冒険者の作り方
冒険者はどこから来たのか?
冒険者は何者か?
不思議な職業 冒険者について考える
ファンタジー世界の定番の職業のひとつに冒険者というものがある。多くはギルドに所属し日々の糧を魔物の討伐で稼ぎクエストをこなして上のランクをめざす。しかし冒険者が存在するためにはいくつかの条件が必要に思えてならない。それを考えていこうと思う。
需要が仕事になるのか仕事とは需要の無いところに作り出すものなのか、自己啓発本には色々書かれているが仕事と需要が密接に関係していることは多くの本が認めている。では冒険者に対する需要とはなんだろうか、答えは考えるまでもない 魔物だ。 魔物がいてはじめて冒険者が成り立つのだ。必然的に冒険者がいるところには必ず魔物がいるはずである。そうでなければ冒険者とゴロツキはなんの違いもなくなってしまうだろう。
では具体的にどのように魔物がいれば冒険者が生まれるのだろうか? 大事なことはいくつかある。
ひとつ目は強さである。魔物があまりに強ければ冒険者などという個人でなく、国や領主が組織的に討伐するだろう。そうなっては冒険者などは領主から見て邪魔である。何故ならば必要がないのに武器を持って団結している者など反乱の種以外の何者でもない。よって魔物は個人若しくは数人で十分倒せる強さのものがほとんどでなければならない。 他方、弱すぎても良くない。魔物が村人でも倒せる程度ならばわざわざ冒険者に依頼することなどないだろう。以上から魔物は戦闘に慣れていない人が逃げれるが勝てない範囲である必要がある。
二つ目は距離若しくは密度である。 多くの冒険者は街にいるように思えるが、これを成し遂げるには想像以上に障害が多い。例えばある街に百人の冒険者がいるとしよう。彼らが平均一日三匹のゴブリンを倒すとすると一年で十万匹のゴブリンが倒されることになる。しかし冒険者が狩りにいける距離は戦闘することを考えるとせいぜい直線距離で十キロといったところだろう。よって三百平方キロの中にゴブリンが十万匹いる計算になる。これは一ヘクタールに三匹という値だ。これは北関東の県のおおよその人口密度ほどもある。驚くべきことだがこれはたった一年の値である。従って次のことが言える。魔物は驚異的な繁殖力とエネルギー効率を併せ持ち、おそらく少しでも個体密度が低い方に移動する。順に見ていこう。繁殖力については前述のとおり個体密度の維持には不可欠である。エネルギー効率だがこれは考えてみると解るだろう。個体密度から考えると一匹のゴブリンは数本の木からの食料で一年を生きねばならない。実際には他の魔物もいることを考えると生存はますます難しくなるように思える。人の場合例え果樹園でも数本の木で一年を食いつなぐことは不可能だろう。よって魔物は非常にエネルギー効率が良くないといけない。魔物の移動だがこのようにある程度効率的な移動によって冒険者と魔物との距離が縮まることによって冒険者が狩りにいけないところで生まれた魔物が冒険者に討伐されることが出来るのである。
三つ目は有用性である。 魔物の討伐を頼む人の多くはそれほど裕福でないので冒険者は依頼料だけで生活するのは難しい。よって魔物の素材や肉が有用であることが冒険者の生活を支える。極端に言えば通常の猟師のように魔物を狩ってその肉を食べることで生活することが望ましい。また、その地域でしか取れない素材は交易品として売れたり、魔物の素材を武器や防具に使用することで装備の値段を抑えるなどによっても冒険者の採算性を高めることが出来る。
ここまで魔物の観点から冒険者を見てきたが職業があらばそれに就く人が必要である。どのようにして冒険者となる人材は確保されるのであろうか?
多くの冒険者ギルドにおいては登録を非常に簡単にすることでその数を増やそうとしているように思える。ちょうど現在のポイントカードを推めるときに「すぐにお作りいただけます」と言って登録人数を増やそうと試みるのと同じだ。
ではその人口はどこからくるのか、おそらく農家の次男三男というやつだろう。これらは長男に子供が産まれるまではスペアとして家にいるが、いざ産まれてしまうと邪魔者以外の何者でもない。よって長男に子供が産まれた時点で街にやって来て冒険者になるものが多いだろう。これは街の一般民衆にも言えて同じく冒険者の供給源になっているに違いない。ここで冒険者は一種の人工調整装置として働いている。
人は人でも違う面から見てみよう。
人が生きるために必要なものは最低限衣食住である。このうち住はそこまで問題ではない、土地はあるのだ。衣は緊急性は高くないだろう。問題は食である。人は7日何も食べないと餓死するそうだが冒険者の食料はどこからくるのだろう?
一つの解決策は魔物を食べることだ。魔物の有用性について書いたときにもあったように魔物を食べれば食料になる。ただ、そうなると長い時間をかけて食べられるものは狩り尽くされ食べられないものだけが生き残ってしまい根本的な解決には程遠い。食害の低減というのも一案だ。つまり冒険者がいることでいないときに比べて作物が荒らされたり家畜が殺されたりしないので農業の生産性が高まりその差が冒険者の食料となるのである。またこれには魔物がいないことで村から出て耕せる時間が増えることによる生産性の向上も伴うかもしれない。 最後の案は私が提唱したい考えである。魔物の体内にある魔石が強力な肥料になるというものである。どういうことかというと 冒険者が魔物を狩って魔石を手に入れてギルドに売る。ギルドはそれを独占的に買い取り、農家に売る。農家はそれによって増えた収穫によって代金を払う。これにはいくつか利点がある。まずひとつ目は魔物の肉を食べるときと違い魔物本体を持ち帰る必要がないことだ。これによってリヤカーを押して魔物を狩りに行かなくて良いため行動できる広さは広がるだろう。そして冒険者ギルドは魔石を独占することで権力と収益を得ることができ、組織として独立しやすくなる。また肥料による増産は麦のかたちで得れるので保存が可能になり生活はより安定的になるだろう。
冒険者の生活には危険がつきまとう。なかには命を落とすものもいるだろうが怪我をするものが圧倒的に多いだろう。日常生活には困らないが冒険者は続けられないという人が増えると社会は不安定になる。これはアメリカでの退役軍人のホームレス問題と同じである。つまり肉体一筋の彼らは健康な肉体を失うと何も出来なくなってしますのである。これを防止するのにはいくつか方法があるが大きく分けると別の役割として使うかもう一度使えるようにするかに別れる。前者は例えばギルドの職員、解体職人、教官として雇ったり、荷運びなんかの仕事を斡旋することだ。ただこれはすぐに限界に達してしまうだろう。ギルドの職員はそこまで必要なく、怪我をする冒険者は多い。では後者はどうか?後者として一般的なのは強力な治癒魔法である。ここで言う強力とは手足の欠損が治る程のものである。治癒魔法の存在によって冒険者は怪我で引退することはなくなる。ただし治癒魔法の使い手が多く、競合することで値段が下がるなどして普通の冒険者が受けれることが必要ではあるが。怪我で引退しないことは生産性の向上と冒険者の短命化を招くので食料事情は改善する。
次に冒険者の武器について考えてみよう。一般的に戦闘において怪我をする確率は相手との距離と関係がある。つまり近接戦闘ほど怪我をしやすく、遠距離からの攻撃は怪我をしにくい。よって剣を使うのは最も(拳闘家はのぞいて)怪我をしやすく次いで槍、弓、魔法となるだろう。冒険者は体が資本なのだから当然弓や魔法を使うはずだがそうは思えない、普通の猟師と比べると対称的である。猟師はほとんどの場合弓を使い、待ち伏せしたり罠を仕掛けるのは怪我をしないためである。冒険者も例え治癒魔法があったとしても死のリスクや治癒魔法のリスクを考えると得策ではない。近接攻撃する理由としては攻撃力の高さがあげられるかもしれない。矢一本数十グラムに対し剣は数キログラムもある。刺突に強く打撃に弱い魔物が多いのかもしれない。また攻撃力が高いことは戦闘中に他の魔物に乱入される前に決着をつけることで死亡リスクを低減させることが出来る。また弓使いや魔法に熟達するには長い時間が必要なのかもしれない。そうならば食うに困って出てきた冒険者は当たれば攻撃になる剣を使うのだろう。槍が使われないのは狭いところで取り回しに向かないからかもしれない。
武器の話はこれくらいにして冒険者同士の関わりについて見てみよう。冒険者は一人でつまりソロで活動することもあるが多くの場合数人で集まって役割分担をすることで安全性と効率を高めるパーティーを作っている。またときには十人から数十人にもおよぶクランを結成してより高度な役割分担をしていることもある。こうした役割分担は非常に有効だがいくつかリスクもある。ひとつは獲物の分配である。パーティー結成の仕方にもよるが通常パーティーメンバーは潜在的な利害関係にある。例えばどのような活躍にしろ獲物を等分することにすれば怪我をしないために及び腰になる。一方活躍に応じてとなると抜け駆けやスタンドプレーが横行し役割分担の利点は失われるかもしれない。パーティーを組むのはがっつく必要がない層に限られるかもしれない。
クランはどうだろう。これはパーティー以上に特殊な役割分担 例えば治癒魔法の使い手や武器防具の整備士、解体職人のような非戦闘職を含むというところでパーティーと異なる。パーティーと違い部活のような年功序列が築かれて安定する可能性が高い。クランの利点はさらにある。信用である。おそらく一般の冒険者が信用を得るのは難しいだろう。身一つで名誉を尊ばずいつ死ぬか分からない冒険者は約束が履行される確率は低い。一方クランの場合メンバーの誰かが死んでも他の誰かが約束を守るだろうし、クランまるごと逃げることはないだろう。よって金の貸し借りや商人の護衛など信用の必要な仕事が可能になる。そう考えると冒険者はいくつかの群れに分けられる。冒険者に成り立てでソロや短寿命のパーティーに出入りしクランからは誘われない人、クランに所属して安定的な冒険者生活をおくる人、そして組織が嫌いなために実力はあるがクランに入らずソロや長寿パーティーに所属する人となるだろう。
ここまで見てきたが冒険者はただ強ければよいのではない。むしろ協調性やコミュニケーション能力、読み書きや計算も必要になる。ギルドで貼り出された依頼の文字を読みその魔物が自分の実力的に合うかどうかを判断しその上で掛かる時間やリスクと報酬を比べて受ける依頼を決める。必要なものを準備し痕跡を辿って魔物を見つけて首尾よく倒し、素早く街に戻り報酬を受け取り有用な部分を売り払う。当然その時に適正な価格かどうか確かめる必要がある。パーティーやクランの場合はこれに更に戦闘での連携や報酬の分配をはじめとしたあらゆる場面での協力が必須である。ここから言えることは彼らは魔物に立ち向かう勇気を持っているのみならずその他にも相当高い能力を持っているということだ。では彼らはどこで文字を覚え、協調性を身に付けたのか?
農家の次男三男にそんなことをする余裕があるようには思えない。おそらくは慣れない冒険者生活を始めた頃に必死に身に付けたのだろう。街に出てきて右往左往しながらも新たな環境に必死になって適応する彼らの思いきりのよさや努力はその意味で冒険的であり、それが冒険者が冒険者と言われる所以かもしれない。
その必死で生き抜く姿が読者のそして作者の心をつかみ架空の職業がこれほど広まったことの一員ではないかと思う。
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一応断っておきますが このエッセイは他の作品についてケチをつけようとしているのではありません。またこのエッセイが全て正しい、これに従えと言うつもりもありません。
ちょっとした思い付きで書いたのでおかしなところがあったら指摘していただけると嬉しいです