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おどる、おどる 「9」

おどる、おどる「9」

翌朝は室内が明るくなってきたので自然と目が覚めた。7時前だが部屋を見回すと高島さんがいない。

シャツを着替えて小屋を出ると近くのベンチで本を読んでいる高島さんを見つけた。

近寄って「おはようございます、高島さん。早いですねー」声を掛けると「おう泉か、おはよう。少し前に目が覚めたんで本を読んでたんだ、朝は気持ちいいなー」「で、何の本ですか?」「これはエッセイ集だよ。」「ふーん、エッセイって随筆みたいなもんでしょ?オレはあんまり読まないけどおもしろいですか?」「俺はエッセイをよく読むなー、いろんな人の考え方が分かるから、なるほどと思うことも多いし、共感することもある。泉もいろいろ読んだほうがいいぞ」そんな話をしていると隣のバンガローから女子達がタオルを手に現れた。「あら、高島君早いのねー、おはよう。みんなで顔を洗ってくるから、そのあとで朝食の支度するからもう少し待っててね」上村さんがボサボサ頭で少し恥ずかしそうに言う。俺は「アサメシってメニューはなんですか?」と、聞くと池口さんが「メニューって言っても今朝は手抜きで昨日炊いたご飯でおにぎり、あとは余分にゆでといたジャガイモと卵の味噌汁だけよ、すぐできるわ」そう答えると女子3人組はシャワー小屋に向かって行った。


高島さんが「泉、俺たちは黒田達を起こして散歩にでも行こうぜ」「はい、今ならあんまり暑くないからいいですねぇ、じゃ二人を起こしてきます」

バンガローに戻ってみるとちょうど二人とも起き出したところだった。「平山さん、黒田、目が覚めましたか?高島さんが散歩に行こうって外で待ってますけどどうしますか?」

平山さんが「おう、行こうぜ、顔を洗ってから行くからちょっと待ってろ」黒田もタオルを持って立ち上がった。

みんなで顔を洗ってから松林のほうへ歩き出した。ちょうど海水浴場と反対の方向に歩くと松林が見えてきた。セミの大合唱もだんだん大きく聞こえる。平山さんが「こっちで鳴いてたのかー、さっきセミの声が聞こえるなーって思いながら目が覚めたんだよ。そうだよな、海岸にセミがいるわけないもんな」俺たちが泊まったバンガローの周りには海水浴場と海の家、それにこの松林しかない。あとは民家もなかったし舗装されてない駅のほうへ向かう小道しかなかった。

いきなり平山さんが見上げるようにして「カラマツの歌って知ってるか?北原白秋の詩だけど」

「なんだ?歌謡曲じゃないよな、聞いたことないなー」高島さんが返事をする。

「北原白秋が大正時代の作家で短歌や詩を書いたって事は知ってるだろ?何かの本で(からまつ)って詩を読んだんだけど、なんかモノ寂しい感じがして、グッときたんだ。それからしばらくしてラジオで誰かが歌うのを聞いたんだ。あー、イイ歌だなーって思ったのを今思い出したんで言ってみただけだよ」

俺は「平山さん、詩なんか読むんですかー、すごいですね。」感心して言うと

「詩ぐらい読むさ、高島は知ってるだろうけど、こう見えて俺は詩も書くんだぜ。泉、おまえも書いてみたら?簡単だぞ、思ったことを書けばいいだけだから、なっ」

そう言われていきなり書ける訳でもないが、みんないろんな事をやってるんだなーと俺は感心してしまった。


しばらく歩いてからバンガローに戻ると女子の小屋の前に片岡がいた。

「おかえりなさーい。支度ができたんで待っていました。いらっしゃいませ、今朝は私達のバンガローで用意したんで皆さん、手を洗ってから来てください」相変わらず訳の分からない話し方だ。

平山さんが「わかった、すぐ行くよ」

タオルを取りにいって手を洗ってからバンガローに行くと女子全員が揃っていた。紙皿に白い握り飯が二つずつ、味噌汁も湯気を立てている。真ん中に置かれた紙皿にはキュウリの漬け物が乗っていた。

上村さんが「はい、おはよう。おにぎりは余分に作ったから足りなければまだあるから、海苔はここにあるから自分で好きなだけ切って巻いてちょうだい。味噌汁の具はジャガイモと卵だけ。じゃ、いただきます」「いただきます」全員で唱和してから食べ始めた。

黒田が「あっ、オレのおにぎりは梅干しが入ってた、全部同じですか?」

「昨日、隣のグループから焼き鮭をいただいたから一部は鮭入りよ。もうどれだか分からないけど・・」池口さんが教えてくれた。

食べ終わってから俺と黒田でゴミをかたずけて鍋を洗ってから歯を磨いた。今日は昼迄ここにいて帰ることになっていた。


昨日より天気が悪く、薄曇りだが雨が降り出すような感じもしない。ここにいる限り海岸に行くしかないが水着に着替えたのは俺と平山さんだけだった。

またパラソルを借りて海岸に陣地を作った。平山さんと少し海に入ったが他のメンバーはパラソルの下で本を読んだり、話をしていた。俺も体が乾いてから小説を読み出した。

昼近くなると平山さんが「そろそろ片付けて帰ろうぜ。昼飯は東京駅に戻ってからでいいだろう」

その声を合図に皆で片付けを始めた。パラソルを返してバンガローに戻って荷物の整理をしてから着替えた。

バンガローを出て7人でゾロゾロと駅に向かった。俺の荷物は軽くなったが持たされたバッグの中でガラガラと鍋のぶつかる音がして少しカッコ悪いが仕方ない。

俺は電車に乗るとまた小説を読み出したが、気がつくと眠っていた。

2時頃に東京駅に着いて近くのラーメン屋で食事をすると現地で解散ということになった。

俺はみんなが色々な事をして、色々な考え方があることを知った。俺も少しは真面目に色々考えてみようと思った。


近くの駅で黒田達と分かれて俺は最初に本屋に行った。エッセイ集だとか詩集だとかを見つけてパラパラとめくってみたがどうもピンとこない。どうしても普段読んでいるミステリーに目がいってしまう。今度一番近くの市立図書館でエッセイと詩の本を借りる事にした。次にレコード屋を覗いてみた。最近はやっている歌謡曲のシングルレコードがたくさん並んでいる。ビートルズのレコードなんかも洋楽のコーナーに色々合った。フォークソングのコーナーもあった。なるほどみんなはテレビやラジオで聞いて気に入った曲を買うのか。

次に電気屋に行ってみた。一角にレコードプレーヤーが色々並んでいる。俺は一人っ子で兄貴なんていないから、どうしても友達からの情報が頼りになる。父親に頼めば3万円くらいのレコードプレーヤーなら買って貰えそうだ。それからレコードを買えば好きなときに好きな歌手の歌が聴けることになる。

夏休みは忙しくなりそうだと思いながらバスに乗ってうちに帰った。



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