ゲーセンへ行こう!
そして金曜日。真白を迎えに1-Bの教室前に来たわけだが……。
「どうしよう、めっちゃ入りづらい」
下級生のフロアって予想以上にアウェー感がすごい。歩いているだけでチラチラと見られているのが分かったし、気分的には行き慣れていないゲーセンの格ゲーフロアに初めていった感覚というかなんというか……。
「何してるの、兄さん?」
とウダウダそんなことを考えていると、聞きなれた声が耳に届いた。見ればうちの妹さまと真白が、教室の中からどこか呆れたようにこちらを見ていた。うぅ、見られていたのか。これでは兄として、先輩としての尊厳が。
「だから大丈夫って聞いたのに……」
「ごめんね真白さん、兄さん勢いに任せて後になって後悔すること多いから」
「ふーん、瑠璃とは全然違うのね」
ウダウダ思考パート2に飲み込まれていた僕に、後輩たちから容赦ない罵声が飛ぶ。
少しでも反論したいが教室の中に入っていく勇気もないので、仕方なくちょいちょいと指を動かし、二人を教室の外まで呼ぶ。そうすると、またどこか呆れたようにため息をついて二人とも出てきた。
「悪いな、行き当たりばったりの兄で」
「そうだね。でも、私はそんな兄さんのこと嫌いじゃないよ」
そう言われるとお兄ちゃん冥利につきる。もっと言って欲しい。
「……瑠璃っていい子だけど、絶対に兄バカ入ってるわよね」
そんな風に真白は言うけれど、全ての妹諸君はみんな兄バカになって欲しい。全国のお兄ちゃん一同からのお願いだ。
「兄バカってほどでもないと思うけど」
瑠璃も反論は試みているが真白は慣れた感じで「はいはい」と軽くいなしている。
「というか、もう普通にしゃべれるようになったんだな」
確か前聞いた時には真白のツン度がMAXだったとかで全然話せなかったとのことだ。妹とも話してやってくれとは言ったけど、まさかここまで早く仲良くなるとは思わなかった。
「それが聞いてよ、先輩!」
と、真白が車いすから落っこちんばかりにずずいと前のめりで僕に詰め寄ってくる。
「ど、どうした後輩」
「瑠璃ってば口を開けば『兄さんは~』ばっかりで、確かに先輩をきっかけに話せるようになったんだけど、あまりにも先輩のことしか話さないからちょっとビックリよ! というかクラスの子たち若干引いてたし」
「クラスメイトが引くほど僕の話をしてたのか……それはどうかと思うけど」
「え、そうかな?」
しかし、瑠璃はまったく自覚がないといった反応。
「そうよ! っていうか瑠璃気付いてなかったの!?」
「うーん、あんまり気にしたことないかな」
瑠璃のその答えに、今度は真白と僕が顔を合わせてため息をつく。
兄を慕ってくれるのは嬉しいが、そこまでのレベルだと友人関係とかに支障が出ないか心配だ。妹の健やかなる学生生活の為にも、しばらくは影を潜めておくことも検討しておかねば。
「まあ、瑠璃のことはともかく、ゲーセンも混むかもしれないしそろそろ行くか」
「そうね。瑠璃も一緒に来るの?」
「ごめんね、委員会の仕事がなければ私も行こうと思ったんだけど」
「そっか、じゃあまた明日……じゃなくて、来週か」
「うん。兄さん、くれぐれも真白さんをお願いね」
「まあ、お姫様の機嫌を損ねない程度に頑張るよ」
「うむ、苦しゅうない!」
僕の冗談じみた答えに、これまた冗談めかして反応する真白。そんな僕たちの様子に瑠璃は苦笑を漏らして委員会の仕事へ向かって行った。さて、では無事に真白を迎えることができたし――
「行くか!」
「れっつごー先輩!」
はしゃぐ真白の車いすを押しながら、僕たちは意気揚々とゲーセンへに出発した。
※
「はわあぁ~~」
そして、ゲーセンに初めて訪れた真白の第一声はこれである。なんとも言えないような感嘆の言葉だが、もしかしたら 僕も初めてゲーセンに来たときはこんな声を漏らしていたかもしれない。
ちなみに今日来たのは昨日修治といった浅賀のゲーセンではなく、家の最寄にあるゲーセンだった。立地的には結構穴場であるし、昨日調べた限りではUFも4台稼働しているみたいだった。
そして何より――ここは僕がケン兄や鈴羽と出会った場所でもあった。
「どうだ、ゲーセンは? っていうか、来たこともなかったんだっけ?」
「うん、わたしがゲームに興味を持ったのって足を怪我した後だから」
「……悪い、変なこと聞いた」
「うぅん、いいの。いつまでもウジウジしてちゃどうしようもないしね」
僕の不用意な発言にも、真白はさっぱりとしたものだった。
真白は強い子だ。ケン兄が負けて格ゲーから逃げ出した僕とは比較にならないほどに。だからかもしれない、真白の作るキャラクターにこんなにも惹かれるのは。
「でも、先輩のおかげかな? こんな考え方できるようになったのは」
「え?」
しかし、真白は僕が思ってもみないことを言い出した。
「だって一昨日までのわたしだったら、きっとこんな考え方は出来なかった。一人で閉じこもってさ、自分にできないことを作ったキャラにやらせようとして」
「あっ……」
そこで初めて気づく。真白の作ったキャラがどれもスピード型に作られていたことに。それはつまり、足が動かない自分の願望をキャラクターに投影していたということになる。
「そっか……そうだったのか」
「うん、そうなの。でもね、そんなわたしを先輩が引っ張り出してくれた。だからわたしはすごく先輩に感謝してるし、先輩は強い人だなって思ったの」
「そんなことないよ、僕も……」
過去に逃げたことがあるから――そういうのは簡単だったが、ここで後ろ向きな言葉を言うのはどこか違う気がした。だから、
「もっと強くなりたいと思ってるよ」
そう言うことにした。
「そっか。じゃあ、しっかりわたしのキャラを使いこなしてね!」
「おう!」
目指すは四階格ゲーフロア。そして、真白にアーケードでの面白さを徹底的に教えてやる!




