おどる、おどる 「8」
おどる、おどる 「8」
水辺に広げたビニールシートの上の荷物をまとめて籠に入れる、空き瓶とゴミを一袋にまとめた。パラソルはたたんで黒田が担いだ。俺はエアーマットの紐を掴んでズリズリと引きずりながらみんなの後をついていく。並んで歩くのは同級生の片岡三千子だが普段から無口で今日も話そうとしない。俺は「片岡、海はどうだった?楽しかった?」と聞いても「うん、海はあんまり・・でも面白かったかなと思う」どうもはっきりしない。いつもこんな感じなんでどうも会話が続かない。すぐに海の家に着いたのでエアーマットを返してバンガローに向かう。そのままみんなに遅れて片岡と歩く。突然、片岡が「あの、泉君、私、自分でもうまく話が出来ないと思ってるんだけど、変なオンナだと思ってるでしょ?」珍しく自分から話し始め出した。「いや、別に変なオンナとは思ってないけど・・」「私、みんなみたいにすぐに思ったことをうまく伝えられなくて、考えている間にますます話し出せなくなるの。それで…」なるほどペースが合わないだけなのか、俺は片岡に嫌われているんじゃないかと思っていたが、どうも特別にいやがられている訳ではなかった。「そーかー、でも新聞部に入ったくらいだから文章を読んだり書いたりするのは嫌いじゃないんだろ?」少し返事を待つと「私、いろんな本を読むのは大好きです。それに日記というか、エッセイというのか毎日少しずつ書いてます」「フーン、俺も海外物のミステリーとかよく読むけど文章はあんまり書かないなー。どっちかというと落書きみたいな絵は書くけど、今度片岡の書いたモノ読ませてよ」「エーッ、それはちょっと、また今度、いつか書けたら…」たしかに日記を見せろと言われて差し出す人はいないだろうからこの返事は当然なんだろう。俺の聞き方が悪かったと思った。
バンガローに着いて、着替えを取りに小屋へ戻ってからシャワー小屋で着替えた。
外で全員がそろうと池口先輩が「あー、シャワーを浴びたらさっぱりした。でもだいぶ日に焼けちゃったみたい。まだ体が中から熱いみたいねー」上村先輩も「そうねぇ、きっと何日かしたらみんな真っ黒になるわよ。それよりそろそろ夕食の支度をしなくちゃね。泉君、黒田君、カレーライスの準備はしてあるけどサラダとスイカが欲しいわね。駅の近くに八百屋さんがあったから買い出しに行ってきてくれる?」俺は「はい、いいですけどサラダって何買えばいいんですかー?」聞くと平山先輩が「なんだっていいんだよ、レタスとかトマトとかタマネギとか生で食えるもの適当にまかせるから」黒田が「わかりました、おまかせください。俺がすばらしい食材を手に入れてきます。泉、行こうぜ!」
空のリュックを背負って俺は黒田と駅のほうに向かった。しばらく歩くと駅の手前に八百屋を見つけた。いきなり黒田が「こんちわー、この先のバンガローにきた7人組なんですけど、サラダ作りたいんでサラダセットください。あと冷えたスイカもお願いします」俺はあきれた。黒田の奴、何がおまかせくださいだ、丸投げじゃないか!冷えたスイカなんて売ってる訳がないだろう。店のおばさんが「サラダセットなんてないよ。レタスとキュウリとタマネギ、トマトくらいでどうかね?」「はい、それでいいです。あと冷えたスイカをひとつ」奥で話を聞いていた親父さんらしき人が「スイカはそこにあるだけだよ。あんたたちはあのキャンプ村から来たのか?おいキョウコ、冷蔵庫にウチで食べるスイカが入れてあったろ、あれを出してきな。学生さん、スイカは500円にまけてやるよ。特別サービスだぞ」俺は「ありがとうございます、無理いってすみません」頭を下げた。
こうして俺たちは野菜と冷たいスイカを手に入れてバンガローに戻った。
調理場に行ってみるとカレーの匂いがする。上村先輩が「あー、お二人ともご苦労様。ご飯も炊けたし、カレーもそろそろできあがるわよ」食材を差し出しながら黒田が「はい、サラダにいいモノ買えたし、スイカも特別に冷えたのを手に入れました」「じゃ、スイカは流しに水をためて入れときましょ、誰も持っていかないと思うけど」俺は「マジックがあったと思うから7人の名前書いときましょう。これなら盗まれないでしょう」池口先輩が「じゃ、サラダ出来たら持って行くからバンガローで待ってて、平山君たちもその辺にいると思うわ」
バンガローに行ってみると二人の先輩達は横になって雑誌を読んでいた。「ただいまぁ、買い出しに行ってきました。もうすぐカレーの準備ができるって上村さんが言ってました」俺が言うと平山さんが「おう、ご苦労、さすがに思い切り遊んだからハラ減ったよなー」むっくり起き上がりながら言う。
しばらくすると池口先輩が現れた「おまちどおさまー、支度が出来たからみんなで取りにきてー」俺たちはサンダルをはいてゾロゾロと池口先輩の後について調理場に向かった。
今度は池口先輩と並んで歩くことになった。池口先輩はいつもニコニコして小さな声でなにか歌っていることが多い。今も何か歌っている。池口先輩に「よく歌ってるみたいですけど、なんの歌ですか?」聞くと「あらっ泉君、聞こえてたでしょ?私は日本のフォークソングが好きなの、特にプロテストソングや、反体性派の曲がスキなの。興味あるならLPレコード貸してあげるよ」なるほど、俺はラジオやテレビで音楽を聞くことはあるがレコードプレーヤーを持っていない。帰ったら母親に頼んでプレーヤーを買って貰おうと思った。
7人揃ってカレーライスとサラダを食べた。スイカを切ってみんなで食べながらいろんな話をした。食後の片付けは俺と黒田で調理場でやった。と、言っても紙皿と割り箸、スイカの皮を捨ててスプーンを洗っただけだ。
暗くなってきたので水を入れたバケツと花火を持って海岸に行った。昼間と違って人影も少なく海に向かってみると何か恐ろしいモノが這い上がってくるような気がしてゾクゾクする。
片岡も同じような気がするのか俺の横にピッタリ寄り添ってくる。俺は片岡に顔を近づけて「おい、片岡、あんまりくっつくなよ、誤解されるじゃないか」小声で言うと「だってなんだか海を見てるとなんか出てきそうで気味が悪いじゃない、私こういうの苦手なの」いきなり、すぐ横でシュワッ、パーンと音がした「ひえっ、な、な、な」「イヤー、だめー」思わず抱き合うような形になってしまった。横で高島さんが「泉、なに騒いでんだよ?1個目の花火にやっと火がついただけだろ?次いくぞー」池口さんが「泉君、三千子ちゃん、仲がいいのねー、見ちゃったわよー」慌てて「池口さん違いますよー、なんか気味が悪いっなって話してたらいきなり明るくなって音がしたから…なー、片岡?」「はい、びっくりしちゃって。別に私、抱きませんでした」ますます話が怪しいほうに向かってしまった。
急いで池口さんに「池口さん、こういう時に歌いたくなるのって何の歌ですか?」「泉君、うまいこと逃げたわね。でも、そうねー、今なら五つの赤い風船の(遠い世界に)かなー?海を感じると海の向こうの別の国に行きたいなーって気がしてくるわ」何かで聞いた曲のような気がするがイメージが湧かない。
人気のなくなった真っ暗な海の家のすぐ横にろうそくを立てているが時折、風に煽られて消えてしまいそうになる。俺も花火を取り出して火を付けようとしたがまたすぐそばで光が走りシュルシュルパーンと音がする。俺は「平山さん、やめてくださいよ。こんな近くで。恐いじゃないですか」「いいじゃないか、俺は小さい頃からネズミ花火が好きなんだよ、どこに行くか分からないところがこれからの俺の人生みたいで…ほら、泉も火を付けろ!」
花火に火を付けると何十秒か明るくなって途中で赤から緑と色が変わるものもある。シューとかパチパチとか音がするが、音と光が消えるとまた回りは闇に包まれる。花火と祭りのあとはいつも何かもの悲しい気持ちになる。最後に線香花火をみんなでやって花火大会は20分ほどで終わった。
バンガローに戻ると俺もみんなも昼間の水遊びで疲れてしまい、あっという間に眠りについてしまった。




