付いたら敬礼していた。冥界に敬礼という文化はないというのに。

 涙がつーっと流れた。


「じゃあな、ハデスさん。また会おうぜ!」


 ブォン!


 ヤンキー君は異世界という名の冥界へ旅立った。

 最後の笑顔は、ダイヤモンドの名に恥じないくらいキラキラだった。20カラットくらい。

 不幸な事故だった。

 こうしてまた一人、罪のない人間が冥界へ落ちていく。

 人生とは、悲しいものだ。

 しばらく冥界を出歩くのはやめよう


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