入学式にて
「・・・ですから、皆がこの学園で健やかに成長し、自分だけの翼を持つことを私は願っております。」
校長の締めの言葉を、ぼんやりと聞きながら私はこれからの攻略チャートを考えていく
まず、私の置かれた状況についてだ。
吹雪市に越してきた私の年齢は七歳、ゲームの設定によると一年後に私は両親の転勤によりまた、
引っ越すこととなる。幼少の「優子」は、この一年で攻略キャラ全員と出会いゲーム本編のフラグを立てていくこととなる。
春に、「翼」に一目ぼれされ
夏に、「夏彦」とまた会う約束をし
秋に、「一葉」の将来の夢を応援し
冬に、「ダヤン」を介抱する
と、いったスケジュールだがこれではハーレムルートにはとてもじゃないが間に合わない。
素早く全員に出会い、私に惚れてもらい、バットフラグをへし折らねばならない。
・・・不可能だと思うことだろう、元のゲームに攻略法があるならいざ知らず、存在しないルートを
しかも、ゲーム本編ではなく、僅かな回想シーンと、設定資料集にしか情報がない幼少期からのスタートだ
何が起こるかわからない中、詳細に組んだチャートを作り、実行するというのは。
しかし、チャートはもう「読んで」いる。そう、私にはとてつもなく頼もしい味方がいるのだ!
「夢小説」が!!!
皆さんは、「夢小説」と言うものをご存じだろうか、わからないなら「二次創作」でも良い。
簡潔に説明すると「原作で無かった出来事を描写して、個人もしくはみんなで楽しむ事」だ。
「えー、原作に書いてある事が全てでしょ?」と言う人がいるかもしれない、
はい、仰る通りです。
が!だが!
それが納得できない人々が大勢いるのも、また確かなのだ。私とかね。
特に「奏音」のプレイヤーはその傾向が強かった。それまで乙女ゲーと言えば、
ハッピーエンドが当たり前と思っていた乙女たちは文字どおり、阿鼻叫喚となり数日足らずで、
ゲーム本編後の幸せいっぱいなキャラ達のssやイラストで溢れかえり、その傷ついた心を慰め逢っていたのだが、あるプレイヤーがこんな一言を発する。
「これって、選ばれなかった子はどうなるの?」
・・・!なん・・だと・・・
そう、このゲームはルートを進むと、主人公は攻略対象に掛かりきりになり、他のキャラに手を出すことが
出来なくなるのだ。当たり前だろビッチかよと、ツッコミを入れられるだろうが、私たちはこう思ったのだ。
一途なことは本当に正しいのか?そうすると死ぬのに?
あんなに仲良くして、自分に好意をもっている子を無視するの?
それってホントに誠実なの?
と言うか、幼少期にフラグ立てたのお前じゃん責任とれよ、と。
主人公が出来ないなら、私たちが幸せにして見せる
まあ、兎に角。この界隈では『わたしがかんがえたさいきょうのはーれむるーと』が滅茶苦茶流行ったのだ。
どんなにクソ文でもハッピーハーレムであれば褒めそやし、
どんなに上手かろうと一人だけを選び、選ばれなかったキャラがいると、罵倒の嵐、
即、学級会が開催される。
と、他ジャンルのファンのからは「狂人の集まり」「毒沼」と言われる、かなり特殊なルールが出来てしまったのだ。
私は、そこに十歳からどっぷりとつかっていた。
素敵なお姉さま達が書いた逆ハー小説を読み漁り、感想を送りまくり、母に無理言ってコミケに連れていってもらい逆ハー同人をおこずかいの範囲で買い漁った。
大人になった今でも逆ハーは至高の存在だと思っている。二次創作を書く時もでも必ず逆ハーにする。
何が言いたいかと言うとこれから私は、その「逆ハー小説」を元にこれから彼らを攻略していこうと
思っているのだ。そして、多分これが一番安全で確実なやり方だ。
この幼い体で、今から情報収集して行動を起こすのは、時間的にも体力的にも不可能だ。
そもそも私には、緻密なチャートをくみ上げる知能など無い。大学時代もゲームばっかやってたんだ舐めるな。私より遥かに頭のいい人が、ゲームと設定資料集、ライターへのインタビュー記事などを読み込んで書き上げたものの方がよっぽど信用できる。
・・・さて、始業式はもう終わった。
ママとパパに手を引かれて歩く。私は周囲を見渡す・・・いた!
「ちょっと、優子!?」
ママの呼ぶ声が聞こえるが無視して彼に走りよる。
母親に手を引かれている彼はこちらを見てぽかん、とした顔をしている、
構わず呼吸を整えると、意識してとびきりの笑顔を作る。
「ねえ!しみず君だよね、私、ゆうこ!サッカー上手なんだね!」
さて、どうでるか。