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異世界転生者採用面接試験  作者: ハデス
2/10

1人目 ~普通の社会人~ 山本大輔


 今日は転生者採用面接の初日。

 担当は日本。

 異世界とか、そういうことにわりと理解のあるらしく、面接も比較的楽らしい。

 ただ試用期間とはいえ、初日から本番で、研修は一切なし。


 キンチョーしてきたぁぁぁぁ!!


 こーゆー時は、手に神って三回書いて飲み込むと、緊張がほぐれる。


 神、神、神。


 ぱくっ。

 よし、オッケー。


 ブォン!


 来た来た、面接者だ!!

 額の汗を拭き、ちゃんと威厳ある顔を作る。


「あれここは……?」


 目の前に現れたのは、カチッとスーツを着た、短髪の好青年だ。

 私は机の上にある面接者シートを見る。

 名前は山本やまもと大輔だいすけ、28歳の独身。

 それ以外にも色々と詳細なことが書かれているが、意味がよく理解できない。

 それよりも、だ。

 言うぞ、決まり文句を言うぞ……!


「ここは楽園と冥界のはざまです」


「楽園と……冥界?」


「あ、やべッ、じ、じゃなくてですね、現世と異世界の間です」

 

 ヤバイ、しょっぱな間違えちゃった。

 いつもの冥界面接の挨拶を言っちゃった。

 落ち着くんだ私、大丈夫。

 冥界の面接ではもっとカチコミあったじゃないか。

 それに比べたら普通の面接なんてへっちゃらだろ?


「あ、あのー、お姉さん?」


「あ、すみません!」


 さてと、気を取り直して。


「はい、ここでは現世で新たな生命いのちとして生まれ変わるか、それとも異世界に転生するかを決められます。現世で生まれ変わることを選択するなら、そのままで構いません。もし、異世界に転生するを望むのであればここで面接を行い、適性があるかどうかを判断します。適正アリと判断した場合、あなたは無事異世界へと転生できるでしょう! さて、ここまでで何か質問は?」


「いやいやいや!! どゆこと? 何か色々はしょってない?」


「はしょる?」


「……もしかしてお姉さん、初めてでしょ? こーゆー面接」


「ええええええ!? な、なんでバレた?」


 馬鹿な! 奴はエスパーか!?

 気付いたら脇の下がぐっしょりと濡れている。


「声がところどころ上擦うわずってるし、額に汗もかいている。これでも社会人だったからね。面接官もやったことあるし、見ればわかるよ」


 ……”社会人”ってなんだ?

 急いで机の上にある『ポンコツの神でもわかる 現代日本用語』をわしゃわしゃめくる。

 えー……っと、あったあった、働いている人ってことか。


「お姉さん、失敗はよくあることだから気にしないで。とりあえず、質問していっていいかな?」


 ……てゆーか、なんだこの好青年。

 やけに慣れ慣れしいな。もしかして私、舐められてるのか?

 舐められるは嫌いなんだが。

 確かに私は実年齢より若く見られるけど、あなたより数十億年も生きているんだよなぁ。

 いや、死んでんのかこいつ。


「聞いてるー、お姉さん? あと、なんか顔怖いよ」


「え? ええ、聞いていますよ。質問ね、質問。いいですよ。あと私の名前はハデスです」


「わかった、ハデスさん。まず、俺って死んだの?」


「はい、死にました。死因は――――――」


 机の上にある面接者の書類を見る。


「心臓麻痺ですね、突然の」


「マジか、デスノートみたいだな」


「デスノート?」


「ああ、こっちの話。次に、なんで俺ってここにいるの?」


「はい、数多あまたの死者のなかからランダムであなたが選ばれました。本来、死者は強制的に現世へ生まれ変わるのですが、ランダムで選ばれた人は異世界への転生を可能としています」


「ふーん、つまり、俺は適当に選ばれただけなのね」


「そうなりますね」


 なんかこの人、死んだというのに随分と落ち着いているな。

 その肝を私にわけてくれないかなぁ。


「現世で生まれ変わるっていうのは、記憶を無くしてってことだよね」


「そうです。記憶を消して、完全に違う人間として生まれ変わります」


 あれ? 現世に転生する際って必ず人間に生まれ変われるんだけっか?

 ド忘れちゃったなー……。

 ま、いいか、伝えなくて。調べるの面倒だし。


「異世界の場合は?」


「異世界の場合は、あなたの要望に合わせて変更できます。年齢を若くしたり、そのままであったりなど」


「チートは?」


「チート? チート、と申されますと?」


「こう、強くなれたり、特殊能力がもらえたり、色々」


「ああ、そのような特典は一切ありません。異世界は魔法や特殊能力など色々ありますが、それは自力で習得して頂きます」


「ちぇ、そんな話は上手くねーか。……なぁ、やっぱ魔王とかいるの?」


「います。異世界では、魔王と人間が争う世界ですね。ただ、魔王は我々の手違いで生まれてしまったものなので、異世界に行く場合には魔王を倒すという目標があり、転生者はそれを達成するのが目的です」


「つまり、異世界に転生したら、絶対に魔王を倒さなくてはならない。そのために生きなさいってこと?」


「そうです」


「ふーん、まんまゲームやラノベみたいだな」


「ラ……ラノベ?」


 さっきからちょくちょく知らない単語が飛び出すな。

 この面接ってこんな難しいの?


「あぁ、それもこっちの話。ちなみに、異世界で死ぬとどうなるわけ?」


「楽園か冥界に行くことになります。そこである程度過ごしたあと、現世で生まれ変わってもらいます」


「なんでそんなふうになっているの?」


「そのようなルールとなっておりますので」


 あれ、なんかいい感じじゃない?

 この山本大輔って人も、神様である私にタメ語使うこと以外は完璧だ。

 とにかく、そろそろ本題に入らないと。


「それでは山本さん、どうしますか?」


「うーん、悩んだけど異世界に行こうかな」


「わかりました。では、これから異世界の適性があるかどうかの面接を始めますが、よろしいですね?」


「はい!!」


 こうして、私の初めての面接が始まった。


「では、改めて自己紹介をお願いします」


「はい、山本大輔と申します。年齢は28歳です。職業は銀行員です。外回りの個人営業では常に成績トップでした。そのため新人賞はもちろん、さまざまな賞を受賞しました。私の強みは、説得力だと思っております。営業では一人ひとりにあったプランを適切に対応し、お客様によって営業の行い方を柔軟に対応しました。

 この強みを生かし、異世界では情報収集やコミュニケーションを通して魔王を倒したいと考えております。

 よろしくお願いします!」


「……」


 あれ、ナニコレ、全然内容入ってこなかったんだけど。

 面接ってこういうもんなの?

 いや、自己紹介っつったら名前言って終わりかと思っていた。

 冥界の時は、名前すら言わないで暴れる奴ばっかりだったからなー。

 というか、冥界面接は戦闘して、むりやり冥界送りにするまでが面接だったし。

 こんな真面目に対応されると、なんて言っていいか……。


「すみません。足りませんでしたか?」


「あ、い、いえ、そんなことはありませんよ」


 いけない、集中せねば。

 でも、このあと彼に何を訊けばいいんだ?

 私はトートバッグの中から『ゼウスでもわかる、スーパー面接ガイドブック』を探す。


 あ、いけねっ、面接ガイドブック自宅に忘れてきちゃった。

 どうしよう、何を聞けばいいんだろう?

 魔王を倒すんだから、強い人がいいよな?


「えーっと、体を動かすことは得意ですか?」


「はい、中学時代から大学時代までバレーボールをやっておりました。高校、大学では部長を務め、高校時代ではインターハイに出場しました」


「……なるほど……」


 ポンと手を叩いた。

 でも、実際どれくらい凄いのかわからん。

 しかもインターハイってなんだよ。

 机の上にある用語集で調べるのも億劫おっくうだ。

 他に何かあるかな。

 うーん、めんどくさくなってきた。

 もういいや、合格で。

 この人優しそうだし、今日は初日だから少しくらい甘く採点しても問題ないよな?


「よし、合格!」


「はい?」


「合格ですよ合格、異世界に行っていいですよ」


「はい、ありがとうございます!」 (この人、ヤバイ人そうだな、早く転生したい)


「じゃあ、転生の手続きをしましょう」


 ……あれ? 全部忘れちゃった、異世界転生用の書類ないわ。

 あの書類が転生のトリガーになっているからなー、あれないと異世界に送れないよ。

 でも今から家に取りに行くわけにもいかないしなぁー。

 遠いし。


 致し方ない、冥界へ送ろう。


「えーと、じゃあ、もう転生していいよね?」


「はい、もうお願いします」 (はやく、はやく)


 突然せわしなくなる山本。


「はいじゃあ、転生門を開きまーす」


 片手でボウっと門を出した。

 ちゃんと出せてよかった。

 冥界の力が衰えてなくてよかったよ。


「これが門です。これをくぐれば、異世界へ転生します」


 ほへーと言って山本は私が召喚した冥府の門に歩いた。

 が、途中で歩みを止める。


「あのー……、門の上にドクロがたくさんついてるんすけど」


「あーこれね。これね、いまね、いま魔王の影響力が高いので」


「そーいや、言語ってどうするんですか?」


「自動的に覚えますよ、大丈夫です」


 くそ、早く行けよ、他の神にバレると一発でクビになるんだからさ~。

 どか、どか、と足で押す。

 それを転生者(冥界行き)が抵抗する。


「ちょ、ちょっとぉ、押さないでくださいよ。いたッ、いたァ! 足で蹴らないでください!!」 (……ん? そういえば、この人って名前ハデスだったよな?)


 あれ、なんかこいつ、私を見る目が変わったぞ。

 なんか疑ってやがるな。

 これはヤバイことになる前に、送らないと。


「あ、あのハデ―――――――」


「チェストーーーーーーー!!!!」


「あ」

 

 山本が冥府の門の中に入った瞬間、トイレの水が流れるように吸い込まれていった。


「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 冥界でもなかなか聞けない絶叫をあげて、消えていった。


「ハァーーーーーデェーーーーーーーースゥーーーーーーーー!!!!!!」


 バタンと、思いっきりドアを閉める。


「ふぅー、ひとまず一件落着」


 いやぁーいい仕事をした。

 額に汗などかいていないが、拭う。

 その時、後ろでブオンと鳴る音がした。

 反射的に冥府の門を消す。


「よう、ハデス、しっかりやっているか?」


「げ、ゼウス姉さん!!!」


 やばい!!


 見た目は幼女そのものだが、見かけとは真逆に十二神の長だ。

 ちなみにゼウス三姉妹のうち、ゼウス姉さんは長女で私は三女。

 次女はポセイドン姉さん。

 ゼウス姉さんに今日のことがバレたら即刻不採用にされてしまう!!


「どうだ、初めての面接は。うまくいったか?」


「ええ、それはもうばっちり」


「そうか。初めての面接はどうだ? 上手くいったか?」


「ええ、そりゃもちろん!」


「どっちに送った?」


「現世で生まれ変わりたいと言っていたので、現世に行ってもらいました」


「そうか、ならいい。この調子で残りの研修期間も頑張ってくれよ。問題がなければすぐに採用になるからな!」


「はい!」


「よし、じゃあせっかくだし、初の研修成功を祝って飲みに行くか!」


「謹んで遠慮させていただきます」


 間髪入れず言い放った。


「お、おう、そうか……」


 ゼウスはしょんぼりして帰っていった。

 冗談じゃない。

 話長いし、一回飲んだら潰れるまで飲むからなあのポンコツ

 後始末するの私だし。


 まぁなんにせよ、とりあえず仕事終わった。

 家に帰ろ。

 今日はつらかったなー。

 これなら冥界の面接やった方が楽だわ。

 でもこれは十二神の仲間に入れるチャンス、この大出世のチャンスを逃したくはない。

 明日も頑張ろう。

 あと、忘れ物しないように気をつけよう。


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