キャラ作りの難しさ
「あ、おかえり兄さん」
「悪い、ちょっと遅くなった」
家に帰ると、昨日に引き続きキッチンから瑠璃が顔を出し迎えてくれた。においからすると、今日の献立は肉じゃがか……自分の妹ながらなんと家庭的な。
「いいってそれくらい。で、どうだった?」
「ん、どうって?」
「あれ、今日はゲームセンター行ってきた訳じゃないの?」
「あぁ、今日は……」
調理を一時中断した瑠璃に、今日の放課後に真白と話したことを伝える。すると瑠璃の表情が目に見えて分かるくらい綻んだ。
「そっかそっか。じゃあ金曜日は遅くなるんだね」
「悪い、出来るだけ早く帰ってくるようにするから」
「ダメだよ、兄さん」
「え」
まさかのダメ出しだった。え、いや何で。妹をほっぽり出してゲーセンに遊びにいくダメな兄に、うちの敷居は跨がせませんとか?
「せっかく真白さんと一緒に行くんだから、ちゃんとエスコートしてあげないと」
あ、そういう意味だったか。ちょっとほっとした。
「いや、でもだな」
「ダメです。いいですか、兄さん。私、ちゃんと兄さんがエスコート出来てたか真白さんに確認するからね? もし真白さんが満足してなかったら――」
「し、してなかったら?」
「うちの敷居は跨がせませんからね♪」
「……善処します」
「よろしい」
満足そうに頷く瑠璃。あれだな、これが反抗期か。いやでも、こんな可愛い反抗期なら兄としては大いに歓迎なのだけれど。
※
「さて……」
食事を済ませ、自室に戻りPCをつける。そしてLimiCuの公式サイトにあるUFのキャラメイクページへ。
キャラメイクページはダウンローダーとアップローダーが一体となっており、作成ツールを通して公式サイトから他のユーザーが作ったキャラをダウンローダーしたり、自分のつくったキャラをアップロードできる機能を持っている。
その中の検索機能を使い、帰り際に真白から教えてもらったユーザー名である『Mashiro』で検索をかける。というか実名をユーザー名として使うなんて、ちょっと危なっかしい感じもするが。
しばらくして検索結果が表示され、そこには2体のオリジナルキャラが――
「って、これ!?」
1体は学校で真白に見せてもらったキャラクター。真白も調整を加えるけど一応アップロードしておくと言っていたので、これはいい。
問題は、というか驚くべきは2体目のキャラだ。
それは昨日僕がキャラを作るにあたってお手本としたキャラだった。いまアップローダーに上がっているキャラの中で、このキャラが一番自分のプレイスタイルに合っていると思ったからなんだけど……。
「こんな偶然って、アリかよ」
思わず笑みが漏れてしまう。これが運命なら、格ゲーの神様は何ともニクイことをしてくれる。結局、僕は真白と出会おうが出会わまいが、彼女の作るキャラに一目惚れしていたみたいだ。
「さて」
2体目は既に作成ツールにダウンロードしているので、僕は今日見せてもらった方をダウンロードリストに加える。タスクを確認するとダウンロード完了まで3分程度あったので、その間に昨日流し読みしたオリジナルキャラクターに関する規定回りを改めて確認することにした。
UF最大のセールスポイントであるオリジナルキャラだが、その分規定も厳しいものになっている。もちろんユーザーがアップデートしたキャラクターが全て使えるわけではない。
あらかじめメーカー側で決められたレギュレーションに則って審査し、それに通ったものだけが公式サイトでダウンロードでき、自分のキャラ作成ツール上で動かせるようになる。またゲームセンターでも操作キャラとして使用できるようになるが、それぞれ数に制限がある。
現在のところアップロードできるのは1ユーザーにつき3体。ゲーセンで使用可能に出来るのは1体のみだ。少ないように感じられるかもしれないが、実際にメーカー審査を通るキャラの数を考えると、アップロードできる3体も結構多く感じられるらしい。
『わたしが作った2体は、一度も審査で弾かれなかったよ?』
と真白は言っていたけど、ネットではもっぱら審査が厳しいとの評判だ。つまり、真白の作るキャラクターはそれだけ完成度が高く、バランスが取れていることになる。
今現在メーカーの審査を通ったキャラが32体。その内の2体を真白が作ったことになる。UFがリリースされてから半年ほどだが、期間を考えるとやはり数は少ない。
また規定を抜きにして、キャラ制作のみでも敷居は高いとされていた。
UFのキャラは『素体』『サイズ』『ステータス』『技』『特性』の5つの要素で構成されている。
まず『素体』は基本となるキャラ。UFには基本操作キャラ10体、隠しキャラが2体存在するが、計12体の中から基本となるキャラを選択する。キャラクター製作者の中には自分でグラフィックを書く人もいるらしいが、だいたいは素体となるキャラクターのグラフィックをそのまま使用している。
2つ目の『サイズ』はS,M,Lの中からキャラクターのサイズを選択する。サイズは当たり判定や技の威力、ステータスの上限値などにも影響し、三択ながらも重要な項目となってくる。
3つ目の『ステータス』。これは名前の通りキャラの能力を決めるものだ。最初に与えられるポイントを使用してステータスをいじっていくのだが、サイズや特性によって初期ポイントやステータスの上限値が変わってくる。強さに直結する項目であり、各々個性を出せる項目でもある。
4つ目は『技』。正直リリースして半年たった今でも、ここをいじる人は少ないらしい。というのも、素体キャラに設定されている初期技があまりにお手本のような配置だから、いじる必要がほとんどないといった方が正しい。ただ設定する場合は専用のスキルポイントを消費して、それを超えない能力を持った技を設定できる。やろうと思えばエフェクトや効果音までいじれるらしい。
最後に『特性』。これはキャラと同じく12種あり、たとえば自動回復や食いしばり、3ラウンド目強化などの効果をキャラに付与できる。12キャラにデフォルトで特性が設定されているが、付け替えが可能である。まあ名前の通りキャラの特性を伸ばす効果のものが設定されているので、ここもいじらないのが無難と言えば無難なのかもしれない。
「ふぅ……」
で、やっかいなのはこれら5つの要素が結構リンクしており、あちらを立てればこちらが立たず……みたいなことが実際にキャラメイクしていると高頻度で発生するのだ。だからこそ、未だに審査を通ったキャラが32体なんてことになってるんだろうけど、
「やっぱり大した奴だよ、真白は」
そう言うしかなかった。
僕も負けてられん。金曜日までに少しでも理解を深めるために、再びキャラ作成ツールに向かう。ちょうどダウンロードも終わったし。
「これは明日も眠いだろうなぁ」
と思いつつも、ワクワクする心は抑えられそうにもなかった。
前回長かった&更新速度維持のため、今回からできるだけ刻んでいくかもしれません。