これから
「おお、やっと起きたか、優子」
と、テーブルに座って新聞を読んでいた『ピンク色』の髪をした男『パパ』が顔を上げる。
「もう、ホントねぼすけさんなんだから。さ、早くご飯食べちゃって。」
『ママ』はそう言いながら『お腹のあたりまでしかない背の』私の『ピンク色をした』頭を優しくなぜてくれた。
「・・・うん、おはよ。パパ、ママ」
・・・間違いないここは「奏音」の世界だ。
トーストにスクランブルエッグ、コーンスープといった朝食を食べながら考える。
現実世界にこんな鮮やかなピンク色した髪をもつ人なんていないし、染めていてもこうはならないだろう。
何より顔がゲーム画面に出てきたのとそっくりだ。「奏音」を何十回いや、何百回とプレイした私が間違えるはずがない。あの子供部屋も中盤回想シーンに出てきた主人公の子供部屋と一致している。
訳が分からないが私は、「奏音」の主人公に成り代わってしまったのだ。
「それじゃ、ママー、優子ー行くぞ。」
「はーい」
「忘れ物はないでしょうね?優子」
「ないよー」
パパの運転する車でママと一緒に学校まで行きながら考える。
・・・これからどうしようか?
「奏音~運命の君~」は私が小学生の時に発売された恋愛シュミレーションゲームだ。
季節は冬、両親の海外出張により小学生の頃少しだけ過ごした町「吹雪市」の親戚の家に居候することに
なり、私立「翼学園」に入学した。季節外れの転校生、高校二年の、遊座 優子(名称変更可能)が幼馴染を含めた四人の攻略キャラ(隠しキャラあり)と日々を過ごし恋愛し、付き合う。
と言った乙女ゲーにありがちな設定だが、この作品の肝は何といっても「泣ける」だ。
このゲームは乙女ゲーが出来た最初期に泣きゲーとして発売され話題となった。
まず、先輩で幼馴染の「翼 華音」
名前の通り翼学園の理事長の孫で、生徒会長、そして主人公と居候することになる親戚で、
主人公は彼と一つ屋根の下で暮らすことになる。
性格は典型的な俺様ツンデレキャラだが、転校初日からなにかと主人公にちょっかいをかけ、ツンツンしながらアプローチをかけてくると言う設定盛りすぎなキャラだ。
しかもメインルートで、隠しキャラも彼と関係がある。
しかし、注目するところはそこではない。なんとこの奏音は、
ハッピーエンド以外では自殺する、のだ。
他のキャラのエンディングを迎えると死に、酷いときはルートに入っただけで死ぬ。
自分のルートに入ってもハッピーエンドフラグを立てないとダメ、死ぬ。
メンヘラかよぉ!!と思う所だがまあ、ちゃんとした、主人公以外どうにもできない理由がある。
次は同級生の「清水 一葉」
明るくてクラスの人気者で、サッカー部のエースだ。
主人公と隣の席になり、そこから徐々に仲良くなっていろいろフラグを立てると、サッカー部のマネージャーとなり、彼と一緒に全国大会に向けて頑張る!と、いった青春系のストーリーだ。
特に問題がないように見えるが何とこの一葉は、
シナリオ序盤で交通事故にあい下半身不随となる。と言うか彼のルートに入っても入らなくてもなる。
ハッピーエンドでは二人の愛の奇跡により足が動くようになるが、それ以外だと一生障害を抱え生きていくこととなる。また、他のキャラルートでも交通事故にあったことがほのめかされシナリオから消える。
どうしろと・・・と思いたくなるが大丈夫になる、とゆうかする。
次は後輩の「関口 夏彦」
小柄で愛くるしいしぐさ、儚げな笑みの図書委員だ。
主人公は、共通シナリオで図書委員となり、そこで登場する。
フラグを立てると本に囲まれながら穏やかに彼と友情そして恋心を育んでいくと言った
ほのぼのとしたストーリーになる、と思うだろうが何とこの夏彦は、
図書室に憑りついた地縛霊である。もう生きてすらいない。
ハッピーエンドでは、実は病院に入院しており、病気により昏睡状態だったことが判明、意識が戻りまた学園に通うことができるが、それ以外では主人公に別れの言葉を残して消滅してしまう。
他のキャラのルートでは彼はそのまま地縛霊として存在し続けることがほのめかされている。
もうダメだろこれ・・・と思うが大丈夫、もうプランは決めてある。
最後に、「犬養 ダヤン」
彼は、学園には登場せず、主人公が町を散策していると登場する。
影のあるクールな不良系と言ったところで、主人公を遊びに誘っては、壁ドンやら頬にキスなどをの
情熱的なアプローチを仕掛けてくる。この作品のセクシー担当である。
彼に翻弄されながら惹かれあう・・・といったストーリーかと思いきや何とこのダヤンは、
主人公が幼いころに世話した野良犬である。もう人間ですらない。
しかも、ハッピーエンドでも寿命が尽き死亡、バット・他キャラのルートでは
一人で野垂れ死にする。と、言った八方ふさがり状態である。
もうダメだ、お終いだぁ・・・
「・・・いや、まだ道はある」
「?、優子何か言った?」
「なんでもなーい」
ママの怪訝そうな顔から眼をそらす。私は本当の優子ではない、そして、これからもこの人たちを
騙して、利用していくことになるだろう。
なぜなら、これから私は、逆ハーレムルートが存在しない「奏音」で彼らを愛し、
ハーレムを作ろうとしているからだ。
・・・まっててね、みんな。
心の中で私はそう呟き微笑んだ。