ストーリーモード
翌日の放課後、僕は修治と一緒に浅賀のゲーセンまで足を伸ばしていた。
昨日はヤマ先に急遽呼び出されて流れてしまったので、その埋め合わせというのが理由の一つ。またUFでオンライン対戦をするには『ストーリーモードのクリア』という条件があるので、真白とゲーセンに行くまでに解放しておきたいという思惑もあった。
「でも、なんでそんな制約つけたんだろうな?」
ゲーセンの格ゲーコーナーに向かう途中、そんな疑問を修治が口にする。
「多分だけど、ストーリーモードをクリアすることで隠しキャラが解放されるだろ? オンライン対戦ではその隠しキャラを使ってくるプレイヤーもいるから、ネタバレ防止の意味っていうのが一つだと思う」
「一つっていうと、他にもあるのか?」
「……初心者がオンライン対戦でボコボコにされて、心折られるのを防止するため、かな?」
「なるほど……」
僕の説明に、修治はやけに納得した顔で頷いた。
ストーリーモードで苦戦していた修治にとっては、オンライン対戦はまだ遠いかもしれない。
「お、空いてる……けど、一台か」
格ゲーコーナーに着くと、平日昼間の早い時間にもかかわらず1台しか空きが無かった。学校が終わってからダッシュで来たのだが、このゲーセンでは稼働が始まったばかりなので、むしろ1台空いていたことが奇跡的かもしれない。
「どうする? 修治から先にやる?」
「いや、俺は昨日一昨日とやってるから史人に譲るわ。それに、お前がどれだけ出来るのかも見てみたいし」
「サンキュー。じゃ、お言葉に甘えて……」
椅子に座り、100円を投入する。チャリンという音がやけに懐かしく感じられた。左手でレバーを握り、右手はボタンの上に置き、馴染ませるように一通り動かしてみる。
「おぉーなんかうまいヤツっぽい」
「いや、そこまで期待されても困るんだけど」
なんせ数年のブランクがある。修治曰くストーリーモードも結構難しいらしいし油断はできない。
「史人はどのキャラ使うんだ?」
「そうだな……」
キャラ作成ツールで基本キャラ10体はどんなキャラかだいたい把握していたが、やはり自分のプレイスタイルにあったキャラが良い。となるとやはり、
「こいつかな」
「お、歩夢か」
真白に昨日見せてもらったキャラの素体にも使われていたUF男主人公の『日暮 歩夢』。主人公では珍しくスピード特化型のキャラデザインとなっている。というか、UFはどのキャラも結構とがった性能をしていて、いわゆるバランス型のキャラが少ない。
オリジナルキャラを作成できるのもあるだろうが、ゲームとしての個性を出したかったのかもしれない。
「歩夢の特性もなかなか面白いよな。まるっきり意味ない時もあるけど、変えるのか?」
「いや、このまま行くよ」
歩夢の特性は『殺人鬼の目覚め』という名称で、簡単に言うと3ラウンドにステータスが大幅に上がる。
その分1,2ラウンドのステータスにマイナス補正がかかるので、3ラウンドまでいかずに負けると全く無意味の効果となってしまう。ただ、個人的にはこういうロマンある特性が好みだったりする。
「というか、修治はネタバレになるかもしれないけどみてて良いのか?」
「お、なんだもうクリア宣言かぁ? 言っとくが、そこまであまくはないぜ」
「いや、それは分かってるけど念のためにな。ネタバレが嫌な人もいるし」
「気遣いサンキュ。でも、俺はそのあたり気にしないから大丈夫だぜ。それに、ストーリーある程度わかってた方が取っ掛かりやすいし」
なるほど、そういう考え方もあるか。
「なら、遠慮なく!」
久しぶりの実機プレイだ、全力で楽しませてもらう。
………………
…………
……
『お互い長い夢だったな。さあ、夜明けの時間だ』
ラスボス撃破後、歩夢の特殊台詞が再生され、エンディングロールが流れる。ブランクのせいか、それともゲーム自体の難しさか、なかなか苦戦させられた。特にラスボスはカイザーナックルのジェネラルやアルカナハートのパラセとまではいかないものの、かなり強めに設定されているんじゃないだろうか?
「なるほど、こういうストーリーだったか。というか、普通にノーコンティニューでクリアとか、ひょっとして史人って格ゲーガチ勢か?」
「いやいや、ガチ勢はこんなもんじゃないから」
後ろで見ていた修治の感想にツッコミを入れつつも、思った以上の腕のなまり具合に気分が少し重くなった。だがそれと同時に、格闘ゲームの面白さも改めて感じていた。まだ足りない。もっと、対人戦でもっと強い人と対戦してみたいという気持ちが沸々とわき上がってきた。
「で。どうするよ史人。その様子だと今すぐにでもオンラインモードで対戦したいって感じだがよ」
修治に気持ちを見透かされたように問いかけられる。そんなもん、やりたいに決まっている。だけど、
「連コはマナー違反だからな。修治、お前の番だ」
「ん、なんだ『れんこ』って?」
「連続してコイン入れてそのままプレイすること。無制限台とか店で好きなだけプレイしていいですよってなってる場合なら話は別だけど、プレイを待っている人がいるなら譲る。それがゲーセンのマナーだ」
「なるほどな。まあ知り合いなんだから気にするなと言いたいところだが、お前がそう言うなら有り難くやらせてもらうとするか」
「おう! どんどんいって回転数上げていこう! ほら見ろ、後ろにもうあんだけ待ってるぜ!」
「げっ、いつの間に……。これは急ぐっきゃねーな」
「かといって急かしてる訳じゃないからな。今日は修治もストーリーモードクリアを目標にいこう」
「うへぇ……さっきのラスボスすげぇ動きしてたじゃん。ま、アドバイスくれよな、史人」
「まかせとけ!」
そんなバカ騒ぎをしながら、その日は学生がいられる時間ギリギリまで僕と修治はUFをプレイし続けた。




